デュラララ!! | ナノ
「……普通だ」
「何が」
「いや、なんでもないです」
 出されたオムライスの出来栄えは普通だった。何の変哲もないオムライス。
 少し変わったところと言えば、オムライスの上にかかっているケチャップが帝人の分には『みかと』、静雄のところには『しすお』と書いてある。
 どうして濁点がないのかと尋ねれば、書きづらいかららしい。
「…いただきます」
 パクっと一口食べれば、ふわふわとした卵に中のチキンライスがうまく絡み合って美味しかった。もしかして自分よりうまいかもしれないと引き続きスプーンを口に運ぶ。
 ぱくぱくと平らげる帝人に、静雄はまるで子供を見守る親のような目で帝人を見つめた。
「うまいか?」
「はい。静雄さんってお料理上手だったんですね」
「一人暮らししてるからな。一通りのは練習した」
 どうやらジャンクフードばかりを食べている訳ではなかったらしい。
「ご馳走様でした」と手を合わせれば、静雄は小さく笑った。
「今日どうします?」
「どうって…」
「…今から駅に行ってももう電車もないですし、その…、泊まっていくかと聞いているんです」
 静雄は少し固まった後、小さく首を縦に振る。
 帝人はほんのりと赤くなった顔を隠すように、食べ終えた皿をキッチンへと運ぶ。戻る際に床に脱ぎ捨ててあった静雄のシャツを拾い、脱衣所にある洗濯機に投げ入れる。洗剤と柔軟剤を入れ、スイッチを押した。
「夜から乾かせば明日の朝には乾いていると思います」
「お…おう、ありがとな」
 シャワーに入るよう促せば、静雄は再度礼を言い、帝人に従った。
――下着、どうするか。確か僕の新品のが奥辺りにしまっておいたはず…。
 クローゼットの奥から包装に入ったままの下着と取り出す。袋から開け、中に入っていた布を取り出し、静雄の服の隣にそれと帝人のパジャマの中でも大きめのサイズのを置いておく。
「静雄さん、着替え置いておきますから、着てくださいね。あ、下着はちゃんと新品ですから安心してください」
 静雄はどこか安心したような声色で返事を返す。さすがの帝人も他人に使用済の下着を貸せるほど神経が図太くはない。
 テレビを付けると今度はバラエティがやっていた。笑っている芸人達をどこか遠い世界にいるように感じながら、無表情でそれを見る。
 浴室から出た静雄に「無表情でお笑い番組見るな」と苦笑しながら言われた。

 濡れた髪を掻き上げながら帝人は欠伸を一つ吐く。
 新品の歯ブラシを取り出し静雄に渡せば、静雄はおとなしく歯を磨き出した。
「静雄さんは上のベッドで寝てくださいね。僕はソファで寝ますから」
「一緒のベッドでいいだろ」
「…静雄さん、まだ足りないんですか?」
「違う!変な意味じゃねえよ!」
「歯磨き粉が飛ぶのでそれ吐き出してから叫んでください」
「おお…悪い」
 コップで口の中を濯ぎ吐き出す。再度何かを言おうとしたのだが、帝人が手の平を見せて制止を訴えると静雄は止まる。帝人はその間に同じ様に口の中を濯ぎ、顔を洗った。
「はい、いいですよ」
「あ、あのな、別に一緒に寝るっつっても変な意味じゃねえんだ」
「そうですか」
「だ、だから」
「別にいいですよ」
「え、あ、いいのか」
 どこか戸惑い気味に言う静雄に嬉しくないのかと尋ねれば、首を勢いよく横に振っていた。
 帝人のベッドは二人なら軽々と受け入れる広さだ。
 静雄に背を向けながら帝人は力を抜く。暫く経った頃にふと後ろを振り返れば静雄はまだ起きていて目が合った。
「…ずっと僕のこと見てたんですか」
「ああ。帝人はどれだけ見てても飽きないからな」
 帝人は静雄の科白に呆れた口調で返し、また静雄に背を向けた。
 ドクドクと高い脈を打つ胸を押さえながら静かに深呼吸をする。だが静雄が背後から腕を回してき、帝人は自分の激しい心音が静雄に聞こえるのではないかと身体を丸めた。
 静雄はちゅっと軽くうなじにくちづける。帝人はゾクゾクと言い知れぬ快感に身を震わせながら背後から伸び帝人の目の前にある静雄の手をぎゅっと握った。

 朝起きればいつの間にか帝人も静雄に抱き着いていた。帝人が無意識にそうしたのか静雄が帝人の身体を動かしたのか、どちらかはわからない。
 せっかくなので帝人は静雄に擦り寄ってみることにした。
――ヤニの匂いに混じって僕の匂いがする…、なんだか嬉しいな。
 すんすんと匂った後身体を離せば、静雄は真っ赤になった顔を片手で隠していた。
「い…いつから起きてたんですかッ」
「えと、帝人がなんか擦り寄ってきたときくらい」
「ッもういいです、起きましょう」
 時計を見れば午前6時。
 杏里が出勤してくるのは午前10時。それまでには静雄も自分の仕事に出なくてはいけないだろう。帝人も最近サボり気味なので仕事が溜まっているはずだ。
「取り敢えず朝ご飯を作りましょうか」

 池袋へと帰って行った静雄を駅まで見送り、帰る前にコンビニに寄る。そこでお菓子をいくらか買うと、チョコレートを食べながら事務所に戻る。
 マンションのエントランスで住人のみに知らされている番号を押すと自動扉が開く。
 入ろうと脚を向けたのだが、身体に電撃が走ったように動かない。その瞬後に背中に痛みが走る。
 スタンガンが押し付けられていることに気づき、本当に電撃が走ったんだと頭の端で考える。
 通常より強力なそれは、帝人の意識を簡単に吹っ飛ばした。


2011/3/4
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