「おじゃましまーす」と言いながらもシズちゃんの不在は確認済みだ。外から見た時に電気がついてなかった、って程度の判断だがたぶんあってる。今までこんな風に帰宅前に家に入った時、電気がついてない時には絶対シズちゃんは居なかった。
靴を脱いで短い廊下を進む。持ってきた晩ご飯の材料を台所に降ろす。さて、今晩はシズちゃんの好きな俺特製シチューだ。前に美味い、また食いたい、と嬉しいことを言ってくれたので単純な俺はまた食材買い込んでせっせとボロアパートまで運んできたのだ。
家に無かったので勝手に持ち込んだ黒いエプロンを身につけて腕まくりをしたところで、
「臨也?」
「え?」
声をかけられて振り返ったら、何故かシズちゃんが居た。台所は電気をつけたので明るいけどシズちゃんが居る方は暗いので顔はあんまり見れなかったが、いつものバーテン服じゃなくて、ジャージだったのが見えた。こんなジャージ着てたかな?むしろ、持ってたっけ?初めて見た。
どこにいたのだろう。全然気付かなかった。まぁいいや、とりあえず鍋出さなきゃ。
「何してるんだ?」
「シズちゃんのご飯作ってるんだけど?」
「あー、あぁ」
なんだか変だ。晩ご飯作りに来るのはいつものことだし、それも知ってるはずなんだけど。真っ暗だった部屋といい、見ないジャージといい、今日のシズちゃんはちょっとおかしい。

「なぁ臨也」
「ん?どうしたの?」
シチューの準備をしようと台所に立っている俺の背後にすすすとすり寄って、後ろから抱き締めてきた。
「どうしたの?シズちゃん。今日なんか変だね。」
「大丈夫だ、問題ない。」
「あっそう、じゃああっちで待ってて。今日は君が好きなシチューだから。」
軽くあしらうと、さらに抱き締める力を強めてくる。何故か今日は今までにないくらい甘えてくる。もしかしたら何かあったのかもしれない。
池袋最強が悩み事とか笑い種でしかないけど、少しくらいなら聞いてやってもいい。…作り終わった後で。
胸と腹に回る腕を無視してスーパーの袋から人参とじゃがいもとブロッコリーと、シズちゃんの給料じゃ手が届かないような値札がついた牛肉を取り出す。前は安物だったけど、あんな風に褒められたら奮発しようかなー、なんて。

「臨也、」
また呼ばれた。面倒くさいけど返事をしなければ機嫌を損なうので、なぁにシズちゃん、と返してやる。
「ヤりたい」
あ、引っ張りすぎてじゃがいもの袋が裂けた。勢い良く破れた袋から、じゃがいもがコロコロと転がる。
まだ土がついたままだから床汚れる、いや、シズちゃんの家だしまぁいっか。
うん、とりあえず
「本当にどうしたの?」
「駄目か?」
そんな猫なで声かついい声で甘えられても、可愛いなんて思わないし!絶対に!いつもは俺が誘わなきゃやらないし、誘ってきてもたまにだし、しかもこんな甘い感じで言ってくるなんて奇跡だ!いや、本当に可愛いなんて思ってないし!シズちゃんのために料理作ってるのに、ちょっとの待てが聞けない駄犬の言うことなんて聞くわけが、
「いいよ。」
…聞いてしまった。
俺の返事を聞くや否や体を持ち上げて布団まで持っていく。すとん、と優しく落とされて、その上にシズちゃんが覆いかぶさってくる。
エプロンを外して、インナーに手を突っ込んできた。
「や、あっ」
胸の先端を押しつぶしたり、くにくにと指で触ったりされる。つい声が出てしまい顔を背けて目を閉じた。
「可愛い」
ふっと笑った声とともに吐き出されたその言葉に耳を疑った。可愛い?可愛いだと?生まれてこの方一度もシズちゃんの口からその四文字が紡がれるのは見たことも聞いたことも無い。明日は槍が降るのかな?
そんなしょうもない思考を快感が蝕んでいく。
少し勃起しはじめたところを膝で刺激される。

「んっ……あ」
首筋を舐められてつい漏れてしまった声は、自分の声じゃないみたいで変な気分だ。目をつぶると、拾わなくてもいい音が頭の中に響く。ってあれ?やけにシズちゃん鼻息荒くないか?
ふと思い立ってシズちゃんの顔を見た。が、後悔した。見なければよかった。今世紀最大級ともいえる変態くさい表情だった。俺の顔を見て口半開きでニヤニヤしている。もはやヨダレでも垂らしそうな勢いだ。しかも今気付いたが、目がピンク色ってなんだ。カラコン?カラコンなのか?
正直に言おう。気持ち悪い!
そんな俺を様子に何を勘違いしたのか、顔を近付けてくる。
ヤバイ!キスされる!このままじゃ顔中舐め回される!それはヤバイ!この変態くさい顔がシズちゃんの本性だったのか?よし、決めた、別れよう。

「も、やめろ…っ!」
そう叫んだのと同時に、玄関が開く音がした。
…あれ?

「臨也ぁー。いるの……か?」
そんな声とともにバーテン服のシズちゃんが入ってきた。
は?シズちゃん二人?え?
俺が混乱状態に陥っていると、あわててシズちゃん(ジャージ)が俺の上から飛び退いた。

「わりい!静雄!つい、出来心で押し倒しちまった!でもマジで臨也って可愛いな。お前の言うとおゴファ」
シズちゃん(バーテン服)に殴られたシズ…いいや、変態は即座に体勢を立て直し口元を押さえながらシズちゃんに向かって土下座した。
「すみませんでしたぁぁぁぁっ!」



シズちゃんの話によると、どうやらあの変態はデリ雄とか言うらしく、シズちゃんモデルのアンドロイドで、二週間ほど前に朝起きたら届けられていて、ついでに言うとシズちゃんも押し倒されたらしい。二週間前からなら俺、シズちゃん家何回も来てるよ?と聞けば、俺が来るときは押し入れに電源切って押し込んでたとか。で、今日はたまたま電源切るのを忘れていてシズちゃんを装い俺を襲いにかかった、と。

「いやぁそれは良かった!」
やっと作り終わったシチューを、一緒に食べる。
うん完璧!例の牛肉も、転がったじゃがいももいい感じだ。
「全然よくねぇ」
「いや、良かったよ。もし本当にあれがシズちゃんだったら俺、別れようと思ったからね。」
「何してやがんだデリ雄の野郎!よし潰す!グチャッと潰す!」
反省しろ!と言われて閉じ込められたデリ雄がいる押し入れの方から、ガタッと音がした。


それから数日は「シズちゃん?シズちゃんだよね?デリ雄じゃないよね?」と本人相手に(目の色を見れば分かるのだが、念を押すのと嫌がらせのため)尋ねまくり、キレさせてしまった。
だけど、デリ雄の口からではあるが「可愛い」という言葉が確認出来たのでよしとしよう。





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デリ雄は歩くち〇こです←
この後は、デリ雄として臨也さんに猛アタック開始。
で、面倒くさくなった臨也さんが日々也購入しちゃうんでしょうね。
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