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街を歩いていたら突然肩を物凄い強い力で握られ、帝人は小さく悲鳴をあげながら振り返る。
そこには池袋最強と呼ばれる男の姿があり、帝人は非日常!という歓喜と自分は何かしただろうかという疑問になんとも言えない表情で首を傾げた。
静雄はただ帝人を上からじっと見下ろすだけで、何のアクションも起こさない。
そのまま一分程過ぎ、通行人も帝人と静雄を見てはこそこそと何かを囁きながら歩く。
埒が開かない、と仕方なく帝人から声をかける。

「あの、なんでしょう?」
「…お前、セルティの知り合いの…えと、竜ヶ崎?」
「竜ヶ峰です」
「ああ、それだ。悪い」

もしかして、ずっと名前を思い出そうとしていたのかと帝人は苦笑を浮かべ、一先ず静雄と向き合うように立つ。

「お前、今から暇か?」
「え?暇といえば暇ですけど…」
「そうか、よかった」
「?」

帝人がぼーっとしている間に手をとられ、そのまま腕を引かれる。
池袋最強と謡われる男と手を繋ぎながら歩いているという状況に、対処法が見付からない。
周りの視線が痛い。
だが、静雄はそんなものを気にすることはなく、ぐいぐいと歩いていく。

「あ、の…、何処へ?」
「ああ゛?」
「…いや、なんにもないです…」

帝人は鋭い目つきに身体をびくりとさせ、自らの行き先に不安を覚えた。
連れて来られたのは先週も正臣と共に来たデパートで、一体此処で何をするんだろうと怪訝そうな表情をした。
真っ直ぐに連れていかれたのはファンシーなケーキ屋さん。
帝人はこれと平和島静雄とか繋がらなくて、顔を引き攣らせた。
静雄は迷うことなくそのままその店へと入る。

「いらっしゃいませ!お一人様でしょうか?」

静雄はひょいと帝人を前へと出す。
かわいらしいウェイトレスの格好をした店員は、どうぞと席へと案内する。

「ご注文はお決まりでしょうか?只今キャンペーン中で、親子で入店されますと、ケーキが二人分無料となっております」

店員は帝人をじっと見た後、静雄へそう言う。
―え、僕もしかして静雄さんと親子に間違えられた?
私服だから仕方がないとはいえ、少しショックを受ける。
明らかに年上に間違えられたはずなのに、静雄はけろりとした顔で、店員に答えた。

「ああ、そのキャンペーンのでケーキ二つ、あと珈琲。お前は何飲む?」
「え?えと、オレンジジュースで…」
「はい、畏まりました!」

少々お待ちくださいませ、と頭を下げ、店員はメニュー表を持ち、違う席へと向かう。
離れたのを見計らい、帝人は静雄へと声をかけた。

「あの、もしかして僕を此処へ連れて来たのって…」
「ああ、ケーキタダだからな。此処のケーキ、他のとこよりちょっと高いんだ」

「ジュース代は払うから安心しろ」と言い、水を飲む。
帝人は苦笑しながら同じく水を飲んだ。

「あ、あと子供のフリしろよ。敬語は使うな」
「え?」
「親に敬語を使う子供なんて極一部だぞ」
「あ、ああ。確かにそうですね」
「だから使うなっつってんだろ」

暫くしてケーキが運ばれてくる。
うわあ、と目を輝かせていると、ウェイトレスに声をかけられ、帝人はぴくりと肩を上げる。
それを緊張故だと勘違いしたのか、微笑みを続けている。

「僕、いくつ?」
「え、えと…」

ちらりと静雄を見れば、じぃっと帝人を見つめていて、帝人はうっと表情を曇らせる。
首を傾げた店員に、帝人は出来るかぎりの満面の笑みを見せる。

「小学生!」
「そうなんだ、格好いいお父さんだね」
「うん、僕お父さん大好き!」

あはははは、ととにかく笑ってみる。
店員は満足したのか、ごゆっくりどうぞと去って行く。
ホッとして、ケーキに手を付ければ静雄はケーキを頬張りながら「大好き、か」とぽつりと呟く。

「す、すみません」
「なんで謝んだよ、ありがとな」

ぽんぽんと頭を撫でられる。
ちろりと静雄を見れば優しげな表情を浮かべていて、慌ててケーキに視線を戻した。
一口も食べていなかったそれにフォークを刺し、ぱくりと食べる。

「あ、美味しい…」
「だろ?」
「静雄さんはよくケーキとか食べるんですか?」
「ああ、まあな。また今度違うとこのも食わせてやるよ」

社交辞令だと思いながらもありがとうございますと言う。
後日、静雄がケーキの入った箱を持って帝人の家に訪れることになるのだが、帝人はそんなことは考えもせず、今このケーキを味わうことに専念した。


2010/9/10
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