デュラララ!! | ナノ

バシャン!!

…え?
頭から何か冷たいモノをたたき付けられる。
頬を伝うそれに触れると、透明な水だった。
服が肌に纏わり付く感触が気持ち悪い。
水に濡れた袖で瞼を擦り、僕に水を掛けた張本人に目を向ける。

「やあ、手がうっかり滑っちゃった」
「…臨也さん」

特に悪びれた様子もなく、手に持っていたバケツを後ろへと投げ捨てる。
町のど真ん中でこんなことをされるだなんて考えたこともなかった。
買いたい本があったのに、こんなに濡れていたら店にも入れない。
明日の学校までに制服を乾かさないと、とUターンをしようとするが、臨也さんに阻まれる。

「何ですか、ウザヤさん」
「酷いな、俺の名前は臨也だよ。帝人君ってば怒ってる?」
「こんなことされて怒らない方がおかしいですよ…」
「帝人君は静かに怒るんだね。ちょっと冷たい帝人君も可愛い」

ああ、ここまで他人に対して殺意を覚えたことがあっただろうか。
いや、僕の記憶の限りではない。
身体が寒さでぶるりと震える。早く着替えないと風邪をひいてしまうかもしれない。
歩き出そうとするが、臨也さんに手首を掴まれ動けなくなった。

「離してくれませんか」
「やっぱり君は面白いね」
「新宿に帰ってください」
「ところでこんなことがあろうかと、着替えの服を用意してあるんだけど」
「こんなことって貴方が仕掛けたんじゃないですか」
「特別に貸してあげるから着いておいで」
「すみません、言葉のキャッチボールしてください」

僕の科白は軽々とスルーされ、鼻歌を歌いながら手を引かれる。
服って、臨也さんのサイズなら僕にとっては少しばかり大きいのではないのか?
そもそも、この人はポケットに入っているであろう携帯と財布と…ナイフ以外何も持っていないのではないだろうか。
この人が鞄の類を持っているところを見たことがないような気がする。
連れて来られたのは所謂ネットカフェというところ。一つの席を年単位で借りているのだと聞いてもないのに丁寧に話してくれた。
臨也さんは薄い小さな壁で遮られているそこを開くと、一着の服が堂々とハンガーに掛けられていた。
僕はそれを見た瞬間、反射的に臨也さんの背中を靴で蹴り飛ばした。
臨也さんは油断していたのか、その勢いで椅子にのめり込む。
僕はこれを着ろと言われたわけではないが、どうしても蹴りたくなった。

「痛てて…、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないですよ。なんですかこの服は」
「別に君に着ろと言っているわけじゃないじゃないか」
「違うんですか?」
「いや、そうだけど」

隠そうもせず、笑顔で堂々と言ってのける様に、ある意味尊敬の意を覚える。
こんなもの着てたまるか、こんな…メイド服みたいなものを…!
園原さんなら似合うかもしれないが、僕みたいな男に似合ってたまるか。
「失礼します」とこの場を去ろうとするが、腕を引かれ、壁に押し付けられる。

「ちょっ…」
「暴れないで、すぐに済むから」
「んっ、」

口にガムテープを貼られ、くぐもった声しか出ない。
両手は頭の上に片手で押さえ付けられる。
視線をさ迷わせるが、逃げる方法が全くといって見つからない。
釦に手を掛けられ、抵抗は意味を成さず一つ一つ確実に脱がされていく。
ネットカフェの暖房のおかげか、少しだが上着だけ乾いていた。
だが、その下はブラウスしか着ていなかったので肌が浮き出る。
臨也さんはにっこりと笑うと、何処からかカメラを取り出した。

「んぅっ…?!」
「いやー、思ったより良い眺めだったから思い出作りに一枚…いや十枚」

何言ってんだこの人?!
身をよじらせて逃げようとするが、カメラのフラッシュが目にチカチカと焼き付く。
ああ、のこのことこんな人についてきてしまったからいけないんだ。
正臣の言う、関わってはいけないっていうのはこういう意味だったのか…!
事実とはかなり違うのだが、帝人は冷静に考える力を失っていた。
ぶちぶちと釦が無理矢理外され、一つがパソコンのキーボードの上に弾け飛んだ。

「可愛い」
「…ッ」

身の危険を盛大に感じながらも、体格差や身長差、そして決定的な力の差から何も出来ない僕は、この地獄のような時間が早く終わってくれることを祈った。


2010/2/7
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