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「…暑」

静雄はそう呟き、ごろんと寝返りをうつ。
眠る際には扇風機を回しているのだが、暑いものは暑い。
このまま眠れそうにない、と上半身を起こせば帝人のくぐもった声が聞こえ、そっと頭を撫でる。
帝人の黒髪も熱くなっていて、そろそろクーラーつけるか、と頭上にあるあまり使用されない空調機を見上げた。

「ぅ…」
「帝人、おはよう」
「お父さん…、おはようございます…」

暑さで朦朧としているのか、目線がうまく定まっていない。
苦笑しながら頭を撫でていれば、違和感に気づく。
―…あれ?コイツ…。
静雄が額に手を添えれば、異常な熱が感じられる。
首を傾げている帝人を再度布団に寝かせ、冷蔵庫へ冷えピタを取りに走る。
風邪薬を探すが、子供用のが見つからなく、仕方がないので冷えピタのみを持って行く。
帝人の熱くなった額にそれを貼れば、帝人は冷たさに目を細める。

「冷たい…」
「何か欲しいモノとかあるか?腹は?」
「えと…喉が渇きました…」

静雄は冷蔵庫からスポーツ飲料水を取り出し、コップに注いでからそこにストローを落とす。
帝人の背中を支えながら起こし、コップを持たせる。
全て飲み終えたことを確認し、偉いなと背中を撫でる。
うとうとしだした帝人に、ゆっくり身体を倒させる。
―学校と…、トムさんにも連絡しないと。
帝人の通う小学校に連絡し、上司であるトムにメールで休む理由を書き連ねる。
薬を買いに行こうと財布の中身を確認していると、携帯が震える。
電話だったので出れば、「何か買ってくるモノがあるか」と尋ねられたので静雄は遠慮したが、帝人の側に居てやれというトムの科白に、静雄はじゃあと子供用の風邪薬を頼んだ。

「帝人」
「お父さん…、お仕事は?」
「休む」
「で、も…」
「お前が風邪で寝込んでるのに、仕事なんか出来るかよ」
「ごめんなさい…」
「なんで謝るんだ。申し訳なく思うんだったら、いっぱい寝て、いっぱい食べて、早く治せ」
「…はい」
「トムさんが薬買ってきてくれるから、それまで寝てろ」

こくりと首を縦に振ったことを確認し、タオルケットを首まで被せた。
汗ばんだ顔を濡れタオルで拭いてやる。
それが心地良いのか、帝人はそっと目を閉じた。
その間に、と帝人から離れ、キッチンへと向かう。
炊飯器にご飯が詰まっていることを確認し、鍋を取り出した。
お粥を煮込んでいると、インターホンが鳴る。
扉を開ければ上司であるトムで、風邪薬とヨーグルトが袋に入っていた。
トムに礼を言い、完成したお粥を鍋掴みで持ち、盆に乗せる。
帝人は熱にうなされながらも目を覚ます。

「帝人、起きれるか?」

帝人はよろよろと起き上がり、視界に入ったトムに頭を小さく下げた。

「お粥作ったから食べろ」
「でも僕、」
「ちょっとは腹にいれとかねえと薬飲めねえだろ」

蓮華で掬い上げ、息を吹き掛けて冷まし、帝人の口に近づけると、帝人はそれをぱくんと食べた。
美味いかと聞けば、首を縦に振った。
もう一口、と差し出し、帝人に食べさせる。
完食し終えたところで、錠剤の風邪薬を書かれている通りに二錠飲ませた。

「ぺぇっ」
「偉い偉い」
「苦いです…」
「トムさんがヨーグルト買ってきてくれたから、後で食べような」
「ヨーグルト…」

こくりと頷くと、布団にもそもそと潜る。
タオルケットからはみ出た頭を優しく撫でていると、静雄の隣にトムが座り込む。

「トムさん、世話掛けさせちまって…」
「何言ってんだよ、困った時はお互い様だろ」
「…うっす」

風邪薬が効いているのか、すやすやと眠る帝人に思わず口元が緩む。

「にしても、安心した」
「何がっすか?」
「お前、ちゃんと父親出来てんだなって」
「俺なんかまだまだっすよ」
「そうか?」
「つい過保護になっちまうし、厳しく出来ないっていうか…。…コイツ、あんまり俺に甘えてくれないんすよ」
「帝人は元々がそういう性格だからなあ」
「…はあ」

寝息をたてる帝人の前で、思わず溜息が出てしまう。
信用されていないという訳ではない。
だが、帝人は何処か静雄に壁を造っている部分がある。
―…ちょっと寂しい、かも。
仕事に向かうというトムに再度礼を言えば、トムは微笑みながら手を振った。
ぐう、と自分の腹が鳴ったことに気づき、静雄は何か食べようとキッチンへ向かう。
白米を詰めて爆弾お握りを作り、それにかぶりつく。
中に何か具を入れればよかったかも、とお茶をコップに注ぎながら考える。
咀嚼していれば、廊下からひたひたという足音が聞こえてき、そちらへ目を向ける。
そこにはタオルケットを片手に持った脚取りの覚束ない帝人が立っていて、思わずお握りを直に机の上に置き、帝人の元へ向かう。

「帝人、まだ寝てろ」
「お父さん、いなかったから。どこか行っちゃったんじゃないかって、」
「あー…、ごめんな。何処にも行かねえから」

ぎゅうっと抱き着いてくる帝人の身体を持ち上げ、しっかりと支える。
風邪の時は何故か心細くなるものだ。
―…俺が、しっかりしねえとな。
布団にまで運び、横に寝かすが帝人の視線は静雄を捉えたままだ。
ここにいる、という証明のように手を繋げば、帝人も落ち着いたのか、目をそっと閉じた。

(朝飯…、帝人が次起きるまで我慢か…)


2010/7/20
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