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不死川実弥生誕祝い小話2020年






キメツ学園時間軸。
不死川には前世の記憶あり。
嫁は図書館の職員さんというゆるふわな設定。


当宅の不死川は享年25歳設定。



――――――――――――――――


「夏風」
「うん」
「そろそろ、足が痺れてきたんだが」
「うん」
そう言うが己に引っ付いている夏風が動くことはない。ぐりぐりと胸に頭を擦り付け背中に回る手が緩む気配もなくもうしばらくこのままの体勢が続くのだろう。
嫌ではない、むしろ大歓迎だ。
前世の伴侶、今回もそのつもりの予定である人物が頬を緩ませて身を預けているのだ。嫌だと言う者がいるなら是非ともお目にかかりたい。
しかし、己も一人の男である。
自他ともに認められている交際関係の女性が自分の部屋に訪れて抱きついて来ているのだ。密着しているため彼女、夏風の香りも柔らかさも間近に感じる。
そろそろ限界という物があった。何とは言わないが察してほしい。背中に回していた手をゆっくりと彼女の服の下に滑らせる。
その動きに気が付いたのかようやく顔をあげた夏風がちょっと制止の声をあげた。
「嫌か?」
「……嫌ではないけど」
もうすこしこうしてたいなと恥じらいながら口を尖らせ津る彼女に息が少しだけ詰まる。前々から思っていたが無意識にそう言う事をするのは本当に辞めてほしい。
特に仕事中にくらうのが一番つらい。何度たえて歯を食いしばった事か。そのうち奥歯が欠ける気がしてならない。
「べたぼれじゃねぇか」と腹を抱えて笑う美術教師や「結婚スピーチはまかせろ」と胸を張る体育教師どもに弄られる日々だ。そもそも何故自分がまかされると思っているのだあの男は。その役目は公民教師の人にすると決めている。諦めろ招待はしてやるが。
「実弥?」
ハッと我に帰ると今だ夏風は腕の中でこちらを不思議そうに見つめている。今はあいつらの事はどうでも良い。この据え膳を丁重に頂くことが先決だ。
都合が良いことにベットの上でくつろいでいたのでそのままコロリと横に倒れる。あとは流れに乗る様に簡単だ。
夏風の細い首を啄み、薄いセーターの中に滑り込ませた手はその慎ましい頂きにたどり着いた。
華奢な装飾が施された下着の上から柔く可愛がると、夏風の目じりが赤くとろとろと溶けていく。漏れる始めた吐息と微かに開いた口から除く舌が酷く己を駆り立て誘い込まれるように重ね合わせる。
夏風の方が少しだけ冷たくあぁ、温めてやらないとなと己の熱を分けるように交わりを深くした。首に回される白い腕がその先の行為を求めているのは己だけではないという事を実感する。
潤んだ瞳、上気する頬。すべてが己を誘い込んでいた。
「寒くねぇか?」
「まだ少し」
そうかなら丁重に温めてやらねばならない。


*


「実弥は意外とちゅーするの好きだよね」
うとうと微睡むように夏風はそう呟く。ほぼ半分は寝ているようでむにゃむにゃと何か続けているが言葉として成り立たずに音となって飛び立っていく。
先程まで暑くてたまらなかったが今は少しだけ寒い。
自分がそうなのだから寒がりの彼女はもっと寒いだろう。
案の定、熱を求めて足を絡ませ腕の中に潜り込んできた。
しっとりと汗ばんだ髪を梳いてやるとこそばゆいのか「んふふ」と何とも気の抜ける声が耳をくすぐる。
胸の辺りに添えられたか夏風の手はまごうこと無き女の手をしていた。
白く細く白魚のような手。刀なんて握ったことの無い手。柔くて脆い手。
鬼の居ない世である。それが当たり前なのだ。
指を絡めて握ると無意識だが微かに握り返してくるその様子がたまらなく愛おしい。
(ちゅーするの好きだよね)
否定はしない。重ねた後のお前の顔が好きなのだ。
眦を下げ頬を緩ませる姿が今もあの時も一等好きでたまらない。

眠る夏風を起こさない様に寝返りを打つとカーテンを閉め忘れた窓から白銀の月が見えた。
「置いて行かないで」
瞬く瞬間にそんな景色がかすめる。月光の差し込む夜。虫の音と風の音だけが聞こえると廊下とほろほろと雫をこぼす夏風の姿。
嗚呼、これは昔の記憶だ。
今の不死川実弥ではなく過去の不死川実弥が見ていた景色。
眠りにつく最後の年の夜の出来事。

