新羅が苦労性な話。


「で、何事なの?」
今目の前に広がる光景は天変地異そのものだった。

「あーコイツ俺が投げた自販機に頭ぶつけて昏倒しやがった。まだ俺は殺人犯にはなりたくない。」
静雄が臨也を(横抱きで)連れてきた。あんだけ殺す!と喚きながら、いざこうなると怖がるなんて、臆病だなぁ。でも見た感じは外傷は無さそうだし、呼吸も安定しているので、彼の心配は杞憂である。

「命には別状無さそうだね」
「おぉ、それは良かった。」なんて嬉しそうに言うと、臨也からそのまま手を離した。…え、ちょっと!!
セルティは部屋の中、私の両腕は貧弱、重力は万人に等しくかかる。
一秒もしないうちに、臨也の背中は床に叩きつけられた。静雄は身長があるから、かなり高い所から落とされたことになる。全く…よくも仕事増やしてくれたね…。
仕方ない、自力でリビングまで運ぶしかないかな、と覚悟を決めて脇に手を差し込んだ。

「んー」
「臨也!?大丈夫かい?」
さっきの床激突という衝撃でどうやら目を覚ましたらしい。よかった!無駄な力を消費しなくて済んだ!と思ったのに、神は酷い。悲憤慷慨しても無理はない。

「…どちら様?」
臨也なんかを記憶喪失にさせてしまうなんて!見たことないような無防備な表情と、何寝呆けたこと言ってんだよ!という静雄の声が遠い世界のことのように聞こえる。



「君はね、折原臨也と言って自称永遠の21歳で情報屋なんて反吐が出るような仕事が本職の人ラブ!と言いながら極悪非道で残虐非道なことをしでかし、人間観察が趣味なんだ。なんて言ってしまう痛い人間なんだ。理解できたかい?」
「…本当ですかそれ。嘘ですよね?え、本気ですか?」
茫然自失、といった感じかな。僕は誰?なんて冗談でも聞かれたくない質問に全身全霊で答えてあげたのにね。確かに記憶がない臨也、つまり一般人には意味不明もいいところだろうね。

「で、どうなんだよ臨也は。一生このままなのか?」
「一時的な記憶喪失だよ。いつ治るかなんて僕は分からないけど、治るのは確実だよ。」
横から口を挟んできた静雄にありのままの事実を話してやる。ホッとした顔をするところを見て、少し驚いた。まるで、臨也を心配しているような―――?

「ねぇ、なんで部屋の中でヘルメットかぶってるんですか?しかもフルフェイスの。」
『ああ、これは事情があってだな…』
「へぇー。あ、もしかして首が無いとか!?」

気が付いたら臨也はセルティと話しにいったらしい。二人の会話がふいに聞こえた。的確なことを言いながら何も考えてないような笑顔にゾッとした。臨也、あいつ本当に何者だ?記憶が無いのか疑わしくなってきた。指摘されてセルティが肩をビクッと揺らす。焦り過ぎてPDAを落としてしまった。

「…まぁなんでもいいですけどね。」
興味を無くしたらしい臨也にホッとする。
次はPDAを見て、何で喋れないんですか?なんて聞く臨也は子供のようで気持ち悪かった。が、彼そのものは至って健康なのである。

ここで、問題が浮上してきた。記憶が無くなってる間臨也をどこに住まわせるか、だ。
常日頃から敵を量産してる彼なのに、こんな状態のまま解放するなんて殺人行為に等しい。かといって、(記憶は無いけど)怪我人でも病人でも無い臨也をセルティと僕の愛の巣に置いておくなんてのも却下。さて、どうしたものか。

突然静雄がソファーから立ち上がり、面倒な悩みから意識を引き戻された。
「どうしたの?」
「帰る」
「え、ああ、じゃあまた」
「おう」

そのまま玄関に向かうと思いきや。セルティの前に座り込んでいた臨也を(今度は米俵のように)担ぎあげた。えぇぇぇ!?

「ちょっと、臨也をどうするつもり!?」
「あ?連れて帰んだよ」
「あっ、そうかい」

あー、面倒事が無くなった。これで万事休す…じゃないだろ!

「ちょ、やめて下さい!降ろしてよ!あとさりげにケツ触るの止めてください…!」
「あー黙れ。」
なんて言いながら、静雄は出ていこうとする。そのー、なんだろう。僕は保身のためにももう何も言わないことにするよ。

「あのな臨也くん、お前はゲイで俺の恋人なんだ。だからこれ以上暴れたら投げ飛ばす」
「…え」

静雄の肩の上で暴れていた臨也が大人しくなる。自分が男と付き合っていたことにショックを受けたらしい。ついでに言わせてもらおうかな、俺もショックだよ!寝耳に水だよ!

扉を開けて、後ろを振り向いた静雄がニヤリと笑ったことに、寒気がした。



「セルティ…僕は色々疲れたよ…。だから君のその美しい肢体で僕を慰イタタタタタ」
『新羅!静雄は両思いになっていたんだな!よかった!』
僕の腕を影で思いっきりつねったことなんて無かったかのように、ウキウキとした雰囲気でPDAを見せてくる。

「どういうこと?もともと静雄は臨也を好きで、それがいつの間にか付き合ってたってこと?」
『ああ!結構前から相談されていたんだ。昨日は会ったときは特に何も言ってなかったからびっくりした。』
その言葉に愕然とした。
百歩譲って、静雄が臨也を好きであるということは許容しよう。だが、昨日の今日でそんなことになるわけがない。つまり…

僕の千思万考の末に出された「記憶喪失となった臨也にこれ幸いと『お前は俺のもの』という認識を擦り付けようという計画」という推測を確かめる術は無かったけどたぶん間違いない。信じたくはないけど。むしろ間違っていて欲しかった。


記憶が戻ってもイチャイチャしている辺り、彼の計画は成功したようである。
あぁ…、頼むからこれ以上迷惑はもってこないで下さい。








―――――
捕捉(シズちゃん視点)
臨也記憶喪失→ヤベェ→いや、待て→恋人だ!なんて嘘は?→たぶん大丈夫→「お前はゲイだ!」
これがシズちゃんクオリティ

記憶喪失設定の生かしきれてなさに全私が泣いた。
というかオチが私の斜め上を行ってしまって焦りました。
新羅の主役っぷりやべぇ
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