title | ナノ
あかい あかい、
わたしがいきた、しるしをきざむ
赤い
紅い
朱い
あ か
「…………」
「…………なあ、」
「…………」
「おいってば」
「…………なに、」
自室、ベッドの上。
傍らには中身が散らばった救急箱と、所々に血の染みがあるティッシュに剃刀。
目の前には、眉を顰めて私の両肩を掴むアウル。
弱々しく掴む手が震えているのが判った。
私は、素っ気なく返事を返すと綺麗に巻かれた左腕の包帯へと目を落とす。
「なんで、やったんだ?」
心なしか声が震えている。
約束を破った怒りでなのか、何なのかは判らないけど。
私は所謂、リストカッターと言うもので。
以前、偶然部屋に入ってきたアウルに、その現場を目撃された事がある。
その時に叱られて、もうしないって約束した。
優しく抱き締めてくれたアウルに安心して、大丈夫 頑張れると、順調に過ごしていた矢先の事。
別に自殺願望が有る訳じゃない。ただ、生きていると言う印が欲しくて。
狂ってしまいそうな程の恐怖心が廻る。
理由なんて判らない。けど、流れる血を見るとそれも自然となくなる。
「なんでやったんだって聞いてるんだよ!」
なにも答えない私の肩を揺さぶって、一層低い声で問いかけてくる。
なんで、と言われても何と答えていいのか戸惑ってしまう。
今まで何を言ってもそれは自分が悪いんだと否定され、言っても意味が無いと思ってしまっているから。
何か言わなくては、と脳が信号を送る。
でも言葉が浮かんで来ない。なにを伝えればいいんだろう。
「ナマエ…
なんでもいいから、答えてよ‥」
今にも泣きそうな声が聞こえて、抱き締められた。
強く、強く腕が回って、心臓の音が聞こえそうな程。
優しくて、あたたかい。
「あ‥‥ご、め…」
視界が歪んだ。
声が、思考が、自分が、全てがエラーを起こしたみたいに、気が付いたら涙がボロボロ零れて謝罪の言葉を紡いでいた。
自分でも訳が判らない。
今まで悪い事をしたと言う感覚が無かったのに、今は凄く胸が苦しい。
「だっ、て…わたし‥っ」
何かが壊れたように、言葉が出てくる。
誰にも言えずにしまっておいた気持ちも、どうしてしてしまうかも、全部。
今は、判ってもらえないとか、そんな事はどうでもよくて。
ただただ、自分の気持ちを聞いてほしいと言う一心だった。
「ふと思うの…誰も私を必要として、いないんだって、要らないんだって。
怖くて怖くて‥っ仕方なく、てどうしよ‥なくて…
でも、血(コレ)を見るとちゃんと自分がこの世界で生きてるんだ、て思え‥っ安心、するの…」
アウルは話す私をずっと抱き締めて、何も言わずに居てくれた。
支離滅裂な事を言っても、嗚咽で途切れ途切れになっても、ずっと、ぎゅっと。
ごめんなさいと繰り返しながら、私は子供のようにわんわん泣いた。
あたたかいアウルの体温を感じるれば、自分はちゃんと生きているんだな、と思えた。
「ナマエ」
「‥ん…?」
名前を呼ばれて顔を見れば、今にも泣きそうな、脆い笑顔。
そして再び私を抱き締める。
「話してくれて、ありがと‥
辛かった、よな。ずっと。
なんて言っていいか判らないけど…、僕にはお前が必要だ。勿論、ステラもスティングもネオも。
不必要だなんて、思った事一度も無い。
‥辛い時は辛いって言ってもいいんだ。泣きたい時は思い切り泣いてもいい。全部我慢する事無いんだ」
うまく言えないけど‥、と最後に小さく付け足して。
「今直ぐやめろ、なんて言えない。でも、そんな事考える余裕が無いくらい、僕が毎日楽しい事教えてやる。
毎日、ナマエを笑顔にするから。」
ああ、どうして彼は自分が聞きたかった言葉を伝えてくれるのだろうか。
不安な気持ちも、今だけは全て無くしてくれる。
自分の中の何かが、少し軽くなったような、そんな気がして。
「ありがと…期待、してる」
小さく笑って見せてれば、
次は、安堵の気持ちと嬉しさから、涙が一筋流れた。
腕に刻まれた印が、二度と増えないようにと、小さな期待も乗せて。
(本当に本当にありがとう)
end
結構重いタイトルだったなと。
まあなんとも言えない内容になりましたが…。
リスカなんて本当にするものじゃないです。お洒落感覚とか、興味本位でしちゃダメですよ。
それによって悲しむひともいっぱいいますから´`
20070405
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