munya | ナノ




千昭が消えた。
いや、消えたと言うより戻ったって言う方が正しいのだろうけど。
タイムリープだとか、千昭が未来人だとか、信じていない訳ではない。
勿論、最初は真琴の見た夢の話じゃないのかと思ったけれど、あんなに真剣になって話す姿が嘘だなんて思えない。だけれど、どこかでそんな事は現実的ではないと思っていたようだ、私の頭は。
どうしても千昭がもうこの世界にいないという事を掻き消したいようで、未だに現実を受け入れられないでいる。
本当はみんなして私を騙しているんじゃないか、これは夢なんじゃないか、明日学校に行ったら千昭がいるんじゃないか。なんて考えがぐるぐるぐるぐる巡ってもう頭がどうにかなりそうだ。(そもそも私は聞いてすぐ、はいそうですかと順応出来るタイプではない)


「…ちあき、」


名前を呼んだって返事はない。
窓から見える赤々とした夕暮れが目に痛い。段々と視界が歪んでゆく。
こんなにも苦しくなるのなら、知りたくなかった。なにが私にも知っていてほしい、だ。そんなの身勝手過ぎる。
結局全てを彼の口からではなく、真琴から聞かされたというのに。(それも姿を消してから、なんて)
私は真琴みたいに強くない。ましてや、最後に会えた訳でも、言葉を交わせた訳でもない。
「未来で待ってる。」
この言葉も、私に向けられた訳ではないのだ。仮に私に向けられていたとしても、彼の口から聞かないと意味を為さない。
彼は私がこの話を聞いたらどう思うかなんて、考えていなかったのだろうか。気楽な気持ちで言伝を頼んだのか。
なんて。そんなはずないのに。
彼も彼なりに悩んだのだと思う。だって、口ではいつも意地悪な事を言うけれど彼は優しい。一番安心出来るのは私の隣だと、彼は言っていた。その言葉が妙にくすぐったくて、嬉しかった。
だけれど、結局彼は最後に私ではなく真琴を選んだ。わかっていた事だけど、それだけでも、凄く、苦しい。
喉の奥が熱い。胸がじくじくする。
こんな時でさえ、真琴に嫉妬してしまう自分はなんて嫌な女なんだろう。


「会いたいよ、千昭」


私の呟きは鴉の鳴き声で掻き消されて、誰にも聞こえないようにまた小さく彼の名前を呼ぶ。この言葉さえもう届かないのだと思うと、何かが崩れた気がした。
あなたの名前も、声も、思い出もぬくもりも。全部全部、あなたが忽然と消えてしまったように私の中から消え去ってしまえばいいのに。
どれだけ泣いてもどれだけあなを想っても、私じゃ未来になんて、行けないんだよ、



メルト
(さよなら、千昭)




突発的に時かけ。
微妙過ぎる。
20100220





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