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轟焦凍生誕祝い
普段より少し
素敵な一日






○IFストーリーver○

目を開けると、何時もと変わらない天井が見えた。
カーテンを開けたら目に入る景色も、外から聞こえる鳥のさえずりも何も変わならい何時もと同じものである。
けれど、それらが何処か普段よりも素敵に感じるのはどうしてだろう。
どことなく心がわくわくしているのは何故だろう。
ベットサイドにおいてある携帯のロックを外すと、いつもよりも多い通知に自然と笑みがこぼれた。
一つ一つ確認していき、最後に残っていた物を見る。
送信されてきた時間は今日の零時、メッセージは経ったの5文字。
【おめでとう】
絵文字も記号もついていない、それは眠いのを我慢して打ったのだろうと想像に容易い。
【ありがとう、そっちもおめでとう】
そう返事を返すとたちまち既読のサインが付き、ピコン!という軽い音と共にネコのスタンプが表示された。愛らしい猫の前に大きなケーキのイラストが描かれている物できっとクラスの人が選んだものなんだろう。
携帯を閉じ、身支度を終えると一階に降りる、下にはもう何人か降りてきていた。
皆は私を見ると笑ってこう言った。
『お誕生日おめでとう!』
目に見えるものが少しいつもと違って見える理由は知っている。少しこそばゆいそんな理由。
今日は私の生まれた日だ。


「ごめん下さい、A組の者です」
「お邪魔しまーす」
「轟妹むかえにきましたぁ〜!」
三人の女子が、お昼頃に普通科の寮を訪ねてきた。読んでいた本を閉じて横に置いていたコートを羽織る。
「わざわざお迎えに来てくれて、ありがとうございます。」
「いえ、私達がお願いした事にご足労をかけていただきますので」
当然の事ですわと微笑む八百万さんはとても楽しそうだ。後ろに居る耳朗さん、芦戸さん似たような表情をしている。先日この三人が尋ねてきてこうお願いされたのだ。
「A組でやる轟さんの誕生日パーティーに参加してほしい」
誰かの誕生日の時は必ずパーティーを開いており、今回それに私も参加してほしいらしい。最初自分が行ってもいいのかと思ったが、是非ともと目を輝かせる八百万さんに行きますという返答以外の言葉は浮かばなかった。
そして当日である今日彼女たちが来たわけである。
「轟、妹大好きだからさ喜ばないはずはないでしょ!よく妹の話してるもん!」
そう笑う芦戸さんの言葉を聞いて、焦凍の妹離れが出来ていないのはクラス公認なのかと項垂れてしまう。
「さぁ行きましょう!」
そうウキウキとした様子の八百万さんの後に続くように玄関に向かう。ロビーにいる友人に言ってくると声をかけた。
「あんまり食べ過ぎないでねー」
「夜はこっちでパーティーだよー!」
「なんなら兄貴連れてきて!」
イケメン!目の保養!そう送り出してくれる彼女たちに一応言っておくねと手を振って外に出た。


