・転生というか、生まれ変わりというか。
・脳内補完必須
・パラレルっぽい
・自分でもヨクワカラナイ
・方向性を見失った
それでもいい!という方はどうぞ





一度目は、何だったのか。一番古い記憶は、人間で女だった。君の笑顔に一目惚れして、ただ側にいるだけでよかった。君は選ばれた人にしか持ち得ないものを持っていて、そのおかげで君の下で働くことができた。自分の身分じゃ何も出来ないのは当たり前だったし、それでも近くにいれるだけで十分だった。そんな地味だけど幸せだった日常は、呆気なく崩れてしまった。何度か手紙で知らない人に迫られていて、明くる日その人が夜這いに来た。女の力で勝てるはずもなく、されるがままになるだけだった。それ以上に悲しかったのが、彼がそれを許したと知ったとき。その絶望には勝てなくて、自分で自分の命を経った。
それから時は巡り巡って、それこそ、百万回死んだ猫のように俺は死んでは生まれを繰り返した。その度に、出会っては叶わぬまま死んでいった。


これが何度めか?とはわからない。ただ、生まれ変わる度に遠くなっていって、今度は人間の男と来たものだ。これじゃ、不戦敗も同じじゃないか。どうしようもない。これが、限界のような気がした。俺はシズちゃんを諦めなければならない、そして誰かを愛さなければならない。誰かとは誰だ?…人間だ。人間を愛するなら、シズちゃんを憎まなければならない。そう、これが俺の最後の人生だ。これで、終わりにしよう。こんな、見苦しい真似は。


「おい、臨也くんよぉ、ナイフ刺さらないって分かってるのにテメェも飽きないよなぁ」
「ヤッた後の、気を抜いてる瞬間なら刺さると思うんだよねぇ」
俺に背中を向けて煙草を吸うシズちゃんの背中にナイフを突き立てる。皮膚が薄く裂け、ナイフを離したところから血が血が細く流れた。
皮肉なことに、一番遠いと思われた「折原臨也」という人間が、身体的には一番近い場所にいた。知らなかった体温、呼吸、汗の匂い。これで、本格的に俺は「死ぬ」ということを覚悟しなければならないと悟った。いるのかどうかは知らないが、できれば居ないと言ってくれたほうがいいのだけれど、神様か何かが俺へのご褒美か何かなのだろう。君は今まで一度たりとも、君が願う人にも、それどころか誰からも本当の愛を得ることはできなかったけど、これで勘弁してよね、と。

「本当に、理屈も何も通じないデタラメな奴だ」
「悪かったな」
血を塗り付けるように背中を撫でる。シズちゃんとこんな風にゆったりとした時間を過ごしていると、つい感傷的になってしまう。シズちゃんの血で汚れた手を見つめ、拳をつくった。

「死ねばいいのに」
「あぁ?じゃあテメェが死ね。さくっとな。」
「そんなこと言わなくても俺はいずれサクッと死んじゃうよ。馬鹿だねシズちゃん」
「ほー。じゃあ俺が今!ここで!殺してやるよ!」
ベッドサイドの灰皿に煙草を押しつけ、寝転がったままの俺を逃がさないとでも言うように、顔の横に手をついた。

「なぁ、情報屋の折原臨也くん。確実に人が死ぬのは何だ?ついでに一番苦しい死に方は何だ?」
「知らないけど、君の手で首絞めたら俺は死ぬだろうし、苦しいだろうけど」
「…お望みどおりにしてやる」
両手を首にかけて、緩く力が込められる。そんな生優しいのじゃ、死ねない。シズちゃんの手に自分の手を重ねて、もっと力が入るように手を押さえつける。一瞬、シズちゃんが困った顔をした。

