ちょっとした番外編。
モブ視点です。
無いようなものですがデリモブ、モブ日々要素があります





誰でもいい。早くあの人をなんとかしてください。

「あつっ…!」
「日々也さま!?大丈夫ですか!?」
という会話があったのが数分前。
掃除のために部屋に入ると、やっとモーニングティーを飲み始めたところだったらしい。
紅茶が冷めていなかったらしく、舌を火傷してしまったようです。

あ、自己紹介が遅れましたが、私は日々也さまの下で働くしがないメイド。そうですね、メイドAとでもお呼びください。
下働きである私は日々也様を直々にお世話できるわけでもなく、今のように日々也様のお部屋の床を拭くのが唯一お目にかかれる至福のとき。
…だったのに、本日は執事であるデリックさんにぶっ壊された。

いそいそとそれぞれの掃除分担について作業を始める。
日々也様がいるから、待っておこうとしたけれど、デリックさんがOKを出したのでたぶんいいのだろう。
私も雑巾を絞り床を拭く。もちろん、日々也様観察をしながら。

「いたい、ヒリヒリする。」
「大丈夫ですか?ちょっと見せてください」
その言葉に、無防備にも舌を差し出す日々也様。
いや、駄目でしょう!そんなかわいいことしちゃ!男はみんな狼ですよ!
そもそも、舌の火傷なんて見たところで殆ど分からないのだから、デリックさんの行動はいかにも怪しい。

「あー。あかくなってますね。」
「んぁー」
べろん、と赤い舌をだしたまま返事をなさる姿に不覚にも鼻血が垂れた。あああ、せっかく拭いたところなのに…

「舐めたら治りますよ?」
は、ええええ!?

「ほーはのは?」(訳:そうなのか?)
「えぇ、もちろん」

デリックさん…恐ろしい人!言うや否や顔を近づけて口付けている。いやいやいやいや、舐めても治らないでしょうよ…。しかも、同じ空間に私以外にも二三人メイドだっているというのに。みんな顔を赤らめて目を逸らしている。食いつくように見ているのはわたしだけだった。
べ、別に恥ずかしくなんてありません!すこしでも日々也様を目に焼き付けておきたいだけですから!

気づけば、デリックさんは完全に日々也様の頭を抱えこんでいる。部屋の中には水音が響いていて、さすがの私もこれには辟易した。え、エロい!
治療していると勘違いしている日々也様はギュッと目をつぶっていて、赤くなった頬や、デリックさんの服を握りしめる様子は、ないものが起ちそうなくらい官能的な絵だった。
滅多に見ることのできない日々也様の姿をなんとか脳内にインプットしようと必死で観察していると、何処からか視線を感じる。
少し目を動かすと、…デリックさんがこちらを見ていた。見ていた、なんて生易しいものではない。もう、射殺さんばかりに睨まれていた。ひぃ!ごめんなさいごめんなさい!仕事します!
急いで雑巾を動かすと、水が入ったバケツに手が当たってしまった。あ、と思ったときにはもう遅くて大きな音をたてて水がばらまかれ、カランカランとバケツの音が静寂の中に虚しく響いた。

そっと、顔をあげると天国と地獄が見えた。
片方は潤んだ目に染まった頬で、訳が分からないというように私を見る天使、片方それはもう絶対零度の視線で睨みつける悪魔。
ああ、デリックさん、キスを中断させてしまったんですね、この私が!そりゃ睨みますよね、せっかくのチャンスを無駄にしたのだから。でも!日々也様の純潔を奪おうとするのが悪い!
と、内心考えたけれど、自分の命は大切なので「申し訳ございませんでした!!!」と叫ぶ。賢明な判断ですよね。

「…日々也さま、あちらに行きましょうか」
「あぁ」
日々也様を横抱きしたデリックさんは、自分で歩ける!と言って腕の中で暴れている王子を無視して私に死刑宣告をした。

「綺麗にしておきなさい。それと、後で部屋にくるように」
ああ、とてもいい笑顔です…。



「なんで呼ばれたか分かってるよな?」
「はい、日々也様の目の前で粗相を…」
「違う。」
「は、い?」
私、他に何かしでかしただろうか?
あ、もしかして!
「日々也様の寝顔の写真ですか?いや、あれだけは本当に許してください!お守りなんです!生きる活力なんです!」
「あぁ!?写真!?」
デリックさんの怒号に背筋が伸びる。あれ?墓穴…?

「出せ」
「はい…」
泣く泣くポケットに入っていた写真を差し出す。馬鹿!私の馬鹿!
渡した写真をまじまじと見つめると、胸ポケットになおした!!没収なんて!鬼!悪魔!

「お前はこれで抜いていたってことか?」
「ぬっ…!?まさか!天使で妖精で王子様な日々也様でそんな無粋なこと…!」
本当です!と言うと、なぜか苦虫を噛みつぶしたような顔をしてわかった、と言われた。デリックさん…さては日々也様で抜いてるんですか…?

「とりあえず、許してやる。だけどな、」
「?」
「日々也のキス顔を見ていたのは許せねぇ」
メイド服の襟元を掴まれ、引っ張りあげられる。殴られる!目をつぶって、衝撃に耐えようとしたのに、触れたのは信じられないことに口と口だった。
き……す?鱚?…キス!?

「え?は?」
「これで忘れたか?忘れたよな?よし、業務にもどれ。」
「はぁ…」

パタンと、扉が閉まりその場に崩れ落ちる。キスされた!?デリックさんに!?忘れろ私!
何度も袖で口をこすって感触を忘れられたのはいいものの、デリックさんの思惑通りしっかりやきつけたはずの日々也様のキス中の顔まで忘れてしまった。
悔しい!今晩のオカズが!と地団太を踏む私に馬の嘶きが聞こえた。



「なにをしにいってたんだ?」
「ちょっと制裁を…ね。」









―――――
メイドさんは女の子です。日々也様らぶ!で、真顔で日々也様をオカズになんてしてません!!と嘘をつく猛者です。
あ、馬の嘶きですか?「ざまあwww」といジョセフィーヌからのお達しです。
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