「検査結果は良好だよ」
 そう言って、石田雨竜は笑った。
「ここに入院して一か月半、順調に回復しているよ。この調子なら、あと数週間で退院可能だ」
 俺は頷いてそれに応える。石田雨竜は、椅子から立ち上がって言った。
「部屋まで送るよ」
 今日は次の用事が入っているのだろう。珍しいことがあるものだ。前を歩く石田雨竜の髪を見ながら、俺はそう思う。そう言えば、いつもは診察室まで迎えに来る井上が、今日は来ていない。珍しいこともあるものだ。
 石田雨竜に付き添われて部屋まで来て、引き戸をゆっくりと開ける。
 そして、目を見開いた。
「誕生日おめでとう!」
 そんな声とともに俺に降り注いだのは、火薬の臭いと紙テープ。
 クラッカーだった。
 何が起きたのか把握できずに呆然と立ち尽くす俺に、後ろにいた石田雨竜が「ほら」と満足げな声で言う。
「今日は君の誕生日だろう? 検査と診察の間に、みんなで準備したんだよ」
「発案者は私だよ。カルテを見たときから計画してたの」
 井上はにこにことした顔で言って、後ろ手に隠していた物を差し出した。
「はい、これ。誕生日ケーキ」
 現れたのは、大きなショートケーキ。所謂誕生日ケーキというやつだ。
「本当は自分で作ろうと思ったんだけど、上手くできなかったから買って来たの。ごめんね」
 みんなで分けて食べよう、と井上が笑う。それを見て、ようやく頭が働き始めた。
「井上、これは……」
「プレゼントはまだあるぜ」
 オレの言葉を遮って、黒崎一護が小さな箱を差し出す。大人しく受け取った俺は、包装を解いてから、あっと声を上げた。
「これは……」
 そこにあったのは、携帯電話だった。
 思わず黒崎一護を見ると、奴は楽しげに微笑んでいた。
「お前、携帯持ってないんだろ? 退院したら、連絡取るために必要じゃないかと思ってさ」
「だが、料金は……」
「毎月俺たちが交互に払うことにした。いいだろ?」
 きらきらと光る携帯電話のボディは、俺の目と同じ翡翠色をしている。
「ああ」「勝手に俺たちとの通話はタダにしておいたからな」
「……ああ」
 俺はそれを手に取って眺めて、それから、
 口元が、ほころんだ。
「ありがとう」
 今まで口にしたことのない言葉を口にして、俺は、微笑む。
「ありがとう」
 それが、ここまでしてくれたことにできる、たった一つの礼だった。
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