デュラララ!! | ナノ
 目を覚ました時、帝人は視界を布のような何かで塞がれ、両手首を一纏めに紐のような固いモノで拘束されていた。
 おそらく使われなくなった工場だろう。錆びた鉄と埃の匂いに、眉間に皺を寄せながらむくりと起き上がる。身体に走った痛みに、ぎりと歯を噛み締めた。
「よお、起きたか?」
 聞き慣れない男の声。それとともにクックッと笑う男の声が何重にも聞こえる。
「僕に何かご用でしょうか」
 飽くまで冷静に言葉を紡ぐ。弱みを見せたらそれで終わりだ。
 男達が一層笑うと、帝人の視界が突然晴れた。突然明るくなったことで目を細める。
 帝人の目の前に男が一人、その後ろには部下と思わしき男達が立っている。
「お前に用なんか決まってんだろぉ?情報屋さん」
「僕は高いですよ?」
「こんな状況で俺らが金払うと思ってんのかよ」
 下品な笑みを浮かべる男に何が面白いんだろうと鼻で笑う。
 帝人のその態度が気に入らなかったのか、男は帝人の鳩尾を蹴り上げた。
「…ッッ」
 声にならない悲鳴を上げる帝人に、優越感の含んだ笑みを浮かべる。
 帝人は涙目になりながらも、気丈とした態度を崩そうとはしない。
「貴方達は、確か僕のことを嗅ぎ回っていた組織ですよね」
「知ってんなら話は早いよな。俺達の欲しい情報を洗いざらい吐いて貰おうか」
「無理ですよ。僕の情報は全て僕のパソコン内にあります」
 帝人がジャケットの袖から出た紐を引けば、手の平にカバーがついたナイフが落ちてくる。器用にカバーを外し、俺達に自分の言葉に気をとらせながら紐を切ろうとする。
「んな訳ねえだろ?お前の評判は聞いてんだよ。まずは粟楠会についての極秘な情報を教えてくれよ」
「貴方達に言ったら僕が粟楠会の方々に殺されちゃうじゃないですか」
「安心しろよ。情報を教えてもらったらお前は殺すからな」
「そんなこと言われたら尚更言えないじゃないですか」
 男の機嫌は下降していく。再度帝人を蹴ろうと近づいて来たところで帝人の両手首を拘束していた紐が切れた。多少帝人の肉も切れてしまったが、そんなことを気にしていられない。
 男の靴裏にナイフを突き付ける。
「な…ッ」
「こんなに時間を頂いて、僕が何もしないとでも?」
 だが、人数が違いすぎる。どう足掻いても勝ち目はないだろう。帝人は静雄とは違う、普通の人間なのだ。
 数歩下がった男に、後ろに待機していた部下達が帝人に近づいてくる。
――ヤバイ、な。
 ナイフを構えれば、それとともに切れた手首から血が伝う。
 諦めたら負けだ。そう思い、目を薄く細めたところで、今まで重く閉じられていた扉が破壊音とともに派手に開かれる。
 現れたのは漆黒の首なしライダー。
 帝人はその姿にホッと息を吐く。
「なんだッ、コイツ!」
 ぞろぞろと男達がセルティの周りを取り囲む。だがセルティはそれをものともせず、影から鎌を作り出し、構える。
 一振りすれば相手は怯む。その間にセルティはシューターで帝人の元へと近づく。
 ボス格である男が銃を取り出したが、帝人は背後から首に蹴りを入れる。昏倒したのか、白目を向け倒れた。
 セルティは影で帝人を拘束すると、シューターの後ろに乗せ、そのままヘルメットを作る。
 ボス格の男が倒れたことで下っ端が戸惑っている間にうまく逃げ出した。
 セルティに礼を言えば、振り向いてヘルメットを縦に振った。
――帰ったらあいつらの組織を徹底的に潰そう。粟楠会に粟楠会を潰そうとしているっていう噂を流したらいけるかな。
 血が流れている手首をハンカチで縛り、血の流れを止める。
 見覚えのある風景が広がってきたことに、新羅の元に連れていってくれていることを知る。
「また派手にやられたね」
 闇医者である彼は、ざっくりと切れた帝人の手首に感情の読めない笑みを浮かべる。
「違う、これは逃げるために自分で切ったの」
