RECP | ナノ
山本が痴漢されているシーンがありますので苦手な人はUターンをお願いします!

25雲×16山パラレル





毎朝並盛駅7時23分発の電車にあの人は乗っている。
名前も何も知らない。
漆黒の髪に長身で顔も調っててまるでモデルみたいだ。
どこかのサラリーマンらしい彼は、いつも人混みの中、電車の片隅で本を読んでいる。
高校生であるオレは野球の有名な高校にスカウトされ、入学金も授業料も免除だというので喜んでその高校に入った。
これで親父の金銭に対する負担が少しでも減ればなあと思ってのことだ。
少し距離があるので電車通学となってしまった。
いつも少しの距離なら自転車で済ましていたものだから電車なんて滅多に乗ったことがなかった。
慣れない電車にこの人ごみで酔ってしまい、倒れそうになったところをあの人に助けられた。
助けられたといってもよろけた体を支えてもらって「大丈夫?」と色のない声で尋ねられただけなんだけど。
それから何度か礼を言うチャンスを伺っているのだけど、何しろあの人は人を近寄らせないような空気を放っていて、近寄りがたい。
遠くで女子高生があの人を見てキャーキャー言っているのが聞こえる。
あの人はいつも八駅目で降りてしまう。
早く言わないと、早く行かないと。
そう思うが、身体は思うように動いてくれない。
これは緊張してしまっているのだろうか。
心の葛藤を続けるうちにあの人が電車を降りてしまった。
オレははぁ、と溜息を吐き、あの人の背を見送った。




「疲れた・・・」

高校に入ってから練習は今までの何倍にもきつくなり、帰りの電車内では壁にもたれ掛かっている。
今日はちょっと遅くなってしまい、いつもは空いている車内が混雑している。
うー、これは座れない・・・。
重い鞄を床に置き、足の間に挟んだ。
ぐったりしていると、何かが身体に触れる。
それは手のようで、オレの脇腹を摩るように撫で上げた。
なんで!?オレが男だってことぐらいは身長と体型でわかるだろ?!
後ろから荒い息遣いが聞こえてきて、ぶわっと鳥肌が立つ。
最悪だ、まさか男に生まれてきて痴漢にあうとは思いもよらなかった。
目をぎゅっと閉じると、その手はオレの尻をゆるゆると撫でる。

気持ち悪い!
恐怖に顔を歪めながらも後ろをゆっくりと振り返ると、中年の男がオレの背中にぴったりとくっついていて逃げられない。
あと二駅で並盛駅に着く。それまで我慢すればいい。
目を閉じて襲い掛かってくる恐怖に耐える。
並盛駅に着いた瞬間に鞄を抱くようにして電車から勢い良く飛び出た。
男に痴漢されただなんて、恥ずかしくて誰にも言えない。
零れてきそうになる涙を耐えながら唇を噛み締めた。

気持ち悪い、気持ち悪い!
自分の身体が汚されたような気がして家に帰るとすぐにシャワーを浴びた。
タオルに石鹸で泡をたてて身体をごしごしと赤くなるくらい洗った。
食欲もなかったが、親父に心配を掛けさせまいと無理に詰め込んだ。
明日も学校がある、電車に乗らないといけない。
またあんなことされたらどうしよう。
今日はたまたま遅くなっただけだし、明日は違う時間の電車に乗ればもうないよな。
そう自分に言い聞かせた。

朝、家を出るのが憂鬱になった。
だけど、そんなこともいってられない。
朝のいつもの時間の電車に乗り込んだ。
視界の端ではあの人が目を伏せながら本を読んでいる。
何故か、それをみるとホッとした。
あの人が降りる駅の次の駅がオレの降りるべき駅。
あの人が電車を降りてからはただ目を閉じた。
あと一駅、一駅で電車から降りられる。
無事駅へと着き、大きく深呼吸をした。
ほら、男が痴漢になんて普通合わないんだ。
いつも通りの生活を送っていれば大丈夫なんだ。
そう思えば肩の力がスッと抜けた。



