「いーざーやーくーん!!」
「あ、」
いつものように扉を破壊して中に入ると、臨也はパソコンで作業をしていた。画面から目を離さずに、何の用?と聞かれた。なんだ、恋人なのに用もなく来ちゃいけねぇのか?と思ってイライラした。俺は付き合ったからには、それはもう甘い甘い恋人生活が待ってるかと思ってたのに、現実は違うらしい。あーん(はぁと)はもちろん、お姫様抱っこも、膝に乗せるのも、暇さえあればキスするのも、ダーリン呼びも当たり前だと思っていた。

そんな思惑も知らずに、俺のことなんてどうでも良さそうに、キーボードをカチャカチャするのが腹立つので、パソコンの電源を落としてやった。

「え、あ!ちょっ!シズちゃん!何で強制終了するの!?あー…今のデータ全部吹っ飛んだよ…。パソコンはそのボタン押して消すものじゃないんだよ?分かってる?」
「あーはいはい」
喚きたてる臨也を腕に閉じこめ、抱きしめる。髪や首筋に鼻を埋めると、くすぐったそうに肩を竦められた。離れようと暴れているが、俺としては痛くも痒くもないので無視してさらに力をこめてやった。おー大人しくなった。抱きしめやすくなったので、そのまま抱き上げてソファーに座って、膝に乗せる。

「急に何なのシズちゃん。俺、忙しい」
黙ってれば可愛いのに喋ったら可愛くない。セオリーどおり口で口を塞いでやろうとしたら、顔を背けられた。可愛くねぇ!!…お?

「あの紙袋、何だ?」
たまたま目に入った袋を指さすと、平然とホワイトデーのお返しだよ、と言ってきやがった。たしかあの袋は美味しいプリンの店のだ。ちょっと期待しながら誰に?と聞くと絶対零度の視線でこう告げられた。

「ホワイトデーだよ。バレンタインで俺にチョコくれた女の子に。」
他の女…だと?

「浮気だな?浮気なんだな?約束したよな、浮気されたら殴るだけで済むか分からないから浮気するなって!」
「違う!貰ったから返す!これは基本だろ!?」
「わかった。でも俺はお前からチョコレート貰ってない」
「だって俺女の子じゃないからねー。日本の文化では…」
延々と日本のバレンタインについて語りだした。うざいことこの上ないが、何年もコイツを見てきたら分かる。このウザい喋りは、何か隠してるぞ!

「何が言いたい?」
「は?話聞いてなかったの?だから、」
「違うだろ?」
顎を掴んで無理矢理目を合わすと、じわぁと目に涙が浮かんできた。は?臨也って泣くのか?なんでだ?

「痛い」
「あ、わりぃ」
慌てて手を離すと、珍しく抱きついてきて俺がびっくりした。これがセルティの言っていた「つんでれ」のデレなのか?行き場の無くなった手で髪を梳くとぐいぐいと肩に顔を押しつけてきた。こういうのもたまには悪くない。猫みたいでかわいい。

「で、なんだ?」
「シズちゃん、バレンタイン受け取ってくれなかったのに嫉妬とかサイテーだ」
「は!?」
今すごく重大なことを言われた気がする。俺が、臨也のプレゼントを受け取らなかっただと?そんなわけあるか!だいたい、臨也が家に来る度に買ってくるお菓子の包装紙を捨てるのにさえ躊躇う俺が、そんな馬鹿なことするわけがない。

「俺に渡しにきてくれてたのか?」
「行ってない」
「じゃあ、渡すものがあるって言ってたか?」
「言ってない」
馬鹿か、コイツは。何も言われてないのに受け取ってない俺が悪いのか?違うだろ?ちょっとキレそうだ。落ち着け俺。

「…恥ずかしかったから言えなかった。」
前言撤回!馬鹿じゃないな、可愛いんだな!可愛い恋人にシャツの裾をぎゅっと握りながら、上目遣いかつ潤んだ目で「恥ずかしかった」なんて言われてイライラするヤツはいるか?いやいない!

「あー悪かった。これやるから許してくれ」
「なに?」
昼間にキャンペーンかなんかでもらったまま、ポケットに入れっぱなしにしていたボールペンを渡す。割れながら適当だとは思う。言い訳するなら、さっきの上目遣いとかいろいろで俺は動揺していた。

「『池袋美化運動〜ポイ捨て禁止!!〜』?」
「あー」
ボールペンに印刷された文字を読み上げられて、ちょっと気まずくなった。ちらりとこちらに視線を向けられ、目を泳がせているとプッと吹き出し、爆笑しながら鎖骨のあたりをばんばんと叩かれた。

「シズちゃん…!馬鹿なの?アホなの?プレゼントに貰い物の安物ボールペン!?もう信じられない!おなか痛いよ!腹筋返せよ!」
「わりぃ」
「うん、いいよ。いや、シズちゃんはそれくらい甲斐性なしのままでいい。言わなくてごめんね。俺も悪かった。」
笑いすぎて溜まった涙を拭ってやると臨也はそのボールペンを持ってデスクの方に向かった。何するのかと思ったら大切そうにしまっててびっくりした。

「臨也…!!」
嬉しさのあまり抱きしめにいこうとしたら、避けられた。くそっ!

「べ、別にシズちゃんから物貰ったことが嬉しいんじゃないから!使わないともったいないからだから!」
「おー分かった。分かったからてめぇは俺に抱きしめられてろ。いや、抱かれてろ」
「訂正いらねーよ」
「今日はホワイトデーか…。よし。俺のあれでお前の顔を真っ白に」
「黙ろうか。ね?」


この後、配るはずだったプリンは、臨也の足腰が立たなくなったため全て俺が食べた。旨かった。




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