なんの気なしにしょうもないバラエティー番組を見ていたら、ズズッ、と隣から鼻をすする音がした。横目に臨也を見ると、ティッシュで鼻をかんでいる。
これで何回目だ。今日になってから軽く100枚はティッシュを消費している。

「おい、大丈夫か」
「大丈夫じゃない」
恨めしそうにこっちを見る顔は鼻が赤くなっていて、いつものコイツからは想像できないくらい間抜けである。

「酷いよシズちゃん、花粉がこれでもか!ってくらい飛んでる日に布団干すとかありえない!なおかつその布団に俺を寝かすなんて。この横暴!化け物!デカチン!」
「ぎゃあぎゃあうるせぇな…。じゃあ家帰れってんだ。」
「やだ」

即答して、またティッシュに手を伸ばす。以前臨也が勝手に持ち込んだそれは、鼻セ…なんだっけ?忘れたが、とりあえずいいティッシュで、鼻に優しいらしい。

「あ、空になっちゃった。新しいの持ってきてよ」
顎で洗面所をさす臨也を見て、しぶしぶ立ち上がる。面倒くせぇことこの上ないが、今回は俺にも非があるような気がしたので言われた通りに、一箱とってきて手渡した。

ありがと、と言って手から新しい箱を奪い取ると、またチーンと鼻をかんだ。


隣に座り直してテレビに目を向けたが何だか落ち着かない。
ちらっと臨也を見ると、視線で何か用?と返された。
充血した赤い目に、かみすぎて赤くなった鼻。鼻が詰まって熱っぽいのも相まってか、全体的に顔が赤い。
頬に触れると、想像以上に熱かった。

「お前、これ風邪じゃねぇのか?」
「んー、違うよたぶん」

曖昧な返答にさらに心配になったが、本人が言うなら違いないだろう。でも一応、確認しておくべきだな。
顔をこっちに向け、額と額をくっつけて熱を測る。額同士をくっつけた感覚は、そんなに熱くない。俺の手が冷たかっただけか?なんてことを、臨也の赤い鼻を見ながら考える。いや、そんなことより
「おい、顔真っ赤だぞ」
「うるさい!顔近いんだよ!」
キスだってしているのに、なんでこんなことでこいつ照れるんだ?

額を合わせた態勢から、唇を近付けようとすると体を強ばらせ、離れようとする。逃がすまいと頭を掴むと今度は顎を引いて断固として触れさせようとしない。

「なに逃げてんだ」
「…」
「理由言わないと殺す」
「何でそうなるんだよ」

殺す、なんて物騒な単語を発しても動こうとしない臨也に痺れを切らして、無理矢理顔を上に向けて、唇を舐めてやった。
鼻じゃ出来ないから口で呼吸しているのか、そこは乾燥して、パサパサしていた。
潤いを与えようと、何度も舐めていると、臨也が閉じた口のなかで、んー!と呻いた。

「やめて、って!」
「なんで」
「恥ずかしいから!」
臨也が叫んだことに唖然とした。恥ずかしい?今みたいな軽いキスどころか舌絡ませるようなのもして、散々足広げてアンアン言うくせに?
信じ難いがそれを本心から言ってるらしく、心無しかさっきより顔が赤い。

「だから…、なんか恋人みたいで嫌なんだよ。」
「は!?てめぇこの期に及んでまだそんなこと言いやがるのか!?」
「違うって。確かに俺とシズちゃんは恋人同士(笑)だけど、こういうのは…」
言いにくそうに、モゴモゴとする。こいつらしくねぇ。

「なんか、心配されて、好きだ愛してる、って言われてるみたいで落ち着かないんだよ。シズちゃんいつも何も言ってくれないし、ヤるばっかだし、俺にはこんな優しいことしてくれ無いし。本当に恥ずかしい…」

聞いてる俺が爆発しそうだった。潤んだ目で顔を赤くさせ、目を泳がせながら言う臨也は、抱き潰したくなるくらい可愛かった。
こいつが言ってるのはつまり、いつもは俺が自分のこと好きなのかどうか自信が無いってことだ。でも、たまにこんなのされるとちゃんと好かれてるってことを実感して恥ずかしい、と。
総じると、臨也は俺が大好きであるらしい。

「臨也」
「なに、って、ぐぇ!」
堪らなくなってソファーに押し倒したのだが、勢い良すぎて痛かったらしい。色気もくそもない酷い声が聞こえた。

「さて質問だ。据え膳食わぬは?」
「…男の恥?」
ポカーンとしたまま下から見上げてくる臨也に、さらに熱が込み上げる。あれだけ可愛いこと言った可愛い恋人をそのまま、なんて男が廃る。正解だ、と言って赤い唇に触れた。

なんども唇を甘噛みして、深く舌を絡める。溢れてきた唾液を音を立てて吸うと、甘い声が漏れた。臨也が出す声が脳髄をどんどん麻痺させていく。
夢中でキスをしていたら、突然胸を叩かれた。手を握って欲しいのか?と思い。指を絡めて手をつなぐと、爪をたてられた。一体なんだコイツ!空気読む能力は無いのか!?

ちょっと腹が立って唇を離した途端、臨也が大きく口を開いて空気を吸い込んだ。

「死ぬ!」
「はぁ?何言ってんだてめぇ」
ぜぇぜぇと、肩を上下させながら酸素を取り込んでいる。息切れし過ぎだ。
答える余裕が無いのか、涙が溜まった目で睨んでくる。顔を観察していると、ふと赤い鼻が目についた。
あれっ…?

「俺、鼻詰まってるんだよ。口でしか息出来ないのに、唯一の手段奪うとか、殺す気?だよね。シズちゃんやっぱり俺のこと大嫌いなんだね!死ね!」
「違うっ!ちょっと待てって!」

泣き顔でそれだけ叫ぶとティッシュの箱を抱えて、何故かトイレに逃げ込みやがった。
その後、謝ってトイレから出てきてもらうのに1時間かかった。

因みに、花粉症の時期が終わるまでキス禁止にされて本気で泣きそうだった。
全国の杉を叩き折ってやろうかと思ったのは言うまでもない。






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\解せぬ/by杉
花粉症は辛いです
気付いたら臨也が超乙女
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