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不帰の雨



―あめあめ ふれふれ かあさんが
―じゃのめで おむかえ うれしいな
―ピッチピッチ チャップチャップ
―ランランラン


ぽつぽつぽつと灰色の雲から雨が降っていた。
水滴は、窓のガラスにあたって見える景色を歪めていく。
その様子ただソファーに座って眺めていると不思議と頭の中に言葉が浮かんできたので、無意識にそれを口ずさんでいた。

―かけましょ かばんを かあさんの
―あとから ゆこゆこ かねがなる
―ピッチピッチ チャップチャップ
―ランランラン

「名前ちゃん昔のお歌知ってるんですね」
前にも歌ってましたよね、とパタパタとトガちゃんが近くに来て隣に腰を下ろす。そのまま私の顔を覗き込んできた。
「お兄さん、まだ帰ってこないみたいなので、名前ちゃん、よしよしできますね」
今の内ですと頬に手を添えてくる。彼女はこうやってよく私の頭や頬とかを触る、それでいつもお兄ちゃんに怒られているけど気にしていないみたい。
その手が気持ちよくて、だんだんと瞼が重くなる。
「名前ちゃん私のお膝貸してあげます!」
さぁさぁと肩を引かれて、抵抗することなくトガちゃんの太腿に頭を載せた。そのままうとうとしていると彼女は機嫌が良さそうに髪を手で梳いてくれる。
「雨、止みませんね。」
「うん」
一日振るみたいですと言うトガちゃんの声を聞きながら、私は、微睡ながらあの歌の続きを口ずさんでいた。

―あらあら あのこは ずぶぬれだ
―やなぎの ねかたで ないている

「名前ちゃんは雨が好きなんですか?」
「好きじゃない」
私の返事に、お歌を歌ってたから好きかと思ったという彼女は少し驚いた顔をしていた。
「好きじゃないから歌ってた、そしたら」
ちょっと元気になれるんだって。もう瞼がくっついて開けていることが出来なる。
梳いてくれる手が心地よい、意識がだんだん離れていく感じがした。
「誰が教えてくれたんですか?」
トガちゃんの声が遠くのほうでする。
「だれだっけ」
わすれちゃった。

―ピッチピッチ チャップチャップ
―ランランラン



**


ザーザーと強い雨がふっていた。
その為か、普段よりも気温も低く感じ肌寒い。
キュルキュルとお腹から音が聞こえ自分が空腹である事を知らせてくる。
やっぱり帰ろうかと思う反面、先ほどの出来事とまだ熱い頬の熱を思い出して動くことが出来ない。
帰りたいでも、帰れない、そんな事が頭の中でぐるぐるとまわっている。
けれど、ずっとここにも居られない。
自分が今いる公園の穴ぼこが開いたお椀の形をしたものは雨はかろうじて避けられるけど。風はそうはいかない。
時折吹いてくる風が冷たく、思わず身を縮めた。
そんな時に足音が聞こえてきて、それはこちらに向かってきてる。
こんな雨の降る時に公園に用があるなんて普通の人はないはずだ、悪い人かもしれない、どうしたらと思っているうちに足音はすぐ近くまで来ていた。
「見つけた」
声がする方を見るとそこには黄色い合羽をきた焦凍が立っていた。
「名前心配したんだよ。」
帰ろう、そうやって私に伸ばしてきた手を見て首を横に振る。
「帰らない」
「どうして?」
「だって、だってお父さんが私は自分の子じゃないって」
だから、帰らない。そう抱えていた足に顔を埋める。
【出来損ないのお前は俺の子ではない】そう言われたのだ。

―かあさん ぼくのを かしましょか
―きみきみ このかさ さしたまえ

事の始まりは、お父さんが私と一緒にいた焦凍に稽古をつける時間だと言って連れて行ってしまった。追いかけようとしたけどお姉ちゃんに行っては駄目だと掴まれて行けなかった。
いつも稽古が始まると、焦凍の声が聞こえてくる。泣き叫んでる片割れの声が、痛いと苦しんでる兄の声が耳に届いていつもいつも嫌だった。
助けたかった、何もできなくても傍にいたかった。
だから今日は今日こそはと、私があきらめたと思ったのかお姉ちゃんの掴んでいた手が緩んだのと同時に駆け出して、訓練場に向かった。
「名前だめ戻ってきて!」
そうお姉ちゃんが後ろのほうで叫んでいるのが聞こえたけれど、足を止める事はしなかった。
走って走って、たどり着いたそこで目にしたものは、倒れこんで蹲っている焦凍とそれの傍にいるお母さん。怖い顔で二人を睨みつけているお父さんがいた。
お父さんがお母さんを叩いて焦凍から引きはがしてる。
「やめてよ!!」
気が付いたらそう叫んでいた。三人とも私が此処に居るのに驚いているようだけどそんなこと気にしてられない。
走って二人を背に手を広げてお父さんの前に立つ。
「もう焦凍とお母さんいじめないでよ!」
「名前」
来ちゃだめだよと言う焦凍の声なんか知らない。
歯を食いしばってお父さんを見る。
「邪魔だ、退け」
「嫌だ!退かない!」
そんなこと言うがお父さんは私の腕を掴んで無理やり退かせようとしてくるがその腕に必死にしがみ付いて抵抗した。
「二人をいじめないって言うまで退かない!焦凍に酷い事しないって言うまで退かない!お母さんを泣かせないって言うまで絶対退かない!」
「五月蠅い!焦凍の為だ!」
「嘘だ!焦凍嫌がってる!こんなの、こんなのヒーローのする事じゃない!」
そんなお父さん、ヒーローなんかじゃない!そう叫ぶと体が飛んで床に叩き付けられるのを感じた。
私の名前を叫んで走り寄りお母さんに抱き起こされ、じわじわと涙が溢れそうになるが我慢して立ち上がり怖い顔をして私を見るお父さんを睨んだ。
「お前に何が解る、ヒーローの素質の欠片もないお前に」
何度だって言ってやる。そんなのヒーローなんかじゃない。自分より弱い人泣かす人なんて、嫌がる事を無理矢理させる人なんて。
「絶対オールマイトに勝てるわけない」
その瞬間右頬に強い衝撃を感じまた床に倒れこんだ。じわじわと熱くなってくる頬にようやく打たれたのだとわかった。
あまりの痛みに今度は耐えられなくて涙がこぼれてくる。
「俺の個性を受け継がず、母親の個性も碌に使えない出来損ないのお前は俺の子どもではない」
目障りだ、消えろと私見ることなくお父さんはそう言った。

