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君は太陽の子



子供が泣いていた。
痛い痛いと言って泣いていた。
此処には居ない人を求めて泣いていた。
自分はどうしてやることも出来ずただその小さい体を抱えて外にでた。

*
激動の時を終えた砂漠の王国はようやく穏やかさを取り戻しつつあった。
再び立ち上がり歩みだしたその足取りは力強くそしてもう決して揺るぐことはないだろう。
ゾロを含めた麦わらの一味は現在、ビビの家である王宮でひと時の休息についていた。
あの戦いから早一日、それぞれ目を覚まし各々の活動できるまでに回復を見せている。
ゾロが散歩というには長い放浪から戻り、部屋にたどり着くと扉の前でチョッパーとナミに出くわした。
持っている物からしてあの部屋から帰って来たのだろう。
「あいつの様子はどうだ」
その言葉にチョッパーはただ無言で首を横に振った。
「まだ熱も痛みも引いてない」
「今は鎮痛剤を打って落ち着いたけど多分すぐに…」
その言葉の先はゾロでも理解ができた。そうかと返して、扉を開ける。
中ではビビがルフィの額に新しいタオルを載せている所だった。
自分達に気が付て顔を上げた彼女は、ゾロの後ろに居る二人の様子からあちらの容態も推測できたのであろう。
「名前さんまだ良くないのね」

まだ目を覚ましていない人物が二人いる。
船長のルフィと名前だ。
ルフィはこの騒動の元凶であるクロコダイルとの戦いの疲労と、傷からの熱によりまだ起きる様子はない。だが、順調に回復に向かっており明日明後日には目を覚ますだろうと言うのがチョッパーの見解だ。
それに対して全員がコイツの事だからそう簡単に死ぬはずがない、またすぐに騒がしく目覚めるのだろうと口々に言っていた。
問題は名前の方である。
彼女はクロコダイルに打たれた毒により、ルフィと同じくまだ目を覚ましておらず、その容態も回復の目途が立っていない。
聞くにその毒は竜にとっての猛毒と呼ばれる植物の蜜だったという。
屠龍花の蜜は根の次に毒性が高いらしく、原液であれば一滴で名前は死に至ってた。
まだ命があるのは、使われたのが薄めた物であった事と彼女がサラマンダーであった事だ。
サラマンダーの血液自体が万能の薬とされているため、体内で解毒が出来たのではないかという事らしいがそれでもその毒は確実に名前を蝕んでいた。
チョッパー曰く屠龍花は人には全く無毒の為、その対処法がどの書物にも書かれておらず全く分からないらしい。
体の症状から慎重に薬を投与してはいるが、今の所良い兆しは見えてないのだという。
「ごめん、俺にもっと腕と知識があれば名前を早く元気にしてやれるのに」
ごめん、そう言って涙をこぼすチョッパーを誰も攻める事はしなかった。
「謝るな、お前が居るからまだ名前は命をつなげている。」
他の誰にもできない事だ。そう言ってゾロはあの時あいつの手を掴めなかった自分にも責任があるそう拳を握った。
レインベースでの出来事。
一瞬油断した、目の前の命の危険から生還できたことに対しての安堵による物、敵陣の中でだ。
ありえない、恥ずべき事だったと思うのは後の祭りでそのしわ寄せが名前に行ってしまった。
あの時油断をしなければ、あの時あいつの手をちゃんと掴んでいれば、そんなありもしないもしもの事ばかりを考えてしまう。
らしくないと頭をかいて再び扉に手をかけた。するとナミが自分の向かう先をわかっていたように鎮痛剤切れたようだったら伝えに来ることを言って水差しを押し付けてくる。
「飲ませられそうだったら飲ませて、あの子力強いから私とかじゃ無理なの」
あんたならできるでしょと持たされたそれにはたっぷりの水が入っていた。
「あぁ」


