デュラララ!! | ナノ
※幼なじみパロ(静雄さんが正臣ポジション)


 電車に揺られ、窓にこつんと額を預ける。ひやりとした感触に目を閉じ、頭を冷やすように心を落ち着かせる。
 電車が目的地を告げると、帝人は慌てて目を開け、窓からビルだらけの町を見つめた。
 混んだ車内に、人混みに流されないよう力強く歩き、どうにか電車から出る。ふぅ、と息を吐くと、駅内をキョロキョロしながら目的の人物を探した。
 帝人は普段は埼玉に住んでおり、東京に来るのは初めてだ。帝人の実家は田舎の方にあるため、人混みに動揺しつつ、幼なじみを必死に見つけようと目と足を動かす。
 今日、帝人がこの池袋の町に来たのは、幼なじみに遊びに来いと誘われたからだ。以前から東京に興味のあった帝人は、二つ返事で承諾した。幼なじみに会うのは数年振りで、彼は機械類が苦手らしく、たまにメールのやり取りをするくらいだった。
 栗色のくせっ毛の頭を捜すが、一向に見つからない。何故か泣きそうになりながら、電話をしようと携帯を取り出す。彼の名前を捜す前に、大きな手に手首を掴まれ、帝人は小さく奇声を上げた。
 帝人の手首を掴んでいるのは、金髪で背の高い、目つきの悪い青少年で、いかにも不良といった面持ちだ。カツアゲだと思い、帝人は無意識の内に身体を震わせる。
「…帝人、だよな」
「え?」
 顔を近づけ、じっと見つめると、彼は照れたのか頬を少し染める。どこか面影のあるその素振りに、帝人は小さく「静雄?」と呟く。帝人の予測は正解だったらしく、彼は首を縦に振った。
「…なんか、感じ変わったね」
「そうか?」
 髪をわしゃわしゃと掻く仕草をじっと見ていると、静雄は帝人の頭を撫でた。子供扱いされているようでムッとしつつ、「やめてよ」と手を掃うと、静雄は少し驚いた様子で謝った。
「行きたいところとかあるか?」
「ありすぎて、えと…」
「じゃあ片っ端から案内してやるよ」
 にかっと笑った静雄に、帝人はやっと安心感を覚えた。
 静雄は帝人と同い年であるが、背は20は離れている。外見が子供っぽい帝人と比べると、兄弟にも見える程だ。静雄は今は池袋に住んでいるが、昔は帝人と同じ、埼玉に住んでいた。だが、親の都合で小学生のときに引っ越してしまったのだ。
 雰囲気の変わってしまった幼なじみに驚きつつ、思い出の中の彼と重なる面影を捜す。じろじろ見られているのが気恥ずかしかったのか、「あんまみんな」と片手で目を塞がれた。
「静雄、僕お腹空いた」
「んじゃ、先に何か食うか」
 あまり金を使いたくないという理由で身近にあったジャンクフード店で食事を済ませる。ハンバーガーをかじりながら、コーヒーを飲む静雄を見上げる。
「ね、静雄の家ってどんなの?行ってみたいな」
「どうせ今日は俺んち泊まるんだし、後でみれんだろ」
「えー…」
 確かにそうだが、静雄が一体東京に出てどんな家に住んでいたのかが気になる。ぷくっと頬を膨らませれば、静雄は唸った後、観念したように「わかったよ」と呟いた。
 帝人は表情を輝かせながら子供のような笑みを浮かべる。
「連れていくから、ゆっくり噛んで食えよ」
「うん」
 まるで母親のような科白に、帝人はくすくすと笑った。
 帝人がこうして誰かに我が儘を言うのは久しぶりだった。こんなことを言えるのは静雄にだけだ。
 迷子になったらいけないからと服の袖を掴まされつつ、人混みを掻き分け歩く。住宅が増えてくるとともに、人も少なくなる。
「此処」
「あ、ここ?」
 帝人の実家よりは小さいが、この都会の地価を考えれば大きい方だろう。
「そういえば、幽君は?」
「たぶん、いる」
「会うの久しぶりだなあ」
 無表情な少年の姿を思い出し、くすりと笑う。静雄に「帝人」と呼ばれ、顔を上げると何かに口を塞がれる。眼前にある人工色の金に、帝人は目をこれでもかというほどに広げる。
「ちょ…っんぅ」
 胸を押し退けようとするが、力の差は圧倒的だ。静雄は昔から力が強かった。帝人の非力さで敵うはずがない。
 ここは外で、いつ誰に見られてもおかしくないという状況でキスをされるのは嫌だったが、静雄にされるというのは嫌ではないことに驚く。
 腰の力が抜けそうになるとともに、背後から「津軽ッ!」という怒声が聞こえ、身体が物凄い力で後ろへと引っ張られる。一歩引く方向を間違えていれば、肩が外れていただろう。
 背後を見上げれば、そこにいたのは静雄で、帝人はあれ?と前を見るが、そこにも静雄がいる。
