munya | ナノ
目が覚めたらきっと彼女がなにしてんの、なんて言いながら微笑んでくれているんだと思っていた。
そしてずっとずっと、彼女の涙も悲しみもなにもない世界で一緒にいれるんだ、と。
だけれどそれは皮肉にも願わなかった。
「っ、ナマエ、」
「あら、目が覚めましたか、アスラン。御気分はいかがです?…と言っても、良い筈ないですわね、すみません。
あ、幸い発見も早く致命傷には至りませんでしたが、それでも傷は深いので安静にしていてくださいね、」
「ら、くす‥?」
目の前に現れた声の主に驚愕した。
ずきり、傷口が鈍く痛んで自分が生きている事を実感する。
幸せな、夢を見ていたのか、俺は。
さっきまで隣にナマエがいて、一緒に笑っていた筈なのに。
ふと目が覚めたら俺は何故かベッドの上で。
訳がわからず小さく彼女の名前を呟けば、俺を介抱してくれたのであろうラクスが悲しげに目を伏せ苦笑気味にそう言った。
思考が追い付かず疑問符を付けてラクスの名前を呼んで起き上がろうとすると、安静に、と肩を軽く押されベッドに戻される。
そんな事よりどうして自分が此処にいるのかが不思議で堪らない。どうして俺は生きているのだろうか。どうして死ねなかったのだろうか。どうして、
「アスラン、どうして自分が生きているのかと、疑問に思いますか?」
「…、当たり前、だろう」
息が詰まる。疑問に思わない訳がない。そんな質問は愚問だ。
一息ついて、振り絞るように声を出した。
ラクスの顔が見れなくて、彼女に背中を向ける。
自分はちゃんとラクスと話せるているのだろうか、
「ナマエはあなたが死ぬことを望んでなど、いない」
「……」
「だけどあなたは死のうとした」
「ああ、」
「だからです」
「…どういう事だ、」
「ナマエが、あなたを護ったのです」
ラクスの手が俺の右手を取って、そこに冷たい何かが落とされた。
指の力が入らず見えるように手を少し上げると、しゃら、と小さく音を立ててそれがベッドに落ちた。そして漸く視界に入ってきたのは、銀色のバラバラになった、なにか。
ああ、これは。いつだったかナマエが御守り、と言いながら渡されたロザリオだ。
だけどそれはもう原形がなく、千切れたチェーンだけが寂しく光る。
「胸のポケットに入っていました。恐らく、それのお陰で大事には至らなかったのだと…」
段々とラクスの声が遠ざかっていく。
目頭が熱い。呼吸が荒くなる。鼻の奥もつんとしてきた。苦しい、苦しい。
視界がだんだん滲んでいって周りの景色がわからない。
渡された時に「アスランはあたしが護るよ」なんて言っていた彼女の笑顔が甦る。
直ぐに俺がナマエを護るって、言い返したけど結局俺は、護れなかったのだ。
ああ、どうして、
「ナマエ、…っ、」
どれだけ手を伸ばしても、どれだけ名前を呼んでも、君がいない
俺の名前を呼ぶ声も、笑い声も笑顔も、なにも聞こえない見えない
この世界には、もう君はいない
君を護れなかった。
そして俺は、君のいない世界で生きていくことなんて望んでなどいないのに。
喉が詰まって、息が苦しくなる。
嗚咽を漏らす俺の背中にラクスの手がゆっくりと滑る。
罵倒して俺を責めて、殴って見殺しにしてくれれば、いいのに。
それでもラクスは俺の背中を撫でながら、ナマエは幸せそうでした、なんて、言うから。
とある男の、その後の話
あとから聞いた話だ。
発見された時のナマエの顔は、本当に幸せそうで、俺に寄り添うように倒れていたのだと。
王が、彼女の両親が俺を責めないのも、彼女のその姿を見たからだ、と。元より俺を責める事など考えていなかったようだけれど。
それを聞いて俺はまた、涙を流した。
その話を聞いた、三日後。
俺は自ら、命を絶った。
end
20100316
やっっっと書き上げました。
Bloody Rainその後の話。
Bloody〜を書いたのが2006年…なんと4年ごしの作品。
クオリティが下がってるのはご愛嬌ry
あとがき的なアレは日記。
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