「…嫌い」
「あ゙ぁ?」
突然不法侵入して俺を押し倒して腰に乗ってきたクセになんなんだ手前は。そんなことを言いにきたのか?イライラする。が、いつもと様子が違う。俺も俺で、イライラする。と考えるだけで、突然おきた事にキレることもできず手持ちぶさたになった。
そしてまた、臨也が赤い目を伏せがちに同じ言葉を繰り返す。

「嫌いだよ」
「…」
「すっごい嫌い」
「おい、一体な「ねぇ、シズちゃんは俺のこと嫌いなんだよね?」

臨也が握り締めた俺のシャツに水滴が落ちた。唐突過ぎる。もしかしたら、来る前から泣いていたのか?
静かにただ涙を流すコイツはあまりにも痛々しい。ありえねぇ、臨也が泣くなんて。
沈黙を肯定と取ったのか、それともいつもの俺の口癖を思い出したのか、答えてもいないのにまた喋りだした。震える声と体と瞳で、

「俺もそんなシズちゃんが嫌いだよ。殺したいんだ。シズちゃんなんて死んじゃえよ。」
「おい、臨也」
「でも」

そう言ってやっと顔を上げた。
目には涙が溢れ、眉毛も八の字になっている。
今まで見たことないような表情だった。いつもの憎たらしい笑顔は影を潜め、あるのはただ悲しみを切実に訴える表情だけだ。
つい無意識に腕が上がって、いつもコイツを傷つけるめに動く手が、殺すはずの手が濡れた頬に触れる。
触れたところは、まるで白磁のように美しくなめらかで、人形のように体温が無かった。
涙で湿った人間の頬なんて、思えば初めての感触だった。親指を伸ばして涙の水源を拭う。
すると、手の甲にぬくもりが重なった。

「もっと嫌いなのはシズちゃんに嫌われる自分自身なのかもしれない」

そう言うと、俺の指の間から自分の頬に爪を立てた

「俺は俺が嫌いだからシズちゃんを殺したいんだ」
「意味不明だな」

そう言うと、ふっと笑って暖かい体が離れた。
それをなんとなくもどかしく思いながら、臨也の後ろ姿を無言で見送った。


臨也が出ていった窓のカーテンが揺れる。
その影だけがさっきの白昼夢のような訪問が事実であったことを示す。
ちらと下をみると手が少しだけ赤く染まっていた。
(―――どんだけ強く爪たててんだよ)

手に残った血糊の色と、臨也の目の色が重なった。




―――――
ナチュラルに窓から入ってきて窓から出ていきます。
笑うところですよ。
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