デュラララ!! | ナノ
帝人は辺りをキョロキョロと見回し、最終的には自分の前でずっとにこにこと笑っている青年へと視線を戻す。
お腹が空いたかと尋ねられ、首を横に振る。
彼は遠慮しなくていいからね、と帝人の頭を撫で、自分の仕事へと取り掛かりにパソコンの前に座った。
時計の針を見れば、短い針は10を指している。
朝の10時ではない、夜の22時だ。
帝人はこの部屋の主、折原臨也に半強制に新宿にある事務所へと連れて来られた。
もちろん静雄はそんなことは知らない。
今頃心配していることだろう。
帰りたいのは山々だが、帝人の手首につけられた枷がそれを許してくれない。
帝人が座っているソファの手前にあるローテーブルに枷の先は固定されている。
いつもなら寝ている時間なのだが、今は眠気が全然襲って来ない。
画面に向き合っている青年をチラと見、溜息を吐いた。
本当はお腹も空いた、早く寝たい。
そわそわとさせていれば、不意に臨也が帝人の隣に座った。

「ね、帝人君。今シズちゃんどうなってるかな?」
「お父さん…?」
「そう、君のお義父さん」

感情の読めない表情で微笑み、俯き加減の帝人を覗き込む。

「心配してくれたら、嬉しいです…」
「心配、ねえ。他人の子をわざわざ?自分とは血も繋がってないのに?」
「それ、は…」
「そんな哀しそうな表情しないでよ、泣かせたい訳じゃないんだ」
「ごめんなさい…」

溢れてきた涙を臨也の指が拭う。
そうだ、僕達はあくまで他人なんだ。
どう足掻いたって本当の家族にはなれない。

「でさ、今日帝人君を此処に連れて来たのは提案があったからなんだ」
「提案…?」
「ねえ、俺と一緒に暮らさない?」
「それって…、」
「だってさ、シズちゃんのことだから帝人君がいたら絶対結婚とかできないと思うんだよね。一生シズちゃんが独り身でいいの?俺は別に誰か個人を愛するだなんて愚かなことはしないから、人ラブだから。博愛主義者なんだ。シズちゃんに会えなくなるって訳じゃないんだ、どうかな?」
「…、」

静雄と暮らせなくなるのは嫌だ、だけど静雄が自分のせいで独りになるのも嫌だ。
…僕、お父さんの幸せにとっては邪魔な存在なのかな。
そんなことはない、と思いたいが、臨也が言うことも確かだ。
帝人はぎゅっと自分の手を握りしめる。

「ねえ、帝人君」
「…それでも、僕は」

帝人が意を決したように臨也を見つめた瞬間、扉が蹴り飛ばされた。
それだけならまだしも、その破壊された扉の破片の一部がガラスに皹をいれた。

「わお」
「お父さん…!」

静雄は帝人の姿とその手首に嵌められた枷を見、血管がブチ切れそうになりながら臨也には視線を一度も向けずにドスドスと近づいてくる。
素手で枷を引きちぎり、帝人を俵抱きにする。
臨也がわあ、と気の抜けた声を出せば、静雄はギロリと虫一匹どころかこの世の全てを破壊できるのではないかというほどの剣幕で睨み付ける。

「臨也…、俺が何を言いたいかはわかるよなあ…ッ」
「俺のモノに手を出すなってヤツ?」
「帝人はモノじゃねえ!」
「あー、はいはい。でもさ、一つ教えといてあげるよ。帝人君を一番モノ扱いしてるのはシズちゃん、君じゃないのかな」
「何言って…、」
「よく考えてごらんよ。帝人君の行動を制限して、友達には睨みつけて警戒心丸だし、揚句の果てには好きな人にまで干渉して」
「…黙れ」
「帝人君からしたらいい迷惑なんじゃないの?父親気取りの他人にここまでされてさあ」
「…ッ」

バッと帝人を見れば、帝人は顔を俯かせて難しい表情をしている。
臨也が座っているソファを脚で蹴り飛ばし、臨也に背を向ければ「八つ当たりはよくないよ」と音符がつきそうなほどの声色で言われ、咄嗟に殴りたくなったが、肩にしがみついた帝人にそんな気も失せた。

「帝人君、シズちゃんが嫌になったらいつでも来ていいからね」
「手前にやるくらいならセルティに預けた方がよっぽどいい」
「それは帝人君が決めることだよ、ね?帝人君」
「…」

臨也の事務所から早歩きで立ち去り、マンションの前で待っていたセルティに手首に巻き付いたままの帝人の枷を外してもらう。
セルティは影で作ったヘルメットを二つ分作り、静雄と帝人を挟み込むように座る。
池袋に向かってシューターが走り始めたところで、帝人は微かに唇を開いた。

「…お父さんは、僕のこと邪魔じゃないんですか…?」
「な…ッ」

ぼそりと呟いたのだが、至近距離にいた静雄にはよく聞こえた。
セルティにも聞こえていたのか、バイクが少し揺らいだ。

「…臨也が言ったのか」
「お父さんは僕がいるから結婚とかできないって…、僕がお父さんの邪魔してるから…」
「んなわけ…ッ」

反論をする前にPDAが帝人の眼前に現れた。
セルティが運転しながら打ったのだろう。
そこには静雄が言いたかった全てが書かれていて、静雄は口つぐむ。

「本当、ですか…?」
「当たり前だ。…邪魔だなんか思うわけないだろ。つーか逆に俺の方が…」

正直のところ、先程臨也に言われるまで、自分の行動の異常さに気づかなかった。
ごめんな、とヘルメットで頭を撫でられない代わりに背中を撫でた。


2010/6/16
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