「じゃあなー」
「おう!また明日!」

いつも通りに野球部の友人と駅で別れた。
今日は昨日と違っていつも通りの電車に乗ることができた。
電車に乗り込むと、一つ座席が空いていたのでそこに座った。
足の疲れがどっと降り懸かってきて、今日も一段と鍛えられたなと思う。
駅が変わるとともに人が増えてきて、目の前でおばあちゃんが辛そうに歩いていたので席を譲るとありがとうと言われた。
ちょっととはいえ足を休めることができたので、乗る前に比べたら大分楽になっていた。
念のため、壁を後ろにして立つ。
車内にぶら下げられている広告に目を向けつつ、並盛駅への到着を待った。

ゾワッ

身体がぶるっと震えて違和感に目を斜め後ろへと向けると、昨日と同じ男の手がオレの足に触れている。
なんでオレ・・・ッ、まさか標的にでもされているのか?!
冗談じゃないと言わんばかりに手から逃れるように壁から離れ、人混みの中に紛れた。
だが、それがまずかった。
男は昨日のようにオレの背中にぴったりとくっついた。
触られる感触に、顔の血の気が引いて来る。
またこれを我慢しないといけないのか。
いっそのこと大声を出してやろうか。
でも、男が男に痴漢されてるだなんて、一体誰が信じてくれるというんだ。
こんな考えがこういうことをする男の思う壷なんだろうけど。
並盛駅まであと三駅、昨日より多い。
震える手をぎゅっと握りしめる。
電車の扉が開いてあと二駅、と確認するとともに腕が急にひかれて車内から人気のないホームに追い出された。
よくわからずにオレを引っ張った人物を見上げれば、見覚えのある人。
漆黒の髪、オレより少し高い長身につりあがった瞳。
オレが毎朝見ている人。

「あの・・・ッ」

オレの掛けた声を無視して、あの人はオレを痴漢していたであろう男も車内から引きずり出した。
そして、電車が去った後、混乱している男をおもいっきり殴り付けた。
勢いで倒れてしまい、腰が抜けながらも後退り逃げようとする男をもう一度殴り付けると、男の胸倉を掴んであの人は静かに口を開いた。

「・・・次にまた、彼に手を出したら殺すよ」
「ひぃっ」

威圧感のある重々しい声色に、男は一目散に逃げ出した。
呆気に取られているオレは、口をぽかんと開けたまま、そのやり取りをみていた。

「君、大丈夫かい?」
「ぁ、えと、はい!ありがとうございました!!」

頭をガバッと下げると、頭の上でクスクスと笑われた。
印象が随分違う。
数日見ていただけなのだが、氷のように冷めた人だと思っていた。

「あの・・・?」
「いや、気にしないで。君、この前倒れそうになってた子だよね?」
「は、はい。また助けてもらっちゃって、本当にありがとうございます」

覚えてくれてたんだ・・・。
何故かそれだけでうれしかった。

「痴漢されたのは今日が初めて?」
「昨日、に・・・」
「・・・そう、昨日もアイツにやられたの?」
「・・・はい」
「・・・・・・もう一発殴っておけばよかったかな」
「え?」
「なんにもないよ」

小さな声だったのでうまく聞き取れなくて聞き返すと、はぐらかされた。
次の電車が着いて、それに乗り込もうとすると、足が縺れて転びそうになったのだが、支えられて転ばずにすんだ。
大分空いていたのであの人と一緒に座席に座った。

「君って結構危なっかしいよね」
「面目ないです・・・」

少ししゅん、と小さくなると、頭を優しく撫でられた。

「僕は雲雀恭弥、君は?」
「山本武です」
「じゃあ山本君、君はいつも大体この時間帯に帰るんだね?」
「はい、部活が朝練ないかわりに遅くまであるので」
「じゃあボディガードの意味を含めて一緒に帰らないかい?どうせ降りる駅は一緒だし」
「いいんですか・・・っ?」

携帯を出し、赤外線でアドレスと電話番号を送る。
どうしよう、すごく嬉しい。

並盛ー、並盛ー

「ああ、着いたようだね」
「あの、今日は本当にありがとうございました!」

一礼すると、雲雀さんは優しく微笑んで、手を小さく振って帰って行った。
胸がドキドキして苦しくなる。
あれ?なんだコレ・・・。
よくわからない感情に疑問を抱きつつも、鼻歌を歌いながら帰った。


2010/1/6

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -