デュラララ!! | ナノ
「遅くなってすみません。これが頼まれていたものです」
 お得意様には帝人は出来るだけ直接会って情報を渡すことにしている。
 粟楠会はその中でもよくお世話になっている。
「本当は昨日に渡すはずだったんですけど…」
「わかってますよ、平和島静雄でしょう?騒ぎがあったというのはこちらの耳に入っていますから」
「すみません…」
 小さく頭を下げる帝人に、四木は気にしない様子で飽くまで商業上の笑みを浮かべる。
「まあ、確かに彼のせいで仕事に響いているのも確かですけどね」
「……」
「では、また調べてほしいことがあったらお願いしますよ」
「…はい」
 頭を下げ、早足でビルを出る。そこにはタクシーを待たせてある。静雄に見つかっても困るからだ。
「…そろそろ、どうにかしないとな」
 携帯の電話帳に登録されている名前を指でなぞり、タクシーに乗り込んだ。
 帝人の蒼色の瞳が何かを決心するかのように揺れていた。


 新羅に突然呼び出され、嫌な予感を感じながらも池袋へと向かう。
 向かっている途中、会ったのはやはり静雄で、帝人は咄嗟に身構える。だが静雄は帝人の姿を目に入れつつも、何事もないようにドレッドヘアの上司の後ろを着きながら帝人の隣を通り過ぎて行った。
 まるで、帝人のことが見知らぬ赤の他人だと言わんばかりに。
「…あれ?」
 いつもならこのまま一方的な鬼ごっこが始まるはず。帝人は言い知れぬ違和感を感じながら、新羅宅へと急ぐ。
「うん、静雄の帝人に対する記憶を消したんだ」
「…は?消す?」
 有り得ない言葉に、帝人は思わず耳を疑った。だが新羅はそのまま言葉を紡ぐ。
「この前、僕が静雄に変な入れ知恵したせいで大変なことなったし、そのお詫び。これで平和になるよ」
「…う、うん」
「嬉しくない?結構頑張ったんだけど」
「いや、嬉しいよ、ありがとう」
 道理で、と心中で納得しながらミルクたっぷりのカフェオレを飲む。
――…これで動くのが楽になる。粟楠会の四木さんにもアイツのせいで池袋にあんまり来れないから迷惑かけてたし。例の少年にも近づける。
 これからの予定を頭で組み替えながら、新羅のセルティとの惚気話を聞く。
 新羅のこういう話を聞くのは嫌いではない。寧ろ、セルティの新しい一面とかを知れてうれしい部分もある。
 携帯が震え、新羅に断ってから画面を覗けば『SK』と書いてあり、仕事だと新羅に告げ、マンションを出た。
 SKというのは四木のことだ。本名を入れるのはどうかと思い、アルファベットで二文字並べている。
 ちなみに、帝人の身内の名前もすべてそういう風にしてある。
 電話帳で『SZ』というところまで下がり、削除ボタンを押した。
――どうせ、向こうが僕のことを知らないんだ。ていうか、新羅がアイツの携帯から僕の番号消してそうだな…。
 SZ―平和島静雄の番号を消し、粟楠会の事務所へと脚を向けた。

