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いつからか
言葉の意味が変わっていた


目の前の
太陽のような
この明るい女の子を

魔力を奪う為じゃなく
心から、


そう、
心から――




前がしい




 さんさんと太陽の照り付ける中、大量のおじゃまぷよとその中でゴミのように埋まり、転がっている銀髪の青年の姿がそこにはあった。

「……何でいつもいつも僕の邪魔ばっかりするのかなあ、君は」

 ぽつり、とそんな言葉が青年の上から降ってくる。
 その様子を謎の黄色い生き物と共に見ている黄金色の瞳を持った少女。
 青年を見下ろすその顔はとても呆れていて。

「いい加減にしなよ、シェゾ。だいたいそういう言葉は本当に好きな子に言いなよね?」

 そう、少女はシェゾと呼ばれた青年に言い放った。
 シェゾは黙ったまま、何も言わない。いや、言えないと言うべきか。
 大量のおじゃまぷよに押し潰されているせいで、思うように身動きもとれない。気を失わないようにするので精一杯らしい。

「そんなだから“変態”って言われるんだよ」
「………………」

 ――“変態”。
 その言葉を一番始めに言い放ったのは目の前の少女である。
 ことの始まりはいつのことだったか。もうよく覚えてはいない。

 目の前の少女が強い魔力を持っていた。だからいつものようにその魔力を奪おうとした。
 これまで、闇の魔導師であるシェゾには「負け」という文字などはなく、欲しいものは力付くで奪ってきたし、それがシェゾにとって当たり前のことであった。
 そんな状況が百八十度ひっくり返ってしまったのは、この少女を狙ってしまった為と言ってしまっても過言ではない。

 ――そう、シェゾは負けてしまったのだ。
 自分より年下、しかもまだ魔導師としては半人前の目の前の少女に、だ。
 さらに言うと、まったく歯が立たなかったというオマケ付き。
 これまで黒星続きで負けを知らないシェゾにとって、それは信じられないことであった。屈辱、そんな初めての感情がシェゾを支配したのである。
 フツフツと怒りが込み上げたシェゾは、その時勢い良くこう言い放ったのだ。

『お前(の魔力)が欲しい!』

 その回答が『変態!』だったというのは言うまでもない。
 去り際に『次はお前(の魔力)を俺のものにしてみせる』と言ったのが、さらに“変態”と言われる原因になったのだが。

 それからシェゾは少女と会う度、会う度に『お前が欲しい!』と言い放ち、ぷよ勝負を吹っ掛けていた。
 あまりにも会う回数が多い為、今度は“変態”だけではなく、“ストーカー”の称号を得てしまったのだが。
 はっきり言って、少女に出会ってからというものの、散々な目にしか合っていない。
 それでも「魔力の為――!」とシェゾは奮闘していたのだが、結果は悪くなるばかりで。始めはこんなはずではなかった、彼はそう思うことしか出来ない。
 気が付けば、シェゾの評価は『誰もが畏れる孤高の闇の魔導師』から『年端もいかぬ少女を付け狙う変態ストーカー』にまで転落していた。

 ……この温度差は如何なるものか。昔ならば、シェゾは闇の魔導師というだけで恐れ戦き、畏怖される対象だった。それが今となっては、ただの変人・変態、さらには不名誉な犯罪予備軍として人々に白い目で見られる。
 ここまで来たら半分は意地のようなものだったのかもしれない、とシェゾは思う。散々馬鹿にされ、詰られ、気が付けば不名誉なレッテルを貼られて。その汚名返上を、名誉挽回を、と。そのはずだった。はずだったのだが――。

『ねえ、僕とぷよ勝負するのそんなに楽しいの?』

 ある日のそんな何気ない少女の一言によって、シェゾは気付かされてしまったのだ。
 そう言われて、『楽しい』と心の底から思っていたということに。彼女の仕草や表情、それらすべてを見ることが嬉しく、気持ちが高ぶっていたことに。気が付けば、すべてを目で追っていたことに。また、他の表情が見たい、自分の知らない彼女を知りたい、そう思っていたことに。自分は闇の魔導師で、少女のような半人前魔導師とは真逆の存在で、年端もいかぬ子供だというのに。変態、ストーカーと誤解を生む言葉を散々言われ、勝負には毎度負け、プライドをずたずたにされたというのに。
 これでは、彼女が言っていたことそのままではないか、と。

 シェゾはその時、己の感情の正体を予期せぬ形で知ってしまった。


「……シェゾ、生きてる?」

 あまりにもだんまりしていたせいか、少女が少し心配そうにシェゾの顔を覗き込み、そう声を掛けてきた。
 彼女も彼女でシェゾを変態・ストーカーと言う癖に、時にこんな風に心配する。本当に変態・ストーカーと思っているのならば、こんなことなどせず、ぷよ勝負でボコボコにしたあとは捨てて置いていけば良いのに、とシェゾは思った。
 それとも、やはり彼女だからだろうか。何だかんだで優しいからか。嗚呼、まるでそれは太陽のような存在で――。


「――お前が欲しい」


 気が付けば、シェゾの口からはそう言葉が零れていた。
 もう何回言ったかは解らぬ、いつもの決まった台詞。ただ、そこにはいつもとは違う言葉の色を含んでいて。

「お前が、欲しい」

 想いが、溢れて。

「アルル、お前が――」

 アルル、と呼ばれた少女の肩が一瞬ビクリと震えた。
 もし、シェゾがおじゃまぷよに潰されておらず、身体が自由に動くものであれば、自然と少女を捕まえていたかもしれない。
 だが、シェゾはそんな大量のおじゃまぷよで身動きが取れない状態であったし、意識を飛ばさないようにするので精一杯で。

「…ば、“ばよえ〜ん”っっ!!!」

 最後に紡ごうとした言葉は、少女のその言葉と共に途切れて。

 シェゾの意識が途切れる直前、少女の顔が紅く染まっているように見えたのは夢か現か。

 もしそうであったのなら。
 もう一度、
 もう、一度――。





I want you.I need you.
I thirst for you.I love you.

(君にこの気持ちを。)


(12/01/31)
あいうえお題 配布》蘖




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