 警戒している猫のようにフーフーと息を荒げている背後の静雄と前にいる冷静な静雄を交互に見、「静雄?あれ?」と戸惑っていると、背後の静雄が帝人の顔を両手で上げさせる。
「俺が静雄だ!あいつは津軽!俺じゃねえ!」
「ばれた」
 津軽と呼ばれた彼は、無表情で舌をぺろと出す。
――…え、じゃあさっきキスをしたのは静雄じゃなくて…。
 帝人はいたたまれなくなり、静雄の胸に顔を押し付ける。
「くそっ、駅探し回ってもいねえし。電話しようと思ったら携帯忘れたし。家帰ってかけようと思ったら、津軽が帝人と…!」
 静雄の肌に血管が浮かぶ。今すぐ暴れないのは帝人が自分の胸にしがみついているからだ。もし、帝人がいなければすぐにでも津軽を殴っていただろう。
「…チッ、帝人、行くぞ」
 怒りを押し殺したような声で、帝人の肩を支えながら家へと入る。津軽は黙ったままそれを見つめていた。
「兄さん、おかえり。帝人さんも久しぶり」
「わあ、幽君大きくなった…ね……」
「?どうした」
「いや、なんにもない…」
 帝人が注目したのは幽の背についてだ。
――…幽君、僕より幾つ下だっけ。あれ、背が僕より高い。
 ショックを受けていると、静雄にわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「そのうち伸びる、たぶん」
「な…ッ」
 幽は何についてかよくわかっていないようだが、静雄は察したらしい。幽が「津軽さんは?」と聞くのに、静雄は目を鋭くさせながら「知るかよ」と吐き捨てた。
「帝人、俺の部屋こっちだ」
「あ、うん」
 静雄の部屋はよく片付いている、というより物が少ない。何か飲むもん持って来るという静雄の言葉に頷き、床に座った。部屋を見回せば、写真立てで目に入る。帝人と静雄が最後に会った日に撮った写真だ。ちなみに帝人の部屋にも飾ってある。
「…まだ持っててくれたんだ」
 どこかホッとしていると、静雄がオレンジジュースを持ってきた。それをコップに注ぎつつ、走り回ったようで渇いた喉を潤している静雄をじっと見る。静雄はその視線に気づいたらしく、帝人に視点をあわす。
「…なんだ?」
「あ、いや、津軽さんって誰なのかなって…」
「…従兄弟だよ。あいつ、俺にそっくりだったろ。よく間違えられんだが、まさか俺に成り代わって帝人に…ッ」
 プラスチック製のコップが静雄の握力によってバキバキと割れる。静雄は慌てて零れたオレンジジュースをティッシュで拭いていた。
「あの野郎絶対許さねえ…」
「静雄、僕なら平気だから」
「平気って、お前、キスされたんだぞ?ッまさか、あいつに惚れたのか」
「なんでそうなるの!絶対違うからね!」
 平気だと思えたのは静雄と同じ顔だったからなのだが、そんなこと静雄に言えるはずがない。静雄は帝人の全力な否定に「そうか」と安心したように息を吐いた。
「あいつにはよく帝人の話してたから、たぶんお前に興味が湧いてたんだと思う」
「興味でキスされても…」
「あいつの考えてること、俺でもよくわかんねえからな…」
 苦笑を浮かべる静雄に、帝人はにたりと笑い、静雄の胸に飛びつく。静雄が驚いているうちに脇腹を擽る。顔を真っ赤にする静雄にまばゆい程の笑みを浮かべると、静雄もニヤリと笑い、帝人を擽る。
「ちょっそこだめ!そこっ弱いからっ」
「あ?帝人からやり始めたんだろ」
 ひーひーと笑いすぎて息苦しくなる。ごめんなさいと笑いながら叫べば、静雄も笑いながら帝人を解放した。
「帝人は俺には勝てねえんだよ」
「むっ、勉強は僕のができるよ」
「頭使う系はなしだ」
「そういえば、静雄ってかくれんぼとか得意だったよね。どこに隠れててもすぐに見つかった」
「帝人は匂いでわかるからな」
「今日は見つけられなかった癖に?」
「あれは帝人の匂いが変わってたからわからなかっただけだ!もうわかる」
 すんすんと帝人の首筋の匂いを嗅ぐ静雄に、帝人はまるで犬みたいだなあと考える。ぺろっと舐められ、反射的に後ろに下がると、静雄は「しょっぺえ」と呟いた。
「なななななに」
「帝人の匂いって甘いだろ?だから舐めても甘いかなって」
「意味がわからないよ…」
 静雄は昔から少し変わったところがある。これもその延長なのかなと思いつつ、苦い笑みを浮かべた。


2011/6/8
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