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不死川実弥生誕祝い小話






窓をカタカタと鳴らしてる。
火にかけている鍋から視線を窓の外に向けると、この葉をのせ吹いている風は冬の訪れを告げるように寒さを含み出さしていると思い始めたのは、数日前の事だ。
息子の、翡翠の布団を厚手の物に変えよう、ついでに自分の物も後で出そうかと思ったが、その必要はまだないかと行き着く。何せ出したとしてももう1人の布団の使用者に暑いと小言を言われるのが目に見えていた。
冬の寒さが苦手な自分が、まだ冬布団も湯たんぽも使わないでいるの一重に彼自身が熱いお陰なのだが、
「夏はどうするんだろう」
真夏になればそうも行かないだろう、夏用に一組布団を買うことを提案してみるかと、鍋の火を止めた。
戸棚から漆の塗られた黒いお椀を2つ出す。
これは、自分が此処に越した祝いに師範から頂戴したものであり、高価なものだから中々使えないでいたが、今日使うべきだと昨日から決めていた。
鍋の蓋を開け器に盛る。
とろりと温かな湯気と甘い香りが鼻を刺激する。
深い小豆色のそれに焼いておいた餅を、一つと三つのせれば完成だ。
初めて作った割には中々の出来栄えに1人うんうんとうなづいて己を褒める。
「おはぎは無理だけどこれなら」
そう言って、濃い目の緑茶を入れ盆に乗せて、居間へ向かう。

*
昨日出した火鉢のお陰で部屋は暖かく、
最近四つん這いをする様になった翡翠が機嫌よく部屋の中を散策している。
私が来たのに気がついたのかこちらに向かって来ており抱っこをねだっているのが見て取れたが今は盆により両手がふさがれており、その希望に応えることが出来ない。
ちょっと待っててねと言って盆を机に向かおうとするが、すぐに抱っこされなかった事が嫌だったのか丸い目に段々と涙が滲んできており、ふぇぇとか細い声を上げ私の足元の服を翡翠は掴んだ。
本格的に泣かれる前に抱き上げたいが手に持っている物を置かないとそれは叶わない。
どうしたものかと動かないでいると、私の後ろから伸びてきた腕がひょいと翡翠を持ち上げた。
「母ちゃん困らすなァ」
そう言って翡翠を腕に抱えその見た目からは想像もつかないくらい優しく背中をぽんぽんと叩いてる。
何度見てもその光景は慣れないというか、ほかの人が見たら目の玉飛び出すだろうなと思っていると、
視線に気がついたのか、不死川が何だと言ってきた。
「抱っこ、上手いよなと思って」
何だその安定感、そう溢す。
「まぁ、弟達で慣れてんだよ」
そう言った彼の目は翡翠に誰かを重ねているようにも見えた。それが誰なのかわからないがおそらくまた会う事のない人達なんだろう。
不死川は私の持っているもが気になったようで何だと聞いて来たので、本来の目的を思い出した。
「八つ時に善哉作ったからどうかと思って」
「お前にしては珍しいなァ、甘味なんてよ」
「たまには、良いじゃない。たまには」
なんて事のない風にそれらを机に置き、食べたまえよと彼に促す。
不死川も私の様子に少し面食らいながらも、腰を下ろした。翡翠が彼から私のところに向かってくるのを今度はちゃんと迎えながら目線は彼から逸らさない。
黙々と食べ進めて餅を一つ飲み込み湯飲みに口をつけたところで味どうだと感想を求めた。
「悪くねェ」
その言葉にほっと安堵のため息をつく。そこで何か気がついたのか不死川が私を見てきた。
「お前が一から作ったのかァ?」
「ま、まぁ」
「器、悲鳴嶼さんから貰った奴だろ」
「そうだね」
なんでまた、そう言いたいのだろうだがあえて言わないのは自分から言わせたいのでなく、私が自発的に言わせたいのだ。
いざ言おうとするとなんだか気恥ずかしくなり、翡翠を抱えながらウロウロと目線を彷徨わせる。
「今日、君の生まれた日と知ったから、その何かお祝いしたいと思ったんだ」
わかったのが3日くらい前で何か送ろうにも時間がなく、せめて君の好きな物をと思ったが、
おはぎは使った事がなく失敗するのを恐れて善哉になったと。
俯きながら辿々しく説明した。
少しの間無言の時間が流れる。ぴゅーうと吹く風の音がよく聞こえた。
「夏風」
不意に不死川が私の名前を呼ぶ。顔を上げると彼と目があった。
その目は普段のような鋭さも荒々しさも隠れて、何処か暖かいような。強いて言うなら先程鍋を開けた時に感じた、とろりと温かで少し甘いそんな何かがあった。
「だから、慣れねェ甘味作って、大事にしてた器を出したってかァ。本当にお前」
可愛いなァ。その音が自分の耳に届いた時、最近なる事なかった沸騰したようなあの感覚に襲われる。
炭治郎たち曰く、頭から湯気が出るような様子と祝えているだけあって、本当にしゅーという音がしているようで耐えきれずに腕にいる翡翠に顔を埋めた。
翡翠は何もわからずただ遊んでもらえてると思っているのかご機嫌そうにケラケラと笑っている。
ぁぁそうだ、まだ伝えていなかった事があった。
絶対伝えたい1番に思った私の思いだ。

意を決して顔をあげる。

-実弥、産まれてきてくれてありがとう-
-私を好いてくれてありがとう-
-翡翠と合わせてくれてありがとう-

[私、実弥と巡り合えて良かった]

きっと今私の目も彼と同じ暖かな甘い何かが宿ってる。




生きてくれてありがとう
11/29不死川実弥生誕祝い