*

前触れもなく咳きこんでしまう。以前よりも体が重く動きが鈍くなった。
もうすぐだなんだなと痩せてしまった己の手を握る。痣者となった己に課せられた時間の終わりが来ている事に。後悔はなかった。間違ったとも思っていなかった。
隊士として柱として正しい選択だった。
そうは思うが一つだけ気掛かりがある。
己の妻と子供の事だ。
どうあがいても自分は妻たちを置いて行ってしまう。
鬼殺隊士として正しかった。だが夫として父親としては正しくない選択だった。
妻は今までと変わらぬ日常を過ごしているように見えるが。賢い彼女の事だ。
自分の様子から終わりが近いことなどわかりきっているのだろう。それを悟らせない様にと気丈にふるまう姿は痛々しかった。
「ととちゃん。どしたの?」
庭先で遊んでいた翡翠が弟たちの手を引いて来る。ついこの間まで母親にべったりだった息子はいつの間にか下の子の面倒を見るようになっていた。
子供の成長は瞬く間というのは本当らしい。もう少し母親の仕事を手伝う様にもなるのだろう。だがその姿を見ることは決して出来ない。
それはとても悲しいことだ。
「泣いてるの?」
「嫌、泣いてねェよ。」
おいでと息子たちをまとめて抱え上げるとキャラキャラと笑い声が上がる。重くて暖かい。
命の重さだ。
「なぁ、俺と約束してくれ」
「やくそく?なぁに?」
「俺の分まで母ちゃんを、夏風を守ってやってくれ」
翡翠は言葉の意味はちゃんと解っていないようだが何か思う事があったのか。解った小さくうなずき、紅葉のような手できゅっと己の着物を強く握ってきた。
「ぶしににごんはない」
何処でそんな言葉を覚えてくるのやら。


その夜、ふと目が覚めた。部屋の暗さから朝には程遠い時間帯でもう一度瞼を閉じようとしたが横にあった筈の熱がないのに気が付く。
「夏風?」
返答はない。厠にでも言っているのかと思ったが妙な胸騒ぎがして布団をでた。冬へと向かうこの時期の夜は寒い。
ひんやりとした空気が頬や素足を撫でる。
夏風は部屋を出たすぐの廊下で見つけて目を見開いた。
泣いていたのだ。静かに、息を殺すように。

「夏風」

虫の声よりも小さなそれだったがちゃんと届いていたようで。彼女はハッと顔を上げこちらを見た。自分が起きてくるなんて思ってもみなかったのだろう。
慌てて目を拭いながらごめんなさいと言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい。大丈夫だから、気にしないで夢見が悪かったの」
平気だからと繰り返す彼女の手を握る。冷え切っておりかなりの時間此処に居たのだろう。そのまま手を引き腕の中に閉じ込めた。
「一人で泣くな、思ってる事全部言ってくれ。お願いだから」
乞うよう、縋る様に絞り出した声はなんともみっともない音だった。
月に雲がかかり差し込む月光が消えていく。
仄暗い廊下には虫の声と木々を揺らす風の音だけが鼓膜を揺らす。

「置いて行かないで」

どのくらい立っただろうか。ポツリとこぼれたそれ。
それがきっかけの様に夏風の言葉がぼろぼろと流れていく。
置いて行かないで、寂しい。悲しい。お願いだからこの人を連れていかないで。
神様お願いです。お願いですから、私からあの子たちからこの人を奪わないでください

お願いします。
神様。


言葉は羽ばたき終えたのか、もう出てくることはないが夏風の目から流れる雫は今だ収まる兆しはな無い。
肩を震わせている彼女の頭を撫でる。
「神はよォ。一番の願いを聞いちゃくれねぇんだよなァ。」
その癖、反吐が出そうなものばかりを与えてくる。容赦なくこちら慈悲もなく奪っていく奴だ。

「どうやっても避けようがないみたいだ。」
「はい」
「だから夏風。俺はお前達を置いていく。」
「……っ承知しております」
「だからお前が来るまで待っている。」

来世があるならばお前を探してどんな手を使っても見つけ出す。
約束するから。
もしそしたらまた
「俺と夫婦【めおと】になってくれないかァ?」

雲隠れしていた月が再び顔をのぞかせる。
こちらを見上げる彼女の額に自分のを重ねた。視線が、呼吸が近くなる。
熱が溶けて交わっていく。

「必ず見つけてくださいね」

そう顔をほころばせる夏風は何よりも愛おしかった。
月光が自分達のを照らす。
廊下に伸びる影が二つから一つになるのを見ているのは月だけだった。


*

「約束ちゃんとまもったからな」

不死川は今だ起きる気配のない夏風の指に金色のそれを通す。
彼の見立て通り。飾られたそれは彼女の白い手に良くなじみ月明りに照らされ美しく輝いていた。
目覚めた彼女の反応はきっと不死川の期待通りの物だろう。
また目覚めた時に改めて告げる言葉の返答を今年の彼女からの贈り物として受け取ろうと思い。不死川は目を閉じる。

「おやすみ夏風」

そう言って夏風を抱きしめるように回した彼の手にはめられたそれを月が輝かせているのであった。





プロポーズ、約束もろもろつめこみました。
当宅の不死川夫妻の指輪は金色です