「静雄に見つかったらキレるだろうね」
「…お願いだからこのこと言わないでね」
 じとっと新羅を睨みつけたが、何故かセルティががたっと机を鳴らした。
「セルティ、どうしたんだい?」
『すまない、静雄に今さっき連絡してしまった』
「な…ッ」
 帝人の戸惑った声と共に新羅宅の玄関の扉が蹴り破られる。
 現れたのは金髪の青年。帝人は溜息を吐いた。
「帝人!怪我したって本当か?!」
 帝人に詰め寄り、血が滲むそれを見るとともに悲しそうに眉を下げた。そして、それに噛み付くように口に含んだ。
「し…静雄さ、痛ッ」
 静雄が血を吸えば、渇きかけていた傷口からまた血が滲む。
「静雄、落ち着きなよ。それ以上は自分んちでやって」
「新羅ッ」
 てっきり助け舟を出してくれるのかと思った帝人は、新羅の言葉を咎めるように叫ぶ。
 静雄は新羅の言う通りに帝人を横抱きにすると、来た道を戻って行く。
 外に出れば静雄の恋人というのが自分だとばれてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたかった。
 帝人は仕方なくフードを被る。だが、このジャケットで誰かは想像できるだろう。
 街行く人が指をさすが、静雄はキレるどころか少し機嫌が良かった。帝人を自分のものだと宣伝できるのだ。
 帝人はひそひそ声で静雄に反発する。
「お願いですから、あまり目立たないでくれますか?」
「いやだ」
 静雄はあろうことか、街中で帝人に口づけた。帝人は信じられないという感情でいっぱいだ。
 周囲の声が大きくなる。フードで隠されているとはいえ横からはまる見えだ。帝人は泣きたくなった。
 そこからはおとなしく帝人を静雄のアパートまで運んだ。部屋に入ると救急箱を取り出す。この家にもあったんだと変な感銘を受けた。
 1番上に接着剤があったのは流し、消毒をしてもらう。ガーゼをし、傷が目立たないようにする。
「痛くないか?」
「…さっき静雄さんが噛んだから尚更痛くなりました」
「わ、わりぃ」
 そこは正直に謝るらしい。
「他は怪我してないか?」
 身体を壊れ物を扱うようにぺたぺたと触ってくる。腹を触られた瞬間、痛みが襲った。
「腹か?」
「あ、ちょっ」
 黒いシャツを無理に上げられる。そこは蹴られたため、青くなっていた。
 静雄の表情が痛々しく歪められる。
「なんで貴方がそんな表情をするんですか」
「…これからは俺が守る、だから池袋に事務所移せ、一緒に暮らそう」
「…ちょっと待ってください。いきなりなんですか?」
「俺的には帝人に情報屋なんかやって欲しくない。けど、お前はそんなの嫌だろ?だから、せめて俺が出来るかぎり守ってやりたいんだよ」
「そ、んなの…」
 真っ直ぐな瞳で見つめられ、帝人は顔を俯かせる。
 新宿には未練はない。寧ろ、池袋の方が実家もあるし、知り合いもたくさんいる。そしてなにより、此処には静雄がいる。
「…住むからにはこんな家じゃ嫌ですよ。せめて個室が一人一部屋は欲しいです。あとアパートじゃなくてセキュリティが万全なマンションにしてください」
 固まっている静雄を横目に、言葉を紡ぐ。その顔は真っ赤だ。
「…それは、肯定ととっていいんだよな?」
「…言わせないでください」
「嫌だ、言ってくれ」
 俯く帝人の顎を掴み、無理矢理上げさせる。
 キスをするくらいの至近距離で要求すると、帝人は今までにないほど顔を赤くする。
「…ッそうですよ、別に構わないと言ってるんです。これでいいですか」
「…ッ」
 静雄は至極目を子供のようにキラキラと輝かせ、そのまま口づけた。
 まるで存在を確かめるように甘く甘く、触れるようなキスを繰り返し、桃色に染まった頬に「可愛い」と呟いた。


2011/3/4
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