臨也さんが全獣化
そう、これは二次元のお話…。
なので豹が人を襲う襲わないという事実は考えずに読んでくださったら幸いです
割となんでもイケる方用











臨也が消えたのは、ほんの1週間ほど前だった。あいつの恋人としての心境は微妙だったが、毎日のように見ていたあのうざったい会わなくて清々したと思っていた。だが、姿が見えなくなってから3日後ぐらいに門田が行方を知らないか?と聞いてきた。そんなもの俺は知らない。あいつがどこに居ようがあいつの勝手で、俺は何も知らされはしない。
門田と会った次の日、妙な噂を聞いた。池袋の町に黒い豹がいる。人が襲われてるらしい、その豹が喋るのを聞いた。とんだファンタジーだ。セルティみたいな存在がいるのだから、決めつけることは出来ないがそんな怪物が池袋に用なんてあるわけがない。そう思っていた、のに。

まさか本当にいるなんて。苦しそうに息を吐きながら俺を見ると、その豹は暗闇に紛れて走って逃げていく。なんだ、あれ。そう思っているのに、つい追いかけてしまう。豹なんかに追いつくわけがないと思っていたのに、あっちのほうが墓穴を掘ってくれた。人間よりいくら体力があると言ったって、逃げ道が梯子を登るという手段しか無い場所で俺から逃げられるわけがない。荒い息で俺を睨みつけると、その場にへたりこんだ。どうみても衰弱している。

「おい」
艶やかな毛並みに手を伸ばすと、爪で手を引っかかれた。人が心配してやってるのに、愛想の悪いヤツだ。

「おい臨也」
ダメもとだった。目が赤いところとか、鋭利なもので俺を傷つけるところとか、こいつが現れたときにちょうど臨也が失踪したこととか。妙な偶然が重なったので、なんとなくアイツの名前を呼んでみる。しばらく待っても返事が無いので、そんな夢みたいなことあるわけ無いな、と思い直した瞬間、なんで、とその豹が口を動かした。

「なんで分かるんだよ、…シズちゃん」
珍しく弱弱しい声だったが、確かにこの豹が喋ったのを聞いて目を見開いた。しかも、臨也の声で。

「本当に臨也なのか」
もう一度近づこうとすると、やっぱり爪で引っかかれた。俺から逃げようと、汚いゴミ袋の山の中に体を隠した。

「おい、汚ぇぞ」
「シズちゃんにこんな姿みられるよりはマシだ」
「…なんでそんな格好になってんだよ」
聞いてはいけない気がしたけど、そんな我慢が俺にできるはずもない。しばらくの沈黙に気まずくなって唾を飲み下すと臨也が喋りだした。

「さぁね、わからない。シズちゃんに化け物化け物って言ってた罰かもしれないね。気づいたらこうなってた。心当たりもない。本当に、気づいたらこんなのになってた。」
「でも、中身はノミ蟲のまんまじゃねぇか」
そう言うと、乾いた笑い声が聞こえた。

「それはどうかな。俺はもうただの化け物だ。お腹減ったと思った次の瞬間には目の前の鳩をくわえてた。鳩だよ?本当に笑っちゃうよね。それからはもう本能を押さえ込むのに必死だった。それでも、夜中になると人間襲ったり、そこらへんの野良猫襲ったり。これでも俺のままなのかな」
泣き笑いのようなその声に言葉を失った。鳩?猫?

「このままじゃ、たぶん俺が俺じゃなくなる日も遠くはないだろうね。それこそ、砂の城が形を失ってしまうのと同じくらい早く全てが無くなってしまうかもしれない。そうしたら、大好きな人間を喰い散らかして、大好きな人間に銃かなんかでバァン!だろうなぁ。まぁ、その時には人間を好きだという自我もなくなってるわけだけど」
がさがさと音を立てて臨也が姿を現した。自分から隠れたくせに、自分から出てくるなんてわけがわからない奴だな。暗くてよく見えない姿を見ようと目をこらすと、臨也が飛びかかってきた。そのまま後ろに倒れて引っ剥がそうと首を掴むと、臨也が震えていることに気がついた。

「シズちゃんは食べても美味しくなさそうだなぁ。全然食欲湧かない」
「悪かったな」
ぺろぺろと俺の首筋をなめながら、そんなことを言う。

「俺さ、人間殺してないんだよ。まだ」
「らしいな」
「あと、動物も一匹も食べてない。捕まえた後、すぐに意識が戻るからとても食べられなかった。昼間もみんながびっくりするだろうから廃ビルに籠もってた。ね、頑張ってるでしょ?」
頑張ってるのはいいがお前が死にそうじゃねぇか、とは言えなかった。一週間も飯食わなかったらどうなるかぐらい分かる。体を支えるのが辛くなったのか、ぺたんと俺の体に全ての体重を預けてきた。

