テイルズ短編 | ナノ



世界が犯した罪とは少年を愛せなかったこと

「待ちやがれっ!」

走っても走っても追ってくる彼らに、ルークはもう生きた心地がしなかった。
ルークは英雄になれると頭の中で言う声の指示通りエターナルソードを使ったのだが、それはルークの思い描いていたものではなかった。一つの村を消滅させるという事態を引き起こしルークはその罪の重さに耐えられなくなって、逃げ出したのだ。

「何で…こんな事に……!」

途中まで一緒だったガイからも逃げ、一人ふらふらと自暴自棄になりながら追ってくる騎士から逃げる。先程すぐそこで声がした。ルークが見つかるのも時間の問題であろう。逃げ切れたとしてもルークは大罪を犯した。元の屋敷へ戻ることはおろか、受け入れてくれる場所など、有りはしなかった。
ならばいっそここで捕まってしまおうか。ルークの頭にそんな考えが過ぎった。捕まったら処刑されるのだろう。だが生きていても無駄だとルークは動かしていた足をピタリと止めた。
どうせなら自分を恨んでいる人物に殺されