「…やっぱりでかいな」
「平気です!僕、すぐに大きくなりますから」
ぶかぶかのブレザーの袖をちょいちょいと引っ張りながら静雄は苦笑を浮かべる。
帝人もとうとう小学生になる。
子供の成長は早いものだな、といずれくるであろう反抗期に身を震わせた。
「それより、ランドセルとかいろいろ買わないとな」
「ランドセルならセルティさんに買ってもらいました」
「…え」
ずっとなんなんだろうと思っていた箱から帝人はランドセルを取り出す。
「水色なんですよ」と嬉しそうに背負ってみせる帝人に、静雄はなんとも言えなくなる。
こういうときは何かと入り用だと思い、銀行から幾らか卸してきたのだ。
ランドセルだけが買うものじゃないよな、と気を取り直して帝人に声を掛ける。
「じゃあ筆箱とか…」
「筆記用具なら幽さんに買ってもらいましたよ?」
「じゃ、じゃあ…靴とか」
「それは門田さんに」
ぽんぽんと言うものを全て段ボール箱から取り出す。
静雄は意地を切らして段ボール箱をひっくり返せば、必要なものは全て入っていた。
言ってはなんだが、静雄はこういうイベントをとても楽しみにしていた。
帝人は何かと遠慮するので、帝人のために物を買う機会があまりなかったのだ。
まさか…、と普段は口にしたくない人物の名前も出してみる。
「臨也からは…?」
「えと、自転車をもらいました」
あの野郎!と壁を一発殴れば、壁に亀裂が入る。
そういえば家の前に子供用の自転車が置いてあったような気がする。
じゃあ自分は用無しではないのだろうか。
がっくりと肩を落としていると、帝人が「大丈夫ですか?」と不安げに静雄の顔を覗き込む。
「気にすんな、すぐに治るから…」
「…お父さん、ありがとうございます」
「俺は何もしてねーだろ。礼ならそれくれた奴らに言えよ」
きつい言い方になってしまった。
言った後に帝人に八つ当たりしたのだと気づき、自己嫌悪に陥る。
だが、帝人は気にしないといった様子で言葉を続けた。
「お父さんのおかげなんです。僕がこうして皆からおめでとうって言ってもらえるのも、ここにいるのも。全部、全部お父さんのおかげなんです」
「だから、ありがとうございます」と小さな身体で静雄に腕を回す。
「僕にとっての一番のプレゼントはお父さんですね」
「…ッ」
反抗期が来たら本気で死んでしまうかもしれない、と静雄は帝人の頭をぽんぽんと撫でた。
2010/6/7