デュラララ!! | ナノ
「ああ、それはそっちに運んでください」
 池袋に移り住み、静雄との住居の近くに高級マンションの一部屋を買った。新しい事務所にする予定だ。
「帝人さんこんな広い部屋借りたんだ。うわ、俺の部屋の何倍あるんだろ」
「…臨也君、静雄さんが来たら何かと厄介ですから、その前には帰ってくださいね」
「うん」
 にこにことした笑みを浮かべているのはダラーズの創始者である折原臨也。
 荷物を引っ越しセンターの人間に運び終わらせた後、段ボールからヤカンとティーカップを取り出した。
「ミルクいる?」
「砂糖だけがいいー」
 運び込まれたばかりのソファで寛いでいる臨也に苦笑しつつも、インスタントの紅茶をいれる。
 ちゃんと茶葉もあるのだが、どこかの段ボールに入っており、資料も詰められたせいで積み上げられた段ボールを一つずつ開けるのは怠かった。
 貰い物のクッキーを紅茶と共に出す。臨也はクッキーを見るとそれに嬉しそうにありついた。帝人はくすくすと笑いながらそれを見る。
「そんなにお腹が空いてたんですか?」
「最近、金欠で朝ご飯抜いてるんだ」
「え…」
 貧相なアパートを思い出して固まる。なんとなく手にとったクッキーを皿に戻した。それとともに帝人の携帯が鳴る。
「…あ、静雄さん」
 臨也に目配せをすれば、飲もうとしていた紅茶を机に戻した。
「…もしもし」
『…あ、帝人。もうそろそろ運び終わったんじゃねえかと思ってな』
「よくわかりましたね。さっき終わったところです」
『今近くにいるから寄る』
「えっ、お仕事は…」
『ちょっとくらいなら抜けても構わないってよ。じゃ』
「あっ」
 一方的に切られた電話に唖然として見つめる。取り敢えず首を傾げている臨也を追い出さなくてはならない。
「臨也君、今から静雄さんが来るみたいなんだ」
「え」
 名残惜し気にクッキーを見つめたので、新品のクッキーの入った箱を与えればきらきらと目を輝かせた。
「ばいばい、また来るよ」
「はは…」
 机の上に置かれたティーカップには既に臨也の分の紅茶はなかった。飲み干していったらしい。
 それを流し台に置いたところでインターホンが鳴る。来客が映る画面を見れば、案の定静雄だった。
「今開けます」
『おう』
 臨也とは会わなかったらしく、静雄の機嫌はよさ気だった。ロックを開ければ静雄はそのまま中に入っていく。エントランスからは二分程かかる。
 帝人が残っていた紅茶を味わっていると、今度は玄関からインターホンの音が響いた。
 扉を開けば静雄が立っている。静雄は微笑むと帝人を抱き締めた。
「し…静雄さんっ」
「ん」
 帝人が叩くとあっさりと身体を離した。
「中、見てもいいか?」
「ああ、はい」
 静雄と帝人が住む予定の家より明らかに広い部屋に、静雄は口元を若干引き攣らせる。
「お前…どっからこんな金…」
「まあ仕事が仕事ですから」
 静雄は半分納得したような表情をする。
「…ん、誰かきてたのか?」
 流し台に置いてあるのは二つのカップ。帝人の性格上、一つを飲んでそれを洗わずにもう一杯新しいカップで飲んだ、ということはない。
 帝人は慌てて「杏里さんが来ていたんです」と言った。静雄はそれに納得したようにぽんっと手を叩く。
──騙すのは忍びないけど、ばれて怒られるのも面倒だ。
「…あ、もうそろそろ仕事に戻る。終わったら部屋片すの手伝うから」
「そ、そんなのいいですよ!」
「その代わり、終わったら覚悟しとけよ」
 そう耳元で囁かれ、帝人は顔を赤くした後「変態」と呟く。静雄は小さく笑った後、じゃあなと帝人の頭を撫でて出て行った。
 撫でられた頭に触れながら、帝人は白く柔らかな肌で構成された頬をぷくりと膨らませた。
 気を取り直して段ボールから書類等を取り出していると、再度インターホンが鳴る。
 エントランスから鳴っているのではなく、玄関から鳴っている。静雄が忘れ物でもしたのかと扉にある穴で外を覗いたのだが、何かで塞がれていて何も見えない。
「…?」
 チェーンを掛けた状態で扉を開けると、細い少女らしき腕が入り込んでくる。思わず閉めてしまわなかったことを褒めてほしい。
「やっほー、ミカ兄!」
「…舞流?」
「開…」
