時計は11時00分23秒を示していた。テレビも、しょうもない探偵ものを始めてしまった。俺は人間が好きだから、人間が作った脚本で別の人間を演じる人間を見るというのはなかなかどうして楽しい。でも、8時からぶっ続けにテレビというのは全く楽しくない。飽きちゃった。チャットルームを覗いても誰もいないし、仕事はとうの昔に終えてしまったから残っていない。喉が渇いたので水を飲むために立ち上がり、キッチンに入る。コンロの上にはすっかり冷めた鍋がおたまを突っ込んだまま蓋を閉じられ、ぽつんと静寂を守っている。炊飯器は保温の赤いランプがついたまま。コップに入れたままで置いてあったので温くなってしまった水を口に含み、残った中身は流しに捨てた。
床に座って画面を眺めるのもそろそろ疲れてきた。テレビを消して、ソファーに横たわる。俺の部屋にはアナログ時計なんてないから、テレビを消してしまえば完璧な無音になる。電気も消して目を瞑れば、そこにあるのは途轍もなく黒い闇だった。俺を飲み込んでしまいそうでもあり、また俺を拒否しているかのようにも見えた。こうしていたら、まるで時間が止まったみたいで、この世には俺一人しかいないような気がする。テーブルに置いた携帯が鳴ればいいのに。そうすれば、俺のこんな寂しさであるとか、侘びしさであるとか、重くて自分では持ち上げられない感情は吹き飛んでしまうのに。
世間は金曜日だから、明日から休みの子供は夜更かしをしているのだろう。大人は一週間の疲れを癒すため、と理由をつけて汚い居酒屋で飲んでいるのだろう。池袋はきっとまだ人間でいっぱいだ。夜遊びする高校生とか、そんなのがうようよしているはずだ。どうでもいい事実は浮かぶのに、俺が本当に知りたいことは浮かんでこない。今どこにいるの?なんて聞けたらいいのだけど、そんな勇気も権利も無い。毎週金曜日は、いつも来てくれるから、と勝手に思いこんでいるのは俺だし、来ないからといって約束をしているわけでもないから何も言えない。いつも、がいつまでも続くことがないなんて分かりきったことじゃないか。一緒に晩ご飯食べて、泊まっていってくれていたこと自体が奇跡に近いのだから、仕方のないことだ。永遠の愛もいつしか朽ちてしまうのに、消えない同情がどこにあるのか。
もしかしたら、片思いより辛いかもしれない。思いを告げたらゲームオーバー。惚れた俺の負け。付き合い始めたところで、こんな思いをするなら黙っておけばよかった。同情で付き合ってもらってるようなものの俺が、何かを言えるはずがない。空調を消した部屋が、俺の体温をうばっていく。

眠りたいけど、眠れない。この部屋が寒いからだけじゃなくて、いつ携帯が鳴るか分からないから。乾いた咳が何度も出て苦しい。それ以上に横に温もりがないのが、苦しい。金曜日になれば抱きしめてくれる。いくら他の日に俺を殴ったり、傷つけたりしても、金曜日になれば暖かい手で触れてくれる。
期待していたのに一人で寝る夜の寂しさは君には分からないだろうね。

「…シズちゃん」

夜明けはまだ来ない。




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