※デリ臨と、シズサイ表現含みます。






「サイケをシズちゃんの家に送ってから79日が経ったんだけど、ついに今日彼らはセックスしたらしい。本日0時から現時刻23時08分までに抱擁15回キス10回セックス1回らしいよ。ほんとにシズちゃんいつまで経っても中2から抜け出さないよね。どんだけ盛ってんだよ、って話。ねぇ、デリックどう思う?」
「知らねぇ」
ルーチンワークと化したサイケのデータベースへのハッキング後、臨也が俺へと質問を投げ掛ける。

「ああ、これでまた楽しみが出来たよ。もしサイケを捻り潰してしまえばアイツはどんな顔をするのかな?まさか本気でサイケに恋しちゃうなんて流石化け物だね。死ねばいい。」


サイケ、とは俺と同じ「サイケデリックドリームス」の初号機だ。臨也の顔をそのままに素直で明るく純真無垢な性格のロボット。
臨也がただ、「もし俺の顔した別人が困っていたらシズちゃんがどうするのか知りたくなっちゃった。」という軽い一言で生み出された。俺は2号機で、サイケデリックドリームスの試作機として作られ、引き取り手がなく廃棄処分されそうになっていたところを臨也が拾ってくれ、此処にいる。

「どうやら実験は大成功のようだ。『平和島静雄は俺の見た目じゃなく中身が大嫌いなだけである』なんて結果が得られたよ。面白くもなんとも無い結末だなぁ。前から知っていたさ、それくらい。」
早口でまくし立てる臨也の赤い瞳が揺らぐ。
「つまり何がどうであれシズちゃんは俺が大嫌いなんだよ。サイケを送った三日後に会った時なんて、俺のそっくりさん預かっときながら、いつもどおりだったし。俺が手を出すのを警戒していたのか、一言も誰にもサイケのこと話してないみたいだしね。馬鹿だなぁシズちゃん、最初っからサイケは俺の駒なのに。」
笑い声が何の雑音もない部屋に虚しく響く。

「もう止めとけ」
一言そう言えば、臨也は黙って俺の目を見つめてくる。無音で悲痛な色を浮かべた赤い瞳。泣きたくても泣けない彼の変わりに、俺が涙を流す。
「なんで泣いてるんだよデリック。整備不良?」
「馬鹿かてめぇ、ちげぇよ」
少し手を伸ばすと、仕方ないなぁ、と言いながら臨也が歩み寄り胸に収まった。細い体を精一杯抱き締める。できるだけ、彼が愛する人の怪力を思い出すくらいに強く。

折原臨也は平和島静雄を愛していた。狂気じみた人間愛を説く裏の顔は、ただ一人を愛する不器用な男だった。小さい頃から愛されることも愛することも教えられなかった人間は道を踏み外す。そして臨也もその一人で。
出会った直後に本人がどうこうする隙も無く嫌われてしまい、その反動で静雄に嫌がらせをしてさらに嫌われ、また嫌がらせをしての無限ループを繰り返す。

本人の口から「平和島静雄が好き」ということは聞いたことは一度も無いが、しばらく一緒に生活すればすぐに気付いた。
今日も殺しあいをした、と嬉しそうな表情も、傷を手当てしている時に「シズちゃんは本当に俺のこと嫌いだね」と零した言葉も、サイケのデータベースを覗く度に出す悲痛な声音も、全てが平和島静雄が好きだと、愛していると訴えていた。

「デリックは本当に俺のこと大好きだよね」
「あぁ、まぁな。」
笑って答えてやると、苦しそうに、そう、と呟く。

「俺はさ、別に良かったんだよ。」
唐突に、臨也が口を開いた。
「シズちゃんが俺を嫌いなら嫌いでそれでもよかったんだよ。どんな女とくっついても、邪魔くらいはするだろうけど、たぶん何も思わなかった。」
こんな、あからさまな話を聞くのは初めてだ。震える肩に更に力を込める。
「でもサイケはダメだ。男だし、何より顔が俺そのまんまなんだよ?俺じゃだめなのかな?サイケみたく素直になってシズちゃんの思う通りの性格になる、って言ったらシズちゃんは俺をサイケと同じように愛してくれないかな、ねぇ、」
そっとあげた顔は酷く痛々しい。泣いてはいないけど、心が錆付き枯れた音が聞こえた気がした。コイツは涙の流し方さえ知らない可哀想なヤツだ。愛されることを知らない、悲しい人間なのだ。
何も答えられずに、頬を撫でる。

「デリック、キスしてよ」

キスの合間に何度もデリック、デリックと呼ばれて、たまらない気持ちになった。俺は感情を押さえて、臨也、とアイツによく似た声で呼んでやる。
すると背中の布を掴んだ手が弱々しく震えた。
聞こえるか聞こえないかくらいの声で、シズちゃん、と呼ぶ声がした。


本当は言ってやりたい。俺じゃあダメなのか、俺とアイツは同じ顔だぞ、と。臨也が言っていたことと同じことを。
だけど、俺も臨也も分かっているのだ。代用が効くわけないことくらい。それでも、その叶わない願いにしがみつきたくなるくらいに愛しいのだ。


俺は愛しいコイツに今日も夢を見せる。俺にとってはただの苦しい悪夢でも、彼が望むのなら、何度でも。





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