 もう一人の妹の声も聞こえ、帝人がチェーンを外せば二人同時に帝人に抱き着いた。
「うわ…っ」
 成長した彼女達の重みに耐え切れず、帝人は後ろに倒れる。目を回しそうになったが、舞流が擽ってきたことにより意識がはっきりとする。
「ちょっ…、やめ…あはは、ほんと…そこ、だめだって!」
「わー!ミカ兄の反乱だ!」
「…怖」
「きゃー!」と片方は笑いながら、片方は無表情ながら少し楽しそうに口元を緩めながら中へと走っていく。
 帝人は久方振りに見るだろう肉親に、しょうがないなあと兄らしい笑みを浮かべる。
「二人はもう中三だったよね。どこの高校受けるの?」
「来良学園!ミカ兄の母校だよ!」
「僕の時は来神高校だったけどね」
「嫌…?」
「まさか、お前達のやることに口を出したりはしないよ。でも困ったことがあったらいつでも言って」
「ミカ兄、お兄ちゃんみたい」
「お兄ちゃんだよ」
 悪戯気に笑う舞流に溜息を吐き出しながら言う。新しいティーカップを出していると、ふと気づいたことを口に出してみる。
「そういえばどうやってここまで上がってきたの?ここはオートロックだよね?」
「静雄さんに開けてもらったの!」
「え」
 舞流の言葉に九瑠璃も首をこくりと縦に振る。もしかして変なことを言ってないだろうかと静雄が何か言ってたかと聞いてみる。
「ミカ兄と付き合うことになってって言ってたよ。一緒に住むんだって」
「…ッ」
「よかったね、ミカ兄」
「祝…」
 本来なら祝福するために使う言葉は帝人にとって嬉しいものではなかった。
「ねえねえミカ兄、お祝いに買い物付き合って!」
「お祝いっていうか、僕に何か買わせる気でしょ」
「もちろん!」
 舞流は紅茶をいれようとしていた帝人の腕をがしっと掴む。
「ほら、レッツゴー!」
「え、今から?」
 帝人が戸惑ったような声を出せば、反対から九瑠璃が帝人に腕を回す。
 二人の妹から見つめられ、帝人は深い溜息を零した。
「…わかった、わかったから。財布とってくるから待ってて」
「やった!欲しかったもの色々買えるね、クル姉!」
「嬉…」
 帝人は念のため隠し金庫から札束を取っておいた。あの妹達にいくら使わせられるかわからないからだ。一度カードの使えない店で大量に買わされてからは用心するようになった。
 街に出るとともに妹達の容赦ないおねだりが始まる。帝人は腕を引かれながら苦笑をもらした。
 遠目に見覚えのあるワゴン車が見え、帝人は脚を止める。
「ミカ兄?」
「舞流、九瑠璃、僕ちょっと門田さん達に挨拶してくるからこれで好きなの買ってきな」
 金色に光るカードを与えれば、舞流はぴょんと跳ねる。こういうところは八年前から変わっていない。
 舞流は九瑠璃の腕を引きながらブティックへと走って行った。帝人もワゴン車へと近づく。
 どうやら渡草と遊馬崎待ちらしい。二人の姿は見えずに門田と狩沢が互いに好みの飲み物を飲んでいた。
「こんにちは」
「おう、帝人」
「みかプー!最近やけに静かだけどシズちゃんとどうなったの?」
「え…ッ」
 狩沢の突然の質問に、帝人は顔を赤くする。したあとに墓穴を掘ったということに気付いた。
「もしかして、シズちゃんにできたっていう恋人はみかプー?!」
 きゃーー!と騒ぐ狩沢に、門田はその口を腕で塞ぐ。
「あー…、その、おめでとう」
「……うん」
 高校からの付き合いなら今の帝人と静雄の関係は信じられないだろう。だが、門田は微妙な表情を浮かべながらも素直な祝福の言葉を投げ掛けた。
「ミカ兄!次ー!」
「あ、ちょっと待って。僕、池袋にまた住むことにしたんです。よろしくお願いしますね」
「ああ」
 門田に口を塞がれむぐむぐと声をもらす狩沢に頭を下げ、そわそわとしている妹達の元へと向かう。
「減…」
「ん?お腹空いたの?」
 九瑠璃の言葉に舞流も首を何度も縦に振る。
「何が食べたい?」
「ジャンクフードとか!」
「…まあ、別にいいけど」
 久しぶりに食べるなあ、と思いながら近くにあったジャンクフード店に行くと、そこには金髪の見覚えのある青年がレジに並んでいた。


2011/3/5
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