デュラララ!! | ナノ
 都会で馬の嘶き声が響く。
 これは池袋では特に珍しいことではない。池袋の都市伝説と呼ばれているそれは、特に隠すようなことはしていないのだ。
 黒バイクがとある公園で止まると、一人の少年が立ち上がる。
「セルティさん」
 セルティというのは黒バイクの名前だ。セルティは会話の際に用いているPDAを取り出す。彼女には首がない。そのため、口で話すことができないのだ。
『今日はどうしたんだ?』
「突然すみません…」
『気にするな。私にできることならなんでも言ってくれ』
 数少ない友人に向かって、セルティは胸をぽんと叩く。彼、竜ヶ峰帝人は少し安心したように笑うと、セルティの分も空けベンチに座った。
「…今日、セルティさんを呼んだのは、その、相談したいことがあって」
『私に?』
 自分でいいのかと思う反面、頼られて嬉しいという感情が交差する。
『言ってみろ』
「…ぁ、その…」
 帝人は何度か口をぱくぱくさせると、意を決したように口を大きく開いた。
「平和島さんには、恋人とか、いるんでしょうか…!」
 セルティは思わず、PDAに打ち込む指を止めた。帝人はその反応に手を何度も左右に振る。
「す、すみません。急に変なこと聞いて…」
『いや…』
 セルティは帝人の質問にも驚いたが、それ以上に驚いたことがあった。彼女は、帝人に呼び出される前、違う人物にも相談されたのだ。
 「竜ヶ峰に恋人とか、いるのか?」
 それがあの平和島静雄が少ない友人にした質問だ。
――…静雄は間違いなく帝人のことが好きだ。帝人のこの反応、まさか帝人も…?
 二人とも人間として善に存在している。もし二人が両思いだとしたら、幸せになってほしい。
 黙り込むセルティに、帝人は不安そうな声を出す。セルティは慌ててPDAに文字を打ち込んだ。
『いや、いないと言っていたぞ』
 心中とても興奮していたが、PDAでは比較的落ち着いた文を打ち込んだ。
 帝人はそれを見ると、ホッと息を吐く。
『帝人は静雄のことが好きなのか?』
「へ…ッ?」
『隠さなくていい』
「……やっぱり変でしょうか。同じ男なのに」
 もし帝人に犬の耳が生えていたら、垂れていただろう。セルティは慌ててフォローを繰り返す。
『そうだ、また鍋パーティでも開こうか。私と新羅と帝人と静雄で』
「えっ、それって下手したら二人っきりになっちゃうじゃないですか!無理です!」
 恥ずかしいと繰り返し言う帝人に、セルティはどうしたものかと首を傾げる。すると、背後からテンションの高い声が聞こえる。
「そういうことなら、お姉さんに任せなさい!」
 二人の背後に立っていたのは、全身を黒い服で覆った狩沢だ。ボーイズラブうふふと呟く彼女に、帝人は口元を引き攣らせた。


 部屋には鍋特有の湿っぽさと熱が篭る。新羅は空気を入れ換えるために窓を開けた。その瞬間、インターホンが鳴る。
「帝人君、セルティの喜びのために頑張るんだよ!」
「え、あ、はい」
 新羅の中では二人の幸せ→セルティが喜ぶという式が成り立っている。帝人は早歩きで玄関へと向かった。扉を開けると、そこには静雄がいた。帝人の姿を見て目を見開く。
 タンクトップに短パン、そしてそれを覆い隠すエプロン。下手すれば裸エプロンに見える。静雄は思わず少し顔を傾け、帝人が服を着ていることを確認した。
「よう。…その、もう春だけどよ、寒くないのか?」
「あ、ちゃんと上の服はあります。鍋って熱くなるので」
「…ああ、そういやそうだな。すまん」
 静雄を部屋へと招き入れる。
 帝人がこんな格好をしているのは狩沢の策略だ。静雄はまんまとそれに嵌まり、帝人の後ろ姿をガン見している。
「やあ、よく来たね。ほら、帝人君の隣に座って」
「あ?い、いやいい。お前の隣行かせろ」
「いやあ、僕はこれから仕事が急に入ってしまってね」
「な…ッ」
「ああ、帝人君。悪いけど静雄の分もよそってやってくれないかな」
「はい!」
 帝人がいそいそとよそっていると、静雄は諦めたように帝人の横に腰かけた。
「どうぞ、静雄さん。いっぱい食べてくださいね」
「お、おう」
 帝人の満面の笑みに、静雄は頬を染めながら頷き、皿を受け取った。
 セルティはキッチンからその様子にない首を縦に振る。そして、新たに切った野菜を持ちながらリビングへと現れる。
『鍋のダシはどうだ?帝人が作ったんだぞ』
「そ、そうなのか?」
「といっても、母の味付けなんですけど」
「…美味い」
「あ、ありがとうございます」
 いい調子じゃないかと見ていると、それっきり、二人の会話が続くことはなかった。ちらちらとたまにお互いを見、目が合うと慌てて視線を鍋へと戻す。
 セルティは心の中で応援する。静雄はいつまでも仕事に行こうとしない新羅に、おいと声をかけた。
「お前、仕事はいいのか?」
「ん?仕事なんて元々ないよ」
「…あ?」
「君達さ、今頃の中学生でもそんなに初じゃないと思うよ」
『し、新羅?』
「二人共、両思いなんだから、もっと自分の感情をだせばいいんだよ」
 その瞬間、静雄と帝人は同時に顔を真っ赤にさせた。新羅はセルティの影により、慌てて口を塞がれる。
『なんてことを言うんだ!』
「だって、いくら僕でもあれは苛々するよ。好きなんだから自分に素直にいだだだだ」
『誰もがお前と一緒だと思うな!』
 初な二人は顔を真っ赤にしたまま、皿と箸を離さずに待って固まっている。
 最初に口を開いたのは帝人だ。力は静雄の方が強いが、メンタルは帝人の方が強い。
「あの、僕は静雄さんのことが好きです!」
「ッ俺もだ!」
 静雄は堪え切れずに帝人の細い体を力を抜いた状態で抱きしめる。静雄はずっと帝人の剥き出しの肩に触りたいと思っていた。帝人も静雄の背中に幸せそうな表情で抱きしめる。
 何かを言おうとした新羅の口を完全に塞ぎ、音をたてないよう部屋を出る。
「セルティ、此処は僕達の愛の巣だと思うんだけど」
『少しは空気を読め…と言いたいところだが、今回は新羅のお陰で二人は無事にくっついたからな。新羅さえよかったら、これから外をシューターでひとっ走りしないか』
「本当に?!」
 新羅は本心から喜んでいるらしく、万歳と両手を上へとあげる。
 戻った頃には落ち着いているであろう二人のことを考え、セルティは静かに玄関の扉を開けた。



2011/4/12
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