「4月1日だね、今日」
「ああ」
「エイプリルフールってさ、恋人同士ではよく『別れよう』っていう嘘をつくみたいだよ。中には本当にそのまま別れちゃうカップルもいるみたいだけど、好きなのにそんな嘘をつくのは馬鹿だよね。俺はそんなこと言えないなぁ」
「…なんでだよ」

ごろごろと白いシーツの上で転がる臨也に問いかける。所々赤くなった肌を見て、生唾を飲んだ。つい、くわえていた煙草を噛む。

「信頼してる人同士じゃないと言えない嘘だ。アイツは俺のことが大好きで、俺もアイツのことが大好き!って確信してる人間じゃないと言えないよ。自分が相手のこと好きならなおさらね。でも、そんな人間ほとんど見たことない。恋人なんてなんの保証もない宙に浮いたような関係でそこまで確信して、なおかつお互いのことを完璧に信頼しあえる人間なんてそう多くない」
「まぁ、そうかもな」

俺が吸っていた煙草を奪うと、灰皿に向かうと思っていた手はそのまま臨也の口に俺の吸いさしを運んだ。それを見て眉を顰めると、からかうかのように煙を吹きかけられた。

「やめろ」
「いーじゃん別に」

けらけらと笑って、また煙草をくわえた。煙草を吸えるなんて知らなかった。慣れた様子の手つきや、伏し目がちになる表情になんとなく気持ちがざわついた。手持無沙汰になって、もう一つ煙草に火をつけようといつもベッド横に置きっぱなしにしている箱を見たが、空だった。仕方なくベッドの下に落ちている自分のズボンに手を伸ばす。

「帰るの?」
少し寂しそうな声色にハッとして、横目で臨也の方を見ると灰皿に煙草を押しつけて俺を真っ直ぐに見つめていた。煙草、とだけ呟いてズボンのポケットから箱を取り出した。俺から奪った煙草は、まだ長いままでもみ消されてしまっていた。返してくれればまだ吸えたのに。歯形のついた吸い殻を見つめながら、新しい方に火をつける。

「シズちゃん、セックスした後に煙草吸う男って嫌われるんだよ?」
「知るか。てめぇは元から俺のことが嫌いだろうが」
「はは、そうだね」

煙草を取るとき離れてしまったのに、わざわざ近づいてきて俺の襟足を引っ張った。無視しているとさらに強く引っ張るので、黙って髪を撫でてやる。思いの外触り心地が良くて、指に絡めたり手で梳いたりしていると、引っ張るのをやめて大人しくなった。散々黙れ、喋るな、うるさい、とは言ってきたが本当に黙られると困る。手を離すと、見計らったように臨也が口をひらいた。

「シズちゃんと俺ってさ、ある意味では信頼しあってるよね。俺はシズちゃんが嫌いで、シズちゃんは俺が嫌いで。それはお互いにとって絶対的な事実だ。じゃあ、もし俺が『付き合って』って言ったらどうなるんだろう」
「…さぁな」

また俺の髪をさっきより強く引っ張るので、臨也の方に顔を向けた。すると、抵抗もできないうちに煙草を奪われ、もう一つ長いままの綺麗な吸い殻が灰皿に残った。なにすんだと言う前に、ちゅ、と音を立てて俺の唇に臨也の唇が触れる。

「好きだよ、シズちゃん」
目を伏せたまま、珍しく無表情で言葉を紡ぐ。思いも寄らなかった行動に唖然としていると、臨也が上目遣いで俺を見た。よっぽどの間抜け面だったのか、ぷっと吹き出し何度も肩を叩かれた。

「あは!馬鹿だなあ、シズちゃん。今日はエイプリルフールだね、って話したところじゃないか!本当に頭大丈夫?」

俺を叩く腕を掴むと、今まで見せたことのないような笑顔で見つめられた。そのまま腕を引っ張って抱き寄せてキスをする。臨也にされたような軽いキスじゃ物足りなくて、舌を入れて何度も唇を吸い上げた。苦しそうにしているのも逃げようとするのも無視して、強引に舌を絡めた。
おい、臨也。エイプリルフールなのは分かってる。でも、お前がした例え話はなんだ?そんな話をしたあとに、「好きだ」なんて嘘をつくのは―――。

「狡い奴だ」
そう言うと、臨也は赤くなった顔を苦しそうに歪ませた。




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