 それからというものの、平和の毎日が続いた。このままいけば、池袋に戻ってもいいのではないかと思うほど。
「今日も帝人君、なんだかご機嫌ですね」
「え?そうかな」
「はい」
 杏里にくすくすと笑われ、頬をほんのり紅く染めた。
 静雄に強姦されたという事実は忘れ、このまま杏里とくっつけるのでないかという淡い期待を篭め、食事にでも誘おうかと唇を開けば言葉を発する前に携帯に遮られた。
 『SN』と書いてあり、なんだ新羅かと邪魔されたことに若干眉間に皺を寄せながらも電話に出る。邪魔をされたからといって切らないのは帝人の良いところだろう。
「何?」
『ああ、帝人、今晩暇?』
「……暇といえば暇だけど」
『じゃあさ、今から飲みに行かない?セルティが奢ってくれるんだって』
「え、悪いよ」
『いいからいいから。昔みたいに皆で馬鹿騒ぎしようよ』
――いや、馬鹿騒ぎしてたの静雄さんだけじゃん。
 馬鹿騒ぎというより帝人を捕まえようとしていたのだが。
 たまにはいいか、と承諾し、帰るという杏里とともに事務所を出る。
 杏里の家までタクシーで送り、池袋の待ち合わせ場所へと向かう。タクシーから降りようとして、待ち合わせ場所にいた人物に、帝人は脚をタクシー内へと戻した。
――…待て、なんで静雄さんがいる?!
 隣にはいつも通りの白衣を着た新羅がいる。
 タクシー運転手に怪訝そうな表情で見られ、帝人は渋々とそこから降りた。
「やあ、来たね」
 手をひらひらと上げた新羅の肩を掴み、「なんでアイツが此処にいるんだ」とひそひそ声で言えば、「『昔みたいに皆で馬鹿騒ぎしようよ』って言ったじゃん」と言われ、肩をがっくり落とした。まさかそれに静雄が含まれるとは想定もしていなかった。
「…あ、そうそう。こっちは竜ヶ峰帝人ね。静雄とは一度も同じクラスになったことはないけど、僕の腐れ縁」
――そうか、静雄さんには僕の記憶がないんだった。
 頭を軽く下げ、自分の名を再度名乗れば、静雄も控えめに自己紹介してきた。
――…こうやってれば、普通の人だなあ。
 静雄の狂暴な面しか見てこなかった帝人は、静雄の大人しい姿に少しながら驚く。
 そういえば、初めて会った時はあんな感じだったけ、と最近見た夢を思い出す。
「じゃあ行こうか。帝人の好きな焼鳥屋、予約しておいたから」
「う…。…あれ、門田さんは?」
「……連絡するの忘れてた」
「…、セルティさんは?」
「セルティは急な仕事」
 まさか、僕と静雄さんを会わせるために仕組んだ訳じゃないよね?と疑ぐりながら、静雄とは極力距離を置いて歩く。
 店に着いてもカウンターで静雄とは新羅を挟んだ席に座った。好物の味噌だれ焼鳥を頬張りながら、酎ハイを口に含む。
 ほんのりと頭がくらくらしてきて、酔いが回るの速いなあと酒はそっちのけで焼鳥を食べ出す。
 新羅に電話がかかってきたらしく、「ちょっと出てくる」とトイレに向かった。
 此処で外に向かったのなら、帝人は帰ろうとしていたのだが、トイレならまあいいかと焼鳥を引き続き頬張る。
「…なあ」
「……なんですか」
 静雄に声を掛けられるとは思っていなかった帝人は、急いで口に溜めていた焼鳥を飲み込み、目を合わせずに返事をした。
「俺とお前、何処かで会わなかったか?」
「そりゃあ、池袋にいたら擦れ違うこともあるでしょうね。僕も何度か貴方を見掛けたことがあります」
 実際は指では数え切れないほど遭遇しているのだが。
 静雄は少し何かを考えた後、日本酒を口に含んだ。もう会話は終わったのかと帝人も再度焼鳥を食べ出す。
 だが、静雄はまた声を掛けてきた。
「お前、何の仕事してんだ?」
「…情報屋」
「そういうの、漫画の中とかだけだと思ってた」
「信じるか信じないかは貴方の自由ですよ」
「そうか。なら信じておく」
「…」
――…なんか調子狂うなあ。
 苦笑を浮かべ、戻って来ない新羅を怪訝に思い、自分もトイレへと向かう。だが、男用トイレには誰もいなく、急いで客席へと戻った。
「どうした?」
「新羅がいない」
「はあ?」
「アイツ…ッ」
 机の上には封筒に入ったお金が置いてある。
 どうやら自分達が話しているうちに、こっそり後ろを通り、店を抜け出したらしい。目の前にいた店員に聞けば、確かに通って行ったと言った。
「何がしたいんだ、アイツ」
「…僕も帰る」
――やっぱり当初の予想通りだった。
 舌打ちをし、会計を済まし店を出て行こうとすれば、手首を掴まれる。
「…なんですか?」
「…そのよ、迷惑じゃなかったら連絡先とか教えてくんねえか?」
――物凄く迷惑だから教えなくていいかな。
 今の静雄は危険そうにない、と判断し、帝人は携帯を取り出せば、静雄はふわりと微笑んだ。
――…え?
 嫌な予感がしながらも連絡先を交換し、速足で店を出た。帰り道でタクシーを捜しながら、新羅に電話を掛ける。
 留守番になっていたので、今度はセルティに掛ける。そちらは通じ、「今、家にいて新羅が近くにいるのなら代わってくたさい」と言えば、新羅の能天気な声が耳に入り、帝人は罵倒の言葉を投げ付けた。
「ああ、帝人。もうばれたか」
「当たり前でしょ!なんであんな、」
「だって、静雄が君に惚れたんだっていうもんだから」
「…は?」
「記憶は消したはずなんだけどさ、たまに街で見かける君を好きになっちゃったんだって。こういうこともあるんだね。僕も記憶を無くしてもまたセルティのことを好きにないたたたたセルティ痛い」
 帝人は動きを止めて、先程の静雄の反応を改めて思い出す。
――…嘘?!
 頭を押さえ、近くにあった公園のベンチに座る。はあ、と溜息を吐き、今だ惚気やら何かを言い続ける携帯を切る。
「…疲れた」
「あれ?帝人さんじゃないすか」
 聞き覚えのある声に、帝人は目を向ければそこには馴染みのある茶髪の少年の姿があり、帝人は微笑みを浮かべた。
「やあ、正臣君…、と?」
「ああ、こっちは…」
「折原臨也です」
――…あれ?今日って何日だっけ。
 先程の携帯画面を思い出し、そういえばもうすぐ来良学園の入学式だっけ、と考える。
 会いたかった人物に会え、帝人は簡単に自己紹介した。無邪気な笑みで「エアコンみたい」と言われ、苦笑を浮かべた。
「なにやってんすか?」
「ちょっと飲みに行っててね。酔い冷まし」
「へー。あ、じゃあ俺達そろそろ行きます」
「うん、またね」
 手を軽く振れば、臨也は帝人の姿をちらりと見、感情の読めない笑みを浮かべた。
――なんだかあの子…、予想以上に歪んでそうだな。
 そろそろ自分も帰ろうと立ち上がる。近くにあったタクシーに乗り込み、新宿までと告げ、少しの間眠りについた。


2011/3/1
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