A組の寮に一歩踏み入れるとそこには
「オイラの目の保養ーーーーーー!!」
そう叫ぶ小さな物体がすごい勢いでこちらに向かってきていた。
それが一人の人間だと気が付き、逃げなければという思考になった時には、それは目の前にまで迫っている。
身体が動くよりも先にその人物の動きが突如として止まった。
「峰田何してんだ」
彼の背後から首元の服をつかんでいる兄がそこにいた。セコム早ェ、峰田命知らずなと言う声が消えてくる。
「凪に何しようとしたんだ」
「目の保養が居たので、触って確かめようと」
「誰が許可したんだ」
滾々と言う焦凍と冬なのに滝のような汗を流している峰田を気に留める事なく芦戸さんが私の背を押して奥に入っていく。
「何時もの事だから気にしないでー」
「あれ普段の風景なの?」
いいのかヒーロー科、大丈夫なのかヒーロー科。来て早々にこれが普通科との違いかと促されるまま談話室に入るとそこにはもう全員が集まっていた。
「凪ちゃん、いらっしゃーい!ハッピーバースデー!」
「轟妹、おめでとうー」
沢山のおめでとうの言葉が降る中を通り、どうぞと言われたお誕生日席であるソファーに腰を下ろす。
「凪さんお誕生日おめでとう」
近くに居た緑谷が私にグラスを渡してくれ、何が良いかなと用意されているいくつかの飲み物を指さす。
その中から無糖の紅茶をお願いするとそのまま彼が注いでくれた。私が良く飲んでいるもので、割とマイナーな商品である。
「買い出し行くときに轟君に頼まれたんだ、絶対必要だからって」
凪さんの為だったんだね。轟君らしいと話す緑谷の様子からその時の光景が簡単に想像できた。
「私としては、そろそろ妹離れをしてほしいだけどね」
注がれたお茶を見ながらそうこぼす。高校生男子としてまずいと思うのと続けると彼はそれは難しいかもねと苦笑いを返してきた。
「轟君はお兄さんだしそれに」
「それに?」
「ヒーローだから」
だから守りたいし大切なんだよ。不思議とその言葉はストンと私の中に落ちてきた。
―僕は凪のお兄ちゃんだから!―
そう言い始めたのは何時からだっただろう。
何時までだっけ、私が焦凍の手を引いていたのは、
何時からだっけ、焦凍が私の手を引いていくようになったのは、
多分あの事件よりもっと前、ヒーローになるって言い始めた頃だ。
そっかと答えた頃、空いていた隣に本日のもう一人の主役が腰を下ろす。
「やっぱりそれ選んだんだな」
「うん、イチゴみるくだよね」
イチゴのイラストが描かれたものを注いであげると他のみんなもグラスに飲み物を入れ始めた。
「さぁ、皆準備は整ったみたいだな、では始めようか!轟君、轟さん」
お誕生日おめでとう!!!
そうグラスが天に掲げられる。
「おめでとう焦凍」
「おめでとう凪」



また来てねー!と見送ってくれるA組の人たちに今日のお礼をいい自分の寮に帰宅する。
焦凍は少しこちらの方に顔を出してくれるようで、ついでに送り届けると私の隣を歩く。
「いい会だったね」
「そうだな」
そう話しながら歩いていると携帯が振動してラインの通知を知らせる。
開くと芦戸さんからで先ほどのパーティーでとってもらった写真が送られてきていた。
【二人のツーショはすこし加工してみたよ!】
そう添えられて最後に来た写真は私と焦凍が写っている物で下の方に誕生日おめでとう!とコラージュされたものだった。
「これお母さんに送ろう」
良い写真だ、そう言う焦凍の方にも同じものが送られているようで、嬉しそうに微笑んでいる。寮にいる写真が趣味の友人に印刷してもらおうかなと思い連絡しておこうとトーク画面を開こうとしたら突如として着信画面に切り替わった。
『お父さん』
と表示されるそれに思わず立ち止まる。
「どうした?」
「電話、お父さんから」
そう告げた途端に焦凍の眉間に皺が刻まれた。なんでと言いたいのだろう、それは私も同じ気持ちだけど。今まで連絡してきた事なんてなかったのに何だろうと恐る恐る通話ボタンを押して耳を当てる。
焦凍も傍にきて耳を寄せてきた。

*
もしもし
―凪か
はいそうです。
凪の携帯なんだから当たり前だろ
―隣に誰かいるのか?
焦凍が、変わりますか?
嫌だ
―嫌、あいつにはあとで連絡する
しなくて良い。
それで、何か用でしたか?
―その、なんだ
はい
―今日は誕生日だろう


―だから電話した
―誕生日おめでとう、凪
―無理はあまりするな、身体に気を付けなさい

それは、この人から今まで貰ったことのない言の葉だった。
喉が辛くなるのを耐えて口を開いた。

「ありがとう、お父さん」


今日は少し素敵な日だ