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君には優しい口付けを。

僕には、神からの制裁を。



- Bloody Rain -




「はぁ…っはぁ…‥っ」


薄暗い路地裏。
そこから聞こえる、必死に空気を求めるような息を吸い込む音と雨の音が入り交じった。
そこには、片手に銃を持った少年と少女が壁に凭れて息を整えている姿があった。
互いにキツく繋ぎあっている手が僅かに震えている。

無造作に地面に置かれた手から、銃口が鈍く光った。



「もう、此処まで来たら…平気、だと、思うから…」



紺碧の髪をした少年が、上がった息に邪魔されながらも言葉を紡ぐ。
未だ息の上がった侭の少年は、少女が頷いた姿を見た後、水を求めるかのように上を向いた。目尻に当たった雨がそのまま頬を伝う。
それはまるで、涙のようで。
少女は酷く悲しげな表情で少年を見つめた。



「…、ねぇ、アスラン……」



少女が少年の名を呼んだ。
雨の音にかき消されそうな、隣に居る者でさえ聞き取れないような小さな小さな声で。
少女の声に気付き、アスランと呼ばれた少年はゆっくりと顔を向け、改めて少女の顔を見ると、「どうした?」と優しく訊いた。



「アスラン……ごめん、ね…あたしの所為で…」



そう言い、少女は視線を地面に向けた。

視線を合わせられない…
少年のその優しい瞳を見て、少女は泣きそうになったのだ。



「あたしが居なかったら……よかったのに、ね…」


「…っどうして、そう思う?」


「だって…、……」



その侭、少女は俯いて黙り込んでしまった。
繋いだ手も、少女の肩も微かに震えている。それは寒さからではないと、少年は悟った。


彼女は、泣いている‥


少年は、持っていた銃を地面に預けると片手で少女を抱き締めた。繋いだ手は、痛い程に強く握って。





「俺は─…お前が、ナマエが居てくれて、よかったと思う……だから、そんな事言わないで…な?」



痛い程に、少女に笑みを向けると手を頬に添え優しく、啄むように口付けを贈る。それは、今にも消えそうで儚いもののように。


少女の頬を、涙が伝った。


長くも短くもないキスが終わると、少女は涙と雨に濡れた顔に精一杯笑みを浮かべる。
また、雨の強さが増す。もう、どれが涙か雨か。全く判らない。




「ねぇ、あたしを殺して」




ポツリ、少女が呟いた。
その声は先程よりもハッキリ聞こえて。
少年は驚愕に目を見開くと、少女の肩を掴んだ。



「…っ」


「どうして、どうして君は…っ!」



少年の顔から笑みが消えた。
少女の口から、愛しい人からそんな言葉を聞いて笑ってる奴なんて居ないだろう。

冗談なんかじゃなくて、真剣な少女の瞳が揺れる。



「あたし、アスランに殺されるなら…本望だよ…?」



お願い…と、少女が少年の手を掴み銃を持たせると、銃口を己の心臓に当てた。
悲しげな笑みを浮かべて、悲願するかのように、ギュッと少年の手を握る。
少年は、頭の整理が追いつかず何が何だか判らない、と言ったように少女を見つめる。



「お願いだから…っ、アスランの手であたしを殺して…!」


「だ、ダメだ…っ、俺は…お前が居なくなったら…!」



少年が、銃口を外そうとした、刹那。
少女の指が、少年の指と重なり引き金を引いた。


ドンッ─…
と、大きな音が聞こえて同時に、少女の体が僅かに跳ねた。
見る見るうちに、少女の服が紅に染まっていく…‥少年には、絶望とも言える光景が目の前に広がった。



「う、そだ…何して…」


「アスラン、ごめ ん、ごめんね……ありがと、う…」



掠れた声で少女は言った。
走った時とはまた違う、苦しそうな息の上がり方。段々と少女の体から体温が、奪われていく。
雨の所為では無く、確実に、着実に。

頬に、涙と雨が伝った。
優しく微笑んで、直ぐ。少女の体がカクン、と倒れた。
少年は少女の両腕を掴み、信じられないと何度も何度も揺さぶる。



「な、なぁ…嘘、だろ‥?ナマエ…悪い冗談は止めてく、れ……‥目を、覚ませ‥っ!」



涙さえも出ず、狂ったように。
体の震えと悪寒が止まらない。


少女の紅い血が、雨と混ざって静かに零れ落ちた。





「あ…ぁあ……
うわぁぁあぁああ────っ!!!!」



少年は少女を抱き締めて叫んだ。
もう、彼女が還ってくる事は無いと、頭では判っていてもどうしようもなかったのだ。





信じられない、
信じたくない。






神よ、本当に居るのならば今直ぐ俺に制裁を。



俺を、殺して。






「直ぐ…逝くから‥」




優しく口付けを少女に贈ると。
カチャリと銃の金属音が鳴った。








血の雨が、
少年に降り注いだ。





- End -












早く、早く、君の元へ。




<設定>
ヒロイン⇒某国の姫君。
アスラン⇒姫の付き人。実は愛し合っちゃってるのさ。←

訳があって姫が他国の者に命を狙われる。
姫の命を守る為、王が2人で逃げろ(アスランは姫を守れ)と言われ……

みたいな感じ。

あ、いや、最初全然設定とか考えずに打ってました←
ぶっちゃけ設定とかほぼ今考えたとか(オイ)


多少修正マガ再録でした。
変換少なくて申し訳ない(・ω・`)
パロ大好き。死ネタも悲恋も好き。


20060710*








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