―ピッチピッチ チャップチャップ
―ランランラン

「雨やまないね」
隣に座ってる焦凍は空を見上げながらそう言った。
帰らないと答えた私にじゃあ僕も帰らないと言ってきて、よいしょと隣に座ってきたのがさっき、何をするわけでもなく焦凍はただ私の隣で雨を見ていた。
「名前は僕の妹だよ」
急に焦凍がそんなことを言い出した。
僕の妹で、僕たちは双子で、僕の兄妹だよ、そうポケットから手鏡を取り出して自分と私の顔を移す。多分これはお姉ちゃんの手鏡だろう、可愛いお花の模様が付いていた。
「ほら似てるよ、ね?」
同意を求めるように私を見つめてきたので、うんと頷く。そしたら嬉しそうに焦凍はわらって、じゃあ僕たちは家族だよ。
「大丈夫名前もうちの子だよ」
そういって私の事をぎゅっと抱きしめてくれた。僕とお母さんを助けてくれてありがとうと頭を撫でて打たれた頬にそっと触れる。まだ痛いかと聞かれたので少しと言うと、早く治るおまじないと言って、私の瞼に口をつけた。
「変なおまじない」
「この間やってた映画でみたんだよ。そしたら、倒れてた主人公が目を覚ましたんだよ。」
きっとすぐに痛くなくなるよ、それがなんだか可笑しくって笑ってしまった。焦凍もつられて笑っていて、少し温かくなった気がした。
「名前一緒に帰ろう」
さっきと同じように私に手を差し伸べる。今度はそれに自分の手を重ねた。二人でお椀の中からでると雨は少し弱くなっていたがまだ降っている。
焦凍が持ってきた傘に二人で入って歩き出した。
「帰るの少し怖い」
「お姉ちゃんもお母さん心配してたからね」
「そうじゃない」
お父さんに会うのが怖い、そう呟くと焦凍はお歌を歌おうと言い出す。
「嫌な事があっても歌を歌ったらちょっと元気になれるよ」
僕も稽古中に頭の中で歌うのと話してくれた。どんなお歌と聞くとオールマイトの歌と言われた、私はあまりよく知らないので違う歌にしようと言った。
そして、二人でせーのと歌い始める。
『あめあめ ふれふれ かあさんがじゃのめで おむかえ うれしいな』
少し元気になった気がした。

―ぼくなら いいんだ かあさんの
―おおきな じゃのめに はいってく


**

「名前」
ゆっくり瞼を開けると、お兄ちゃんが私の頭を撫でていた。もう日が落ちているみたいで窓の外は夜の色をしている。
トガちゃんがいた場所にお兄ちゃんがいて、何時変わったのかも気が付かなかった。
「よく寝てたな、最近連れまわしが多いからな」
疲れてたんだろう、そう言って彼女と同じように私の髪を梳いてくれる。何か夢でも見てたのかと問いかけてくるがわからないと答えた。
見ていたような見ていなかったような曖昧な記憶しか残っていない。
「雨が降ってた、それから…」
「それから?」
「誰かと歌を歌ってた気がする。」
一緒に手をつないで、お兄ちゃんはピタリと髪を梳いてくれてた手をとめた。
どうしたのかなと彼を見ると何か考えるように私をじっと見ている。
何を思っているかわからないけどまっすぐ、その瞳と目が合った。
「同じ」
そう言ってお兄ちゃんの目じりに手を伸ばす。同じ目の色だね、そう言うと彼は少し笑ってその手をとった。
「当然だ、俺はお前のお兄ちゃんだからな」
それもそうだねと頷くと開いた手を私の目を隠すようにおろす。
「もう少し寝てろ、明日からまた忙しい。」
おやすみ。そういうお兄ちゃんの声を最後に意識を手放した。

―ピッチピッチ チャップチャップ
―ランランラン

邪魔だなぁ、轟焦凍…