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最期にお前は満足げに笑った

初めからこのことが
解っていたかのように

なぁ、そうなんだろう?


お前は初めから俺に――…。



◆◆◆


 風の音がこだまする。
 右手には幾多の黒ずみの残る己の剣。
その先には、まだ赤々とした水がうっすらと滴っていた。

 ――ザギ。

 この血液の持ち主だった人間。
 いや、あの状態をもう人間というべきだったのか。

「くそ…っ」

 忌々しげに剣の持ち主…もとい、ユーリ・ローウェルは剣先に付着していた血液を飛ばし、獲物をしまった。
 同時に舌打ちをかます。

「ザギ…哀れなやつね」

 ポツリとリタがそんな言葉を漏らした。
 哀れ。
 確かにそうだったのだろう。ザギは最期まで哀れな奴であった。
 しかし、その暴走の原因が己ということを考えると、ユーリは胸糞悪い気分になった。
 何故、あんなにも己に執着をしたのか。

 しかも、だ。
 奴は…ザギは、最期に笑っていた。
 それは嘲笑ではなく、満足げな笑い。穏やかな…そう、落ち着いた微笑みだったのだ。

これじゃあ、まるで――…。

 ユーリがそんなことを考えていると、レイヴンが小さく声を漏らした。

「彼は…青年に殺されたかったのかもね。敵同士という間柄。唯一、自分が見つけた対等…それ以上の力を出せる相手にさ」

 レイヴンの一言で、ユーリはハッとした。

――嗚呼、そうか。
あの笑みの意味は…………。

「……馬鹿か、アイツは。他にも選択肢なんて山ほどあっただろうっていうのに!」

 城で初めて出会って、ようやく同等以上の相手を見つけたのに、それは敵同士。
 だったらいっそ…、そうだったのだろうか。
 初めからザギは決めていたのかもしれない。

 いや、そうだったのだろう。
 最期の笑みの意味。
 あれは奴なりの目的の達成の意味。

「……本当に、馬鹿だ」

 力無い声でユーリは言う。
 ザギが落ちていった場所を横目に。

「馬鹿、が…」

 別に悲しい訳ではないはずなのに、何故か視界がじんわりと霞んでいた。




(俺に殺される気だったんだな)






(09/10/26)


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