「シズちゃん、ところで絶好のチャンスだね。化け物になって目の前で弱ってる君の大嫌いな天敵が居る。どう?いいシチュエーションじゃない?殺したくならない?」
「ならねぇ」
「は?」
のし掛かってきた体を持ち上げて立ち上がる。じたばたと力無く暴れるのを無視して、首を撫でると大人しくなった。

「どこ連れて行くんだよ」
「俺の家」
「え?は?俺なんか入れるスペース無いだろ?ほらほら殺せよ!今すぐ殺せ!!」
自棄になって暴れ出す臨也をぎゅっと抱きしめる。こんなところで体力使ったらマジで死ぬ。大人しくなったところで、背中を撫でてやる。それにしても気持ちいい。外を転がってたとは思えない手触りで、街灯が反射してつやつやとした毛並みは臨也の黒髪を彷彿させた。

「俺、今の格好そんなにかわいい?黒い肉食獣であることは理解してるけど、よくわかんない。シズちゃんがお持ち帰りしたくなるくらいかわいい外見はしてないと思うんだけど。」
「あー。かわいいぞ。すげーかわいい」
外見はイマイチだけどな、と付け足すと鼻を鳴らして俺の肩を甘噛みした。

「俺、今は大丈夫でも、そのうちシズちゃんがかわいい(笑)なんて言う中身も無くなっちゃうと思うよ。捨てるなら今のうちだよ。」
俺が臨也のことをいらないなんて言ってないのに、ふてくされて何度も殺せ殺せと言ってくる。こうやって、全部自分の中で完結させて結果をだすところは全然かわいくない。

「あのよぉ…。犬とか猫でも、ペットとして飼われているうちに自分も人間だと勘違いするやつもいるらしいぞ」
「…なんだよ、それ。俺は『折原臨也』だと勘違いした獣だとでも言いたいの?ちょっとでもシズちゃんを信じた俺がバカだった。離せ!」
「だーかーらーちげーよ!さっきみたいに一人でいるから獣になっちまうだけで、人間と暮らしたらお前も人間のままで居られるんじゃないかと思って」
まくし立てるように告げると、ふぅん、だとかシズちゃんは人間じゃなくて化け物だしーと呟きながらも大人しくなった。

「シズちゃんは俺が人間じゃなくてもいいの?」
「おーノミ蟲の見た目が豹に変わったところで支障はない」
「シズちゃん食べるかもよ?」
「無理だな。」
「エッチできないよ?」
そんなこと微塵も考えていなかったので、焦って早歩きになってしまった。臨也とエロいことできないのか…そうか…。俺が答えないでいると、体目当てだったのかよ!と次は本気で肩を噛まれた。チクッとはしたが刺さっていないので今後コイツに喰われる心配もない。

「いちいち噛むな。こうなったら俺が責任持って躾してやる」
「シズちゃんのくせに生意気!噛んだところで痛くもかゆくもないくせに!牙まで刺さらないとかシズちゃんの方が化け物な気がしてきた」
「おー良かったな。身近なところに仲間がいて」
何の気なしにそう言うと急に静かになって俺の頭にふわふわの頭を寄せて、よかった、シズちゃんが居てくれて本当に良かった、なんて涙声で言うから動物になっても泣けるのか、と変なところに感心してしまった。体を少し離して目を合わせる。ちゃんと視線が合ったのは始めてだったから、今までとなんら変わりのない目の色と、流れる涙に驚いた。涙を流せるのは人間だけだ、と誰かが言っていた。だからやっぱり、どうあがいても臨也は臨也なんだ。
目を閉じてキスをする。触れた感触はふわふわとした毛の感触でいつもの柔らかい唇とは違ったけど、それは確かに臨也のものだった。


結局、昨晩は俺の家に連れてかえって、嫌がるの無視して一緒に晩ご飯食わせて、一緒に寝た。毛皮のせいで暑いから冷房いれろとかほざくので、布団から追い出してやったが、気づいたら俺の側で寝転がっていたので本当に暑かったのかどうかは分からない。

目を覚ますと臨也の姿が見当たら無かった。急いで外に探しにいこうとしたときに、机の上に見覚えのない白い紙が置いてあった。癖のある字で、『シズちゃんに躾なんてされたくないので一緒には住まないことにする』と書いてある。それを見て、俺は獣くさい布団で二度寝を決め込むことにした。





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