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もぞもぞと身体を起こし、隣で眠っている帝人の身体を揺する。
身じろいだ帝人に微笑みながら、つむじに口づける。

「おはよう、帝人君」
「…ん、臨也…さん」

おはようございます、とふにゃりと笑う帝人に臨也も笑みを浮かべれば、帝人はバタンとベッドに倒れた。
臨也は一瞬の出来事で動きを止めたが、すぐに気を取り戻し帝人の身体を起こす。
頬に触れればとても熱い。
―…くそ、風邪か?玄関で待つのは止めさせないとな。
冷えピタや体温計を取りに、一旦帝人の元を離れる。
必要なモノを取って帝人のいる部屋へ戻れば、帝人がベッドから降り床に這いつくばっており、臨也は慌てて身体を持ち上げベッドへと戻す。

「帝人君、何やってんの」
「だって、臨也さんが、」

臨也さん臨也さんと何度も呼ぶ帝人の額に口づけ、そこに冷たいシートを貼る。
「ずっと側にいてあげるから」と囁けば、帝人はじっと臨也を見つめ、布団に包まった。
布団の上から身体を撫でてやれば寝息が聞こえてきて、ふうと吐息を零す。
そして携帯を取り出し、助手に電話を掛けた。


「で、早朝出勤させて用件は何?」
「これ見てわからないかな?帝人君が風邪ひいちゃってさあ、俺と離れたくないって言うもんだからさ、代わりにお粥作ってあげて欲しいんだ」
「…はあ。最近の貴方、本当に気持ち悪いわね」
「彼のためなら本望だよ」

波江は再度溜息を吐くと、下へと降りて行った。
こういうとき波江を雇っておいてよかったと思うなあ、と臨也は熱にうなされている帝人の頬を撫でる。
いつの間にか眠っていたらしく、波江に蹴り起こされた。

「はい、後は自分でやりなさいよ」
「あ、波江!あと風邪薬持って来て」
「……」

下に取りに行った波江は、箱を臨也に投げ付けまた下へと戻って行った。
何怒ってるんだろ、と臨也は呑気なことを考え、帝人を起こす。

「帝人君、波江がお粥作ってくれたから、食べて」
「…僕、」
「何か食べないとお薬飲めないよ」

蓮華で掬い、息で冷ましてから差し出せば、帝人は舌でそれをぺろりと舐め、小さく悲鳴を上げた。

「帝人君?ごめんね、熱かった?」
「塩辛い…」

臨也はまさかとそれを口に含むが、塩気の多さにティッシュにそれを吐き出し、「波江!!」と叫んだ。




「……ぅ、あ…」
「…熱、下がらないな」

あれからお粥を作り直し、風邪薬を飲ませたのだが、一向に具合が良くならない。
寧ろ悪化しているのではないだろうか。
熱をもう一度計ってみれば、39度にまで上がっており、ぎょっとする。

「…とにかく明日まで待とう」

そう自分に言い聞かせ、帝人の側で寄り添うように眠る。
だが次の日、臨也は帝人の咳込む音に目が覚めた。

「帝人君…?」

目を開けた瞬間目に入ったのは、帝人が胃液を吐き出す姿で慌てて背中を擦る。
落ち着いたところでシーツを替え、ナカには染みていないことを確認し、またベッドの上に寝かせる。
「臨也さん、ごめんなさい」とうなされるように何度も呟く帝人に、体温計をいれる。
熱は40度にまで上がっており、血の気を引かせた。

「病院…は駄目か。…じゃあ、」

腐れ縁の顔を思い出す。
だが、それをすれば帝人は間違いなく元いた処へ戻される。
それは帝人が臨也の側にいることはなくなるということだ。
臨也は苦しむ帝人の顔を見、汗だくの頬に手を添える。

「……迷ってる暇はない、か」

帝人を抱き上げ、タクシーを拾い池袋にある闇医者を営んでいる新羅の元へと向かう。
インターホンを連打すると、新羅の声が聞こえてきて、腹を据える。
だが、最悪なことはそれだけじゃなかった。

「…帝、人?」
「ッシズちゃん…」

なんで此処にいるんだと口にする前に、腕の中にいた帝人を静雄に引ったくられる。
体温の高さに気づいた静雄は、新羅の元へと連れていく。
臨也は一連の動作を停止した状態で見つめていたが、靴を脱ぎ、中へと向かう。
白衣にエプロンをつけた新羅が帝人に聴診器を宛てて心臓の音を聞いていた。

「…ああ、安心していいよ。ただの風邪だ。だけどちょっと体温が高めかな。まあ薬飲んでおとなしく寝ていれば治るよ」
「そうか…」
「それにしても、臨也が帝人君を見つけてくれたんだよね。愚痴っていた割に、凄いじゃないか」
「…別に」

様子の違う臨也に違和感を覚えながらも、新羅は臨也を純粋に称賛した。
静雄は帝人の頭を愛おしそうに撫でていたが、臨也はそれが気に入らなかった。
―帝人君は俺のなのに、触るな、触るな、触るな!
すると、帝人はうっすらと目を開く。
静雄にとって久しぶりに聞く帝人の声。
だが、それは残酷なものだった。

「だ、れ…?」
「…え?」
「い、ざやさん…、臨也さん、」

何度も臨也さんと呟く帝人に、静雄は動きを止める。
隣から手が静雄を通り越し、帝人の頬に触れる。

「俺は此処だよ、此処にいる」
「臨也さん…」

ふわりと微笑んだ帝人に、静雄だけではなく、新羅も目を見開いた。


2010/8/2
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