たどり着いた部屋は自分達の所よりもずっと小さな部屋だった。
けれど、日当たりも良く、窓のからは心地の良い風も流れてきており、そのままバルコニーに出られる居心地の良さそうな所である。
その部屋に用意されているベットに名前はいた。
手に持っていた水差しをベット脇の机に置き、近くの椅子に腰を下ろす。
何気なく名前の頬をつまもうとするがあまりうまくいかない、眠っている彼女の顔色は悪く、ようやくついてきた頬の肉も少し薄くなってしまったようだ。髪もビビやナミが真剣に手入れをして綺麗な艶を持っていたが、今は少しパサついているように見える。
目に見えても解る彼女の様子は思っていた以上だった。
「コックが騒ぐわけだ。」
サンジは自分よりも早くここに訪れてそして名前の様子をみて膝をついたそうだ。
「見るのが辛い、変わってやれない自分が呪わしい、嘆かわしい」
無理辛いと泣いて騒ぐサンジがチョッパーにより、この部屋を出禁になったのは数時間前の事である。
治療の邪魔、騒ぐだけなら部屋でやれとサンジを放り投げるチョッパー姿は普段からは想像もできない姿だったのには驚いた。それほど名前は緊迫している状態なのである。
「うっ…」
そんなことを考えていると眠っていた彼女が音を発した。
もしや気が付いたのかと思い名前を呼ぶが、どうやら違うようで、次第にその音は苦しい呻き声となっていった。
鎮静剤が切れたのか呼吸が荒くなり、痛みに耐えるように胸や喉を掻きむしり始める。その所為でやせた喉に何本もの赤い線が生まれ血が滲みだしている。
止めさせるために咄嗟に手を引きはがそうとするが、その外見から想像もできないほどの力をしてなかなかやめさせることができない。
弱っている時でさえ人間の大人をしのぐそれに、名前は人ではないのだという事をまざまざと見せつけられた気分だった。
何とか手を押さえつけ傷を増やす事はなくなったがこのままではチョッパーを呼びに行く事が出来ない。
「おい名前しっかりしろ」
そう何度も名を呼ぶが彼女の目は開くことはない、唸っていた音が言葉となって口から聞こえてくる。
「いたい、いたいよ」
いたいよそう何度も何度もつぶやいて名前はグズグズ泣き出してしまう。掴んでいた手も次第に力が弱くなっていく、これは単純に彼女の体力がなくなってきたせいなのかもしれない。
手を放しても先ほどの様に掻きむしる事はなく布団を握りしめている。今のうちにチョッパーに知らせるかと思っていると部屋の扉が開き今まさに呼びに行こうとしていた彼がはいって来た。
「名前の薬が切れたのか!?」
自分の様子から彼女の状態を察したのだろう、パタパタと駆け寄って持っていたカバンを開く。そして手際よく注射器を準備すると自分に向かって名前の腕を押さえているように指示した。
「それで、良くなるのか?」
「症状から似たような成分の毒を解毒する薬なんだけど」
聞くかどうかはまだわからないと注射した場所に絆創膏を張る。そしてまだ泣いている名前の頭をチョッパーは優しく撫でた。
「名前辛いよな、苦しいよな。絶対俺が治すからだからもう少し頑張ってくれ」
ごめんなと青い鼻を鳴らして鼻をすする。彼に水を飲ませた方が良いかと聞くと多分戻すかもしれないけど飲まないよりはと大きくなって彼女を抱き起こした。
「吐くのか」
「うん、点滴で栄養を送ったりもしてるけどそれでも吐くときがあるんだ。毒が体に栄養自体を取らせないように拒否反応を出させているんだとおもう。」
「竜殺しの植物と言われているだけはあるな」
最悪衰弱死かとこぼす自分にチョッパーは俺がそんな事させないと名前の口に少しだけ水を含ませる。
ゆっくりと飲み込んだのも束の間、嘔吐反射を見せ始めた。とっさにベットの下に置いてあった洗面器を掴むとそのまま彼女の口の下に持っていく。
「吐きたいなら出しちまえ」
名前はチョッパーに体を預けな背中をさすられている。洗面器には水と胃液のようなものしか落ちてこなかった。少しして収まり、またグズグズと唸り出す。
「amasiziz,amasiziz,」
そう言って誰かの名を恋しそうに呼び出した。久々彼女の口から聞いたドワーフ語だ己はそれを理解することはできないが何を求めているのかは大体の予想は付く。
家族を恋しがっているのだ、もう会うことができない人を呼んでいるのだ。チョッパーもそれを理解しているのか何も言う事なく彼女の頭を撫でる。
どうすることも出来ず視線を窓の方にやると、さんさんと輝く太陽が目に入った。名前が砂漠で一人だけ元気そうに駆け回っていたのが遠い過去の様に思い出される。
そこでふっとそこでウソップやビビが会話していたことが脳裏をかすめる。
【船に居る時よりも元気なんじゃねえか】【サラマンダーは本来火山帯や溶岩地帯に生息する竜だから】
そして、よくメリー号で彼女が日向ぼっこしていた光景が浮かんだ。
「太陽」
そう言うが早いか名前を抱え上げる。突然の行動にチョッパーは慌てているがそんなことに構っている時間はない。ひんひんと泣いている彼女を抱えそのままバルコニーに向かう。
「何やってんだよゾロ!!」
「こいつに太陽をあてる」
日向ぼっこしてると元気になるの。最初は気分の事を言っているのかと思ったが今考えてみれば本当に名前は太陽からエネルギーを少しずつ吸収していたのかもしれない。
そう話すがチョッパーはまだ渋い顔をしている、医者からしてみれば重病患者を安静にさせて置きたいのだろうが思いつくことはやれるだけやって方がよいだろう。
「やらないで後で後悔するよりマシだろ」
後で何とでも文句は聞いてやると外に踏み出した。
バルコニーは太陽の光が燦々と降り注いでおり白いレンガがその光をまぶしく照り返している。涼しかった室内とは違いじわじわと暑さを感じ額に汗がにじんできた。町の賑わいも遠くのほうで聞こえこの場だけ切り取られたかのようにとても静かでただ名前のすすり泣く音だけが響いている。
「名前太陽だぞ」
そう言って抱える子供に声をかけるがもちろん反応が帰ってくることはなかった。
心配だったのかチョッパーも部屋から出てきて自分たちの様子をうかがっていた。突然彼が何か気が付いたようにあっと、こちらを指さしている。
「名前の角が」
光ってる。見ると、彼女の頭部にある二本の角がぼんやりと青白く光っていた。それは微かではあるが蛍の光の様にゆっくりと静かに点滅を繰り返しており、気が付くと名前は泣き止み静かに寝息を立て始めている。
物は試しと思ってやったことだがまさか本当に効果があると思っていなかった。
けれど、少しずつだが名前は消えかかっていた灯火をまた吹き返し始めているようで、思わず安堵の息が漏れる。
「生きて会うんだろ、なら死ぬな」
此処で死ぬな。そう彼女の頭を静かに撫でた。


名前の目が開くのはそれから二日後の事だった。