デュラララ!! | ナノ
「…あ」
「帝人?一人か」
「え?」
 振り返ればいつの間にか九瑠璃と舞流の姿はなかった。その瞬間、嵌められたということを知る。
──あいつら、ここに静雄さんがいるってことを知っててわざと連れて来たな。…あ、カードはまだあいつらが持ってる。
 今月の請求が怖くなったが首を横に振って忘れることにした。
「さっきまで妹達がいたんだけど、どこか行っちゃったみたい」
「ああ。…どうせだし一緒に食うか?」
「う、うん」
 適当に目に付いたセットを注文する。千円を出してその半分程のお釣りが返ってきた。
 部屋に充満しているジャンクフード独特の匂いに少し眉間に皺を寄せる。
「あっちでトムさんが席取ってんだ」
 確かに遠目にドレッドヘアが見える。静雄に着いて歩いていけば、トムは驚いたように目を丸くした。
「…どうも」
「仲直りしたのか?」
「仲直りっていうか、俺の恋人っす」
 トムは一瞬動きを止めた後、「そうか」と一言呟いた。そういう差別はしない人らしい。
「ま、こっち座りな」
「あ、ありがとうございます」
 帝人がトムの隣に腰掛けると、静雄はその向かいの席に座る。
 バーガーにかぶりつきながら帝人を見つめる静雄に、トムは苦笑を浮かべた。帝人も食べづらいようで、ちらとトムを見た。
 トムはどうしようもないと肩を上げると、自らも静雄に頼んだバーガーを食べる。
「…静雄さん、いつもこういうの食べてるんですか?」
「まあな。弁当とか作ってる間あったらまだ寝たいし」
「…そうですか」
 安い肉の味に、帝人はセットに付いてきたコーヒーでそれを飲み込む。
「身体に悪いですよ」
「そうか?」
「…これからは僕がお弁当を作ります」
「そ、そうか。じゃあ頼む」
「はい」
 まるで初々しい中学生カップルのようだ。いや、今時の中学生でもこれは珍しいだろう。
 二人共、正直のところ他人と付き合ったのはこれが初めてだったりする。
 トムはそんな二人の様子を見て、まるで親のような笑みを浮かべた。
「静雄、今日はもう切り上げていいぞ」
「え、でも」
「どうせ今日は早めに帰る予定だったんだろ?なあに、俺は一人で大丈夫だ」
 帝人はなんだか申し訳ない気分になり、「すみません」と謝ると、トムは「なんでお前さんが謝るんだよ」と笑った。
──田中さん、いい人だな。
 よく考えれば、昔よく帝人を捕まえるために仕事をほっぽらかすのに目を瞑っていてくれたのだ。心は随分と広いのだろう。
 先に食べ終えた静雄に、ポテトを食べてくれとMサイズのそれに手を付けないまま静雄のトレーの上に置いた。静雄は大して堪える様子はなく、それを一気に半分程口の中に流し入れた。
「よく食べますね」
「まあな」
 大きめのサイズの弁当箱が必要かもしれないと帰りに店に寄ろうと決める。
「じゃあトムさん、俺達失礼します」
「おう、静雄をよろしくな」
「はい」
「な…なにいってんすか」
 照れたのか頬を赤く染める静雄に、帝人は小さく笑う。
「…笑うな」
「はいはい、行きますよ」
 帝人が腕を引くと、静雄はおとなしくその後に着いてきた。
 家や事務所とは違う進行方向に歩いて行く帝人に、静雄は小首を傾げる。
「どこ行くんだ?」
「貴方の弁当箱を買いに行くんです」
「あれ、本気だったのか…」
「不満ですか?」
 キッと睨むと、静雄は慌てて否定する。
「いや、嬉しい。ありがとな」
「最初からそう言えばいいんですよ」
 ふんっと息を吐けば、帝人の後を着いて行っていた静雄はその隣につく。
 帝人は無言で隣にあった静雄の服の袖を掴んだ。静雄はきゅんと胸が鳴る。
「…お前さ、あんまり可愛いことすんな。我慢出来なくなる」
「……」
 今度は服の袖ではなく手を繋ぐ。静雄は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「だから…ッ」
「誘ってるんですよ」
「は…」
「あ、あそこの店とかどうですか。確か大きめの弁当箱が売っていたはずです」
「帝人ッ、今なんて…」
「家に帰ってから、です…」
 同性の大人二人が顔を赤く染めている様はなんともいえないだろう。
「…そうか、帰ってからか」
「はい、帰ってからです」
 互いに顔を背けているが、手はきっちりと繋いだままだ。
「…もう帰るか」
「ま、まだ買ってないじゃないですか」
「無理だ、我慢できねえ」
「…静雄さんは我慢というものを覚えてください、頼みますから」
「…頑張る」
 おそらく成功されないだろう。静雄は自信なさ気に呟く。
「でも今は無理だ」
「ちょっ…」
 静雄は帝人を俵抱きにして運ぶ。最初はばたばたと暴れたのだが、意味をなさなかった。諦めてぐったりと力を抜く。
「これから一緒に暮らすんだな。俺はたぶん今1番幸せだ」
「そんな、大袈裟な…」
 帝人は呆れたように言葉をもらすが、帝人自身も生きてきた中で今が1番幸せかもしれないと考える。
「静雄さん」
「ん?」
「好きですよ」
「…おう」
 きらきらと金髪が太陽に反射して光る。帝人は眩しげに目を細めた。


2011/3/5
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