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ピンポーン…

インターホンを鳴らし、暫く待っていたが誰も出ない。
臨也さんが呼んだのに、と帝人は電話を掛けようと携帯を取り出す。
折原臨也という文字を最近の着信履歴から捜し出し、通話ボタンを押そうとして、「あら?」という言葉に動きを止める。
そこにいたのは臨也の助手を勤めている矢霧波江。
頭を下げれば、興味なさ気に「入れば」とオートロックの自動ドアを指差され、有り難く入れてもらう。
波江はすれ違い様にマンションから出て行った。
臨也の部屋への行き方は、入ってすぐにあるエレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。
そして着いたら一番奥にある部屋へと向かう。
インターホンを押すが、やはり返事はなかった。
波江が入れてくれたのだから、臨也は中に居るのであろう。
駄目元で扉のドアノブを掴み、下に下げればそれは呆気なく開いた。
―…臨也さんらしくない。
そう思いながら、おじゃましますと言い、部屋へと入る。
いつも座っているところに臨也の姿はなく、シャワーでも浴びているのだろうか、とソファに目を向ければ、そこには左腕で目を覆ったまま眠っている臨也の姿があり、帝人はぴたりと固まった。

「臨也さん…?」

念のため声を掛けてみるが、返事どころか動きもしなかった。
風邪を引かれても困るので、上に布団を被せる。
入口付近に置いておいた袋を取りに行き、その中を覗き込む。
―臨也さんに何か作ろうと思って色々買ってきたけど、寝ちゃってるんじゃ…。
少し迷ったが、臨也が他人がいるのに此処まで眠るのは珍しい。
余程疲れているのだろう。
―ご飯もまともに食べてないかもだし…。
起きたら食べて貰えばいい、と引き出しから鍋やおたまを取り出す。
玉葱、人参、ジャガ芋にお肉、エトセトラ…。
今日は肉じゃがを作ろうと思ってきたのだ。

「臨也さんって野菜嫌いだったっけ…、まあいいや」

材料を切り、鍋で煮込んでいると、物音がし、キッチンから顔を出す。
そこには寝ぼけた臨也がいて、思わずくすりと笑った。

「帝人君…?なんでいるの?」
「なんでって、臨也さんが呼んだんじゃないですか」
「そうだっけ…ああ、仕事を手伝ってほしくて呼んだんだけど、もう解決したんだ。わざわざ来てくれたところ悪いんだけど、もう帰っていいよ。…何か作ってるの?」
「えと、」
「まあいいけど、使った鍋とかちゃんと洗って帰ってね」
「え…」
「何?」
「いえ、何にもないです…。タッパ借りていいですか?一人じゃ食べ切れなくて」
「適当に使いなよ」

再度横になった臨也に少し胸を痛めつつ、引き出しから束になったタッパを取り出す。
ピーピーという電子音が肉じゃがの出来上がりを知らせる。
―…せっかく、上手に作れたのに…。
意を決して臨也の名を呼べば、臨也は既に夢の中へとダイブしていた。

「…自己満足だもん、仕様がないか」

苦笑を浮かべながら、夢の住人となってしまった臨也を遠目に見つめる。
溜息を吐き、肉じゃがをタッパに詰めていく。
―…馬鹿みたいだ。いや、馬鹿なんだ、僕。
今度は嘲笑を浮かべ、一枚の皿を取り出した。



「…ん、帝人君…?帰っちゃったかな…」

ふああ、と欠伸を吐き、頭をガシガシと掻く。
―…お腹空いた、そういえば帝人君は何を作ってたんだろう。
何かないかな、と冷蔵庫を開ければ、肉率が高めの肉じゃがが皿に盛られている。
波江かと考えたが、彼女がそんな気がきくことをやってくれたとは考えにくい。

「…もしかして、帝人君?」

冷蔵庫からそれを取り出し、温めないまま指でそれを食べる。
そして携帯を取り出すと、リダイアルから一人の名前を捜しだし、通話ボタンを押した。



2010/7/25
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