「臨也…」
低くて、耳触りのいい声だ。もっと俺の名前を呼んでほしい。でも、このまま、本当に死んでしまえば楽かもしれない。何かの文献で、自然死以外で命を落とすと、輪廻転生に歪みが起きると書いてあった。だとしたら、自殺で始まった俺の数奇で不可思議で、苦しいこの運命は、愛するシズちゃんの手で締めくくられるのが道理なのかもしれない。よかったね、シズちゃん。君は俺から解放されるし、俺も俺から解放される。根拠はない、直感だ。
泣いたことも泣きたいと思ったこともなかった俺は、勝手に溢れた涙を止める術は知らない。頬を伝った滴は、シズちゃんの手を濡らしているだろう。さっきよりも、首を絞める手に力が入ったのに気づいて、そっと目を閉じる。やっと息が苦しくなってきた。
俺は最期まで、好きとか言えない奴だったけど、まぁ、君のことは大好きだったよ。酸素が足りなくなってきた頭で、何度もその言葉をループさせる。俺は死にたがってるけど、本能が言うことを聞くわけもなく、首を圧迫するシズちゃんの手を力なく引っかいた。

「臨也」
また、名前を呼ばれる。だが、呼んでるのはシズちゃんかどうか、わからなくなってきた。俺の頭の中か、いわゆる走馬燈というやつか。でも、いくら記憶をたどってもこの名前を優しく呼ぶのは聞いたことがない。

「臨也…!」
突然、首の圧迫感が無くなり、体を起こされる。ひどい咳が出て、酸素を取り込もうと喉が汚い音を立てる。その間、何故か殺そうとした本人に背中をさすられた。なんで最後まで続けないんだ。

「な、ん…で」
「ごめん、違う。殺したいけど、死んで欲しいわけじゃない。」
首を絞めていた力より強いのでは、というくらいきつく抱きしめられて驚いた。

「違うんだよ、俺が殺したいのは…!」
なんで首を絞められた俺よりシズちゃんが痛そうな声を出すのか。理解不能だった。シズちゃんは俺のことが嫌いで、殺したくて、セックスなんかをしているのは、ただ俺が便利だったから、のはずだ。なのに、違う?死んで欲しくはない?

「臨也、好きだ」
「え…」
唐突すぎやしないか。目が回り始めたのは、俺の気のせいじゃない。これは夢かと疑ってみても、シズちゃんが俺の背中を撫でる感触も、息苦しさも確かに現実だった。

「うそだ」
「ちげーよ」
「…うそだ、嘘に決まってる。つくなら、もっとマシな嘘つけよ。そんなの、卑怯だ」
距離を置こうと胸に手をやり離れようともがく。今さら、どうして運命が変わるのか。俺はシズちゃんに報われない恋をしたまま、本当の意味で死ぬはずだったのに。信じられるわけがない。シズちゃんが他の人間を選ぶ瞬間を何回目の当たりにしたと思っているんだよ。俺に散々優しくして、俺を置いていくなんてもう耐えられないんだよ。
俺のシズちゃんを憎むという努力は水泡と化した。結局、こんな訳の分からない結果を生んだだけだ。

「嘘は嫌いだ」
「嘘じゃない。好きだ。愛してる」
「…簡単にそんなこと言うな!愛してるなんて…、どうせまた、俺から離れるくせに!今度は恋人という座から俺を付き落としたいの?友人という立場からでも十分苦しかったのに?ああ、今までの復讐としてならうってつけだ。便利なダッチワイフとして使って鬱陶しくなれば捨てればいいもんね。」
「お前、言ってること意味不明だぞ…?」

シズちゃんの言うことが至極真っ当だ。そう、すべては俺の所詮茶番劇だ。何度も生まれ変わったとか、まともな人間の考えることじゃない。それを証明する人も物もなにもない。それでも、俺は。

「…俺も、好き。」
「!」
「俺だって、好き、だから」
「本当か!」
俺の「愛してる」は重すぎるから、シズちゃんには苦しいだろう。俺に頬ずりしながら、ぎゅうと抱きしめてくるシズちゃんに、つい笑いがこぼれる。長年の願いが気付いたら叶ってしまった。ただ、まだシズちゃんの心変わりが怖いという気持ちは消えない。はじめて自分から腕をまわすと、うれしそうに頭を撫でてくれた。

「ずっと好きだったんだ」と小さく呟いたシズちゃんに、俺だってずっと前から、と答えた。





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