デュラララ!! | ナノ
「あんたが…ッあんたさえ居なかったら…ッ」

顔は決して狙わずに身体を傷付けてくる相手に苦笑しながら、帝人は襲いくる痛みに耐える。
帝人が抵抗しないのは、相手が女の子で涙を双眸に溜めているからなのか。
帝人自身もよくわからなかったが、この子はあの人がいないと生きられない。
あの人、折原臨也に何もかも捧げた少女のうちの一人。
だが、帝人という恋人が出来てからはもういらないと言わんばかりに何人もの女の全ての関係を切った。
怒りの矛先が臨也ではなく帝人な向いたのは、まだ臨也を崇拝し、愛しているからだろう。
帝人もそれで気が収まるのならとそれを受け入れる。
彼女は帝人をひとしきり痛めつけると、憎悪の篭った視線を向け、去って行った。
今日の怪我も酷い、と思いながら軋む身体を支え立ち上がる。
帝人は真っ直ぐに自分の家や臨也の家ではなく、新羅の元へと向かった。


「うわあ…、今日もまた一段と…」
『大丈夫か?!やっぱり私がその女の子に言って止めさせた方が…!』
「僕は大丈夫ですよ。いつもすみません」

身体の青かったり赤かったりする痕を新羅は湿布を貼ったりして治療する。
酷いところは包帯で隠す。
こんなのを臨也に見つかったらその女の子が何をされるかわからない。
ここまでされて他人の心配をできるだなんて、偽善者じみてると思いながら、セルティに出してもらったココアを口に含んだ。
しかし、それだけではない。
自分のせいで恋人が怪我をしたと知ったら臨也は多少なりとも傷つくかもしれない。
別に何にも気にしないかもしれないけど。
何喰わぬ顔で臨也に会うためにボロボロになった服を着替え、電車に乗る。
少し暑くなってきたが、傷を隠すために長袖を着るしかない。
暑いなあ、と思いながらも新宿で降りた。

「やあ、帝人君!」
「こんばんは、臨也さん」

インターホンを押せば、臨也は真っ先にやってきて扉を開けてくれた。
臨也は微笑みながら、帝人を部屋の中へと招き入れる。
この時の臨也は本当に嬉しそうで、ああ愛されてるなあと実感できる。
これがあるからどれだけ暴力を振るわれようが我慢できるのだ。
ソファに座り横に座った臨也に甘えるように抱き着けば、臨也はどうしたの?と耳たぶに口づけ噛み付いた。
擽ったいと思いながら至福の時間を味わう。
服に手を掛けた臨也に、帝人は反射的にその手を弾いた。
しまったと思う時には、臨也は目を丸くした後、長い睫毛で縁取られたそれを伏せた。
帝人から身体を離す臨也に、帝人は喉から声が出なかった。
嫌ではない、だが服の下には包帯やらなんやらが隠されている。
これを臨也に見られるわけにはいかないのだ。

「ごめんなさい…」
「別に嫌ならいいから、無理強いはしたくないからさ」

抱きしめるくらいはいい?と尋ねられ、頭を勢いよく縦に振る。
帝人から抱き着けば、臨也は「今日の帝人君は何だか湿布のニオイがする」と意地悪げに言われ、体育で筋肉痛なんだと適当なことを言って誤魔化した。
終電ギリギリの時間になり、帝人は明日も学校があるからと臨也の事務所を後にする。
幸せな気分だったのだが、目に入った人物に、その気分は全て打ち壊された。

「また臨也さんに会いに行ってたの…?」
「…」
「なんとか言いなさいよ!」

頬を平手打ちされ、顔に手を出されたのは初めてだと呑気なことを考えながら少女に腕を引かれる。
このまま逃げ出してもよかったのだけど、目に催涙スプレーを掛けられ、力が緩んだ隙に壁に投げ飛ばされた。
少女の力なので大した衝撃はなかったが、催涙スプレーが目に染みて痛い。
鳩尾を硬いブーツで蹴られ、咳が止まらない。
先程臨也に出してもらった紅茶が逆流してきそうだ。

「いくら脅しても貴方には効かないようだから…ちょっと強行手段をとることにしたの」

今までだって強行手段だったじゃないかと思いながら痛む目を開くと、そこにはナイフを持った少女がいて目を見開く。

「見てみて、臨也さんとお揃いにしてみたの」
「それで、僕を一体…」
「二度と臨也さんに見せられないような顔にしてあげる」

顔に傷をつけたら臨也さんにばれてしまう。
臨也さんに悲しんでほしくない。
ダメだ、ダメだ…!
月光がナイフに反射し、帝人の瞳に光が宿った。

ふらついた脚取りでいつも通りに新羅の元へと向かう。
インターホンを押せば、すぐに扉が開いた。
いつもならすぐに部屋に招きいれてくれるのだが、今の新羅の表情はなんともいえないものだった。
腕時計を見れば、普通の人ならとうに寝ている時間。
さすがに非常識だったかと去ろうとすれば、新羅の後ろからよく聞き覚えのある声。

「新羅、誰が来たの?」
「ぁ…」

全身がヤバイと告げる。
先程の少女からはどうにか逃げてきた。
ナイフが頬を掠ったせいで、そこからは血が溢れている。
新羅の後ろから現れた人物、折原臨也は身体の動きを止めたまま動かない。
帝人が臨也の名を呟いた瞬間、臨也は止まっていた時が再び動き出したかのように帝人の肩を掴んだ。
そこには蹴られた跡もあり、痛みに目を閉じれば臨也は玄関で帝人の服を剥ぎだした。
身体中の傷を見、臨也は絶望に溢れているような表情をした。
出来れば、この人のこんな表情は見たくなかったのに。

「ちょっと、臨也…」
「誰にやられたの」
「臨也さん…」
「言って、誰にやられたの!」

帝人は目を逸らしながら、臨也の信者であった少女の名を呟けば、臨也は物凄い剣幕で帝人を怒鳴る。

「どうして俺に言わなかった!!」
「こんなこと知ったら、臨也さんが悲しむと思って…」
「寧ろ、助けられなかった方が悲しいよ!君はもう君だけのモノじゃない!俺はもう、君無しじゃ生きられないんだ…」

もっと俺を頼ってよ…、と掠れた声を発する臨也に、帝人は逆に嬉しくなった。
ああ、この人はこんなにも僕を愛してくれているんだ。
こんなにも僕を必要としてくれているんだ。
力強く抱きしめる臨也に、痛いと囁けば新羅に引きはがされた。


2010/6/19
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