「なあ、コンビニ寄ってかねー?」
暑い暑いと先程から呪いのような声ばかり聞こえていた隣からの提案は、久しぶりのそれ以外の会話だった。
「お金ないもん」
「僕も」
「じゃあ三人で何か買って食おーぜ」
「あんたもないんじゃん」
しかし放課後の小腹がすく時間であるし、今回は大輝に賛同してコンビニに向かう。
夕方とはいえ未だ陽が高い。夏の厳しさは照り付ける太陽が嫌と言うほどに教えてくれている。
揺れるアスファルトをとらえると、視覚からも熱気を感じるようだった。そんな最中のコンビニはプチオアシスと化した。
三人してシャツの胸元を掴んでぱたぱたと風を送りながら、三者三様にコンビニ内を物色する。
幼馴染みとは言え私たちの思考やら嗜好やらは全く合わなかったり、妙な所で合ったりする。
だから今回の様に三人一緒にものを買う場合、意見が一致することは稀だ。もう幼い子供ではないのだから、ある程度妥協と譲歩をするようにはなったけれど(主にテッちゃんと私が)。
「おい、これにしよーぜ」
「青峰君、開けっ放しにしたらダメですよ」
「だって冷たくて気持ちー」
「アイスが溶けちゃいますよ」
さっきまでバスケの雑誌を立ち読みしていた二人は、今度はアイス売り場に移動していた。
「えー、それぇ?」
「おう、はんぶんこ出来るぜ」
大輝がはんぶんこ、だなんて言うのはなんだか可愛らしいというか、似合わないというか。そして手に持っているのは、チューペット型の容器を二つに別けるタイプの氷菓だ。
「半分、じゃダメじゃん。あたしら三人いるじゃん」
「ジャンケンで負けた奴はヘタでいいじゃねーか」
「やだよ」
「そんなこと言ってると青峰君がヘタになりそうですよね」
「よしジャーンケーン」
「すんのかよ」
*
「…………」
「だっせ」
「見事に一人負けでしたね」
一発勝負、三人いれば少なくともあいこが九通りはあるというのにどうしてこうなった。
大輝がにやつきながらヘタを差し出してくる。これを素直に受け取るのはどうやったって釈然としない。
私は大輝を無視してそっぽを向く。すると目の前にす、と差し出される氷菓はテッちゃんの食べさしだった。
「ヘタじゃ余りにも可哀想ですから」
同情という名の優しさを噛み締めて一口貰おうとすると、暑苦しさのため一本に結ってある後ろ髪を引かれる。
「いたいっ」
十中八九犯人に違いない大輝に噛み付こうとして、振り向き様に氷菓を口に突っ込まれた。
口に広がる懐かしいような甘みと熱が溶けるような冷たさに、思わず目を細めた。
一度口から氷菓を抜き取るとくわえてから歩き出す。
「誰がやるっつったよ、寄越せ」
「僕の分もいいですよ」
「ん」
一番早くに大輝の分がなくなると、テッちゃんのを寄越せと始まって、食べ過ぎた大輝を二人で怒って。
少しだけ賑やかな帰路は、いつもと変わらない風景だけど、いつもと変わらないから愛しいなと思った。