RECP | ナノ

「ん…」

人の気配がして目を覚ますと、僕の隣には山本武が眠っていた。
…どうしてコイツが此処にいるんだ。
屋上は開放されているとはいえ、今は現在進行形で授業中のはずだ。
僕が此処で眠り始めたのは昼休みが終わって五時間目が始まってすぐのことだったから、授業を抜け出してきたのだろうか。
腕時計を見ると、五時間目があと少しで終わる。
早くコイツを起こして教室に帰さないと。
起きるかと思って殺気を少し出してみたが、身じろいだだけで起きる気配がない。
トンファーを取り出し、のうのうと寝そべっている山本の首筋に添える。
コレで一発殴れば起きるだろう。
振り上げようとした瞬間、山本がトンファーを握っている僕の腕に頬を擦り寄せた。

「…ッ」

無意識のことだっただろうが、僕は驚いて腕を山本からバッと遠ざけた。
それでも山本はスースーと寝息をたてて眠り続けている。
そっとトンファーを握っていない方の手で山本の頬に触れてみると、その手に頬を擦り寄せてくる。
…これは、無意識に甘えているのか。
何故か自然な笑みが洩れた。
感触を確かめるように肌に指を添わすと、擽ったそうに顔を緩める。
なんだろう、心が落ち着く。
コイツからはマイナスイオンでも出ているのかな。

キーンコーンカーンコーン…

「…ん、あれ?ヒバリ…?」
「…!」

山本はチャイムの音でぱちっと大きな瞳を開いた。
ていうかチャイムの音で起きるくらいなら、僕が素直にコイツの名前を呼んだ方が早かったんじゃ…?
しかも僕が思わず微笑んでいたところを見られた。
記憶が飛んでくれないかなとトンファーで殴り付けようとしたが、山本の間抜けな笑い声でやる気が失せた。
上半身を起こして僕と目線を合わせたコイツは、にこにこしながら僕に話し掛ける。

「つい寝ちまったなー。今何時かわかるか?」
「五時間目の休み時間だよ」
「やっべ、後でせんせーに怒られっかも」

ハハッ、と笑いながら言っているが、何が楽しいんだろう。
怪訝そうな目で見ていると、山本とバチッと目が合った。

「それにしても、五時間目サボってよかったかもな!」
「…何で」
「ヒバリの笑った表情見れたし…っわ!なにすんだよ!」
「記憶削除」
「こえー!」

咬み殺してしまおうとトンファーを繰り出すが、寸前のところで交わされた。
ムッときて今度は本気で殴ろうと立ち上がると、「誰にも言わねーから勘弁!」と両手を合わせられ、なんでここまで僕の気を削がすことができるんだろうと、逆に疑問に思った。

「さっきさ、オレのこと触ってたよな?」
「…まあ、ね」
「何で?」
「何でって…」

自然と上目遣いになって、僕の目を覗き込んでくる。
ぐっと身を乗り出して見上げる山本に、何故か胸がドキッとする。
何、コレ。
何と言おうかと迷っていると、いいタイミングでチャイムが鳴ったので、屋上から追い払った。



「おーす!ヒバリっ」
「…何で来るの」

あれから寝る気も失せたので、残っている書類を片付けてしまおうと応接室で仕事をしていると、放課後に山本が現れた。

「部活は?」
「今日休みなんだ!せっかくだからヒバリの手伝いしよっかなって」
「わざわざ君が?」
「へへっ、実は草壁さんに今日は用事があるから委員長の手伝いを頼むって」
「どうして君に…」
「さっきそこで草壁と会って困ってたからオレが買ってでたんだ」

「困ってる人はほっとけないからな!」と言って、山本は一先ずとお茶を煎れた。

「何か手伝うことあるか?」
「じゃあこの書類、誤字や脱字が無いか調べて訂正。特に間違いがなければ此処に僕の名前を書くこと、いいね?」
「ヒバリの名前ってなんだっけ…?」
「…雲雀恭弥」
「あ、そうそう!いつもヒバリって苗字呼びだから忘れんだよなー」

ギロリと睨みつけると、山本はそれを笑って流した。
カリカリという音と、山本の何の歌かはわからないが、鼻歌が聞こえてくる。
それをBGMにしてこのつまらない作業を続けていると、山本は僕が特別に貸してあげたボールペンをテーブルに置き、書類の束を僕の作業机へと置いた。

「できたぜ!」
「もう?速いね……なにこれ」
「?」
「字が汚いし此処漢字間違ってるのに訂正してない」
「…オレ、漢字苦手なのなー」

気の抜けた言葉に怒る気も起きない。
はあ、と溜息を吐くと、「ごめんなさい…」と萎んだ声が聞こえた。
山本に目を向けると、しゅんと小さくなった姿があった。
なんでこっちが悪いことをしている気分になるんだろう。

「もういいから、棚に入ってるお菓子でも食べてなよ」
「え、いいのか?」

お菓子という単語を聞いた途端に山本の目はきらきらと輝き出した。
小学生がそのまま背が伸びて中学生になった感じのヤツだな…。
言われた通りに棚に入っていたクッキーを取り出すと、ソファに座りながらぱくぱくと食べだした。

「お菓子好きなの?」
「好きか嫌いかって聞かれたら好き」
「ふーん…」

「ヒバリも食べるか?」と聞かれたので首を横に振ると、最後の一つまで口に流し込んだ。
ごちそーさまでした、と手を合わせる様子までじっと見ていたが、豪快に食べる様子はなんというか見てるこっちまでお腹がいっぱいになるようで、気持ちがよかった。

「なあ、また来てもいいか…?」
「お菓子を食べに?」
「そうじゃなくてっ、今度はちゃんと…辞書とか持ってくるし……」

えーと、あの…と目をあちらこちらへ向けながら必死に言う様子が面白くて、思わずくすくす笑うと、山本はきょとんとして僕を見つめた。

「ヒバリ、絶対笑った方がいいぜ!」
「…何で?」
「えとな、笑った方がカッコイイ!」
「な…っ」

意気揚々と言ってのけた様は、邪気が感じられなくて、こちらが圧倒された。
嫌みなどではなく、純粋にそう思って言っているのだ、この子は。

「ヒバリ?ちょっと顔赤い…?熱でも…」
「…ッ別にないよ」

額に触れようとして伸ばした手を掃うと、山本は酷く傷付いたような表情をした。
だってこんなの僕らしくない。
こんなやつ、無視すればいいのに、目で追ってしまう。
小さな声で目を伏せながら謝る山本の額を指で弾くと、驚きながらもハテナマークを浮かべていた。

「これで赦してあげる。次はちゃんと辞書持ってきなよ。あと紙の辞書じゃなくて電子辞書を持ってくること。君だと一枚仕上げるのに何時間も掛かりそうだ」
「そ、そこまで馬鹿じゃねーよ!」
「馬鹿だよ」

「ひでぇ!」と笑いながら言う山本に、僕も小さく笑みを洩らした。





…こんなので言いでしょうか?
少しでもお楽しみいただければ光栄です!
祈里様のみお持帰りフリーです。

2010/1/10
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