勢いよく吹き出す水を止めて、風呂のドアを開ける。バスタオルで適当に水分拭ってドライヤー…しようとしたはずだったのだが。

節電のために風呂に入る前に消したはずのテレビの音が聞こえる。
ぽるたー…なんだっけ?とかか?お化けとかその手のものは苦手だ。マジでやめてくれ。

とりあえずパンツを履いてタオルは首に掛けたままで部屋を見てみる。
…何もない。
隅々にまで目を走らしてホッとしてテレビを消しに行こうとすると、

ゴッ、と音がして何かを蹴ってしまった。下を見るとただのテーブルだった。
いや、まて、ここまでなんで移動してるんだ?確かに寝るときは布団敷くために動かすが…
そこまで考えると、恐る恐るもともとテーブルがあった方向を見る。

「はああああっ!?」
臨也だ。どう見ても臨也だ。何故俺の布団に潜り込んでいるかは分からないが臨也である。
近づいて顔を覗くと、俺の大声にも目を覚まさなかったのか、すぅすぅと寝息を立てている。
その顔はいつもより少し幼くて、あのうざったい雰囲気が全く無かった。

毒気を抜かれてしまった。
そのあどけない顔を見ると、さっきまでの恐怖だとか緊張だとかイライラだとかが全部払拭された。
俺と対峙する時のあの鬱陶しいニヤニヤ笑いも、よく動く口も、何も浮かべていない臨也の顔に気が抜けた。と、同時に、少し可愛いと思ってしまった。
…いや、違う、あれだ、これはノミ蟲だぞ俺!

でも、喋らない臨也ってのは何故か心臓がムズムズする。
こいつは喋らないなら、ただの綺麗なお兄さんだ。白皙の美青年とでも言うのか。
起こさないように、そっと髪に手を伸ばす。
サラサラとしていて手櫛ですくと、絡まらずに手から通り抜けていく。
本当に綺麗だな、こいつ。普段ノミ蟲ノミ蟲言ってることに少し罪悪感を覚えるくらいだ。
そして滑らかな、陶器のような肌をした頬に手を滑らす。シミ一つ無くて、真っ白で、まるで人形のような美しさだ。
ふと赤く染まった唇に目がいく。いつもはペラペラとよく動くのに、今はただ少し開いているだけで、あどけない寝顔を演出していた。
つい手で触れてみる。ふにふにとしていて柔らかい。
キス、してみたい。

姿勢を低くして顔を近付けると、あともう少しで、
「何、してんの…」

臨也の目が開いている。ヤバイ、そう思ってその体制でフリーズしてしまった。ていうか、なんで顔真っ赤なんだコイツ。俺の髪から水滴がポツリと落ちた。

「えーっと、シズちゃん、あー、うん…ごめんなさい!」
そう元気良くなおかつ笑顔で言うと一目散に逃げ出しやがった。

「おい!こら待て!」
玄関が大きな音を立てて閉まる。追い掛けようとするが、自分のパン一+タオル一枚という酷い格好に気付いて止める。

なんだあれは。何したかったんだ?しかもあの野郎コート忘れてやがる。
あと、俺も何がしたかったんだ?

混乱し過ぎた俺は、体も冷えたし、いろんな熱を冷ますためにも、また風呂に入ることにした。



数日後――――
「いぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁくぅぅぅん!!待ちやがれ!キスさせろ!じゃないと殺す!まるっと殺す!」
「ちょ、シズちゃん!黙って!マジ黙って!むしろすぐ死ね!」

あのあと何故か「臨也とキスするべきだ」という結論に落ち着いた。
ということで、俺は早速ノミ蟲をつかまえることにする。


―――――
臨也さんはマジ寝ではなく狸寝入りをしていたようです。
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