log | ナノ
「ねぇ、…ねぇってば。」
「………」
はぁ…
本日何度目かの溜め息が、彼女の口から零れた。
しゅん、と眉を下げれば視線をある人物に向ける。
…腕を組みながら眉間に皺を寄せ、不機嫌そうにフローリングの床に座る、昨日誕生日を迎えた彼、シン・アスカに。
何故、シンが不機嫌なのかと言うと…
まぁ、元は自分の所為なのだから仕方ない筈なのだが。
どうしてか、かれこれこの状態が小一時間程続いている。
先程から全く変わりのないシンを見て、ナマエは隣に座りると、顔を窺った。
彼女と目が合い、シンはパッと視線を外す。
何処か、寂しそうな表情を帯びて。
「もう、さっきからごめんって言ってるでしょ。
仕方ないじゃない、
シンが、昨日は絶対自分が戻るまで家に居ろって言ったから、その通りにしてただけ。それなのに、なんであんたが拗ねてんのよ」
冷ややかな視線が、シンに突き刺さる。
先程とは打って変わり、ナマエの表情が少なからず怒りを帯びている。
鏡越しに見えたナマエの表情に、先程の拗ねた表情はどこへやら、シンの背筋が一瞬にして凍った。
「何とか言いなさいよ。
あたし、一日中ひとりで待ってたのに…せっかくルナが、一緒に服買いに行こうって誘ってくれたの我慢したのに…
幾ら議長が主催してくれたからって、シンだけ誕生日パーティー行っちゃうとか酷くないかなぁ?
それに、あたしよりシンが不機嫌なのも訳判んないんだけど?」
昨日、議長が主催してくれたパーティーにシンは出席していた。…無理矢理出席させられたと言っても過言ではないのだが。
然しその所為であたしと会えなかったんじゃない、と言うナマエは何故シンが不機嫌なのかが判らなかった。
ね?
と、あくまで笑顔を向ける。
何処か威圧を感じる彼女の笑顔と言葉。
声質も変わらず、いつもとそう変わりないでしょ。と、声だけ聞いた者はそう思うだろう。
「だっ…だって、仕方ないだろ…お、俺も顔出したら直ぐ出てく予定…だったし…そもそも無理矢理、連れられた‥と、言うか…」
やっとの思いで出た声は、シン独特のいつもの威勢は無く、言葉が終わりに近づくにつれ、語尾も小さくなっていき、仕舞には不機嫌そうにつり上がっていた眉もすっかり下がり、先程とはまるで正反対。
ごにょごにょと口ごもりながらも、ごめん、とシンの口から小さく聞こえた。
はぁー…
また何度目かの溜め息。きっと、今までのより長いに違いないな‥
そんな事を思いながら、ナマエはシンの背中に目を遣る。
しゅんと小さくなった背中。
いつものシンからは到底想像もつかない姿。
まるで飼い主に叱られて、落ち込んでいる犬のようで。
今、彼に耳と尻尾が付いていれば絶対に垂れてるだろうなぁ…
ふと、耳と尻尾の付いたシンがナマエの頭に浮かんだ。
同時に、彼女の口からプッと、小さな笑みが零れる。
「なっ!なにが可笑しいんだよっ」
「べっつにぃ〜?
ただ、可愛いなぁって」
「は?なんだよ、可愛いって……〜〜っ!?」
シンが振り向くと、彼の唇へと軽く口付けた。
触れるだけの、キス。
いきなりのナマエからのキスに、シンは驚いて頬を真っ赤に染める。
また、ナマエのクスクス笑う声が聞こえた。
「誕生日、おめでとう」
あたしよりあんたが拗ねてたのは納得行かないけど、
仕方ないから、許してあげる。
そう付け足すと、
ナマエは微笑って、
もう一度、彼に口付けた。
E n D*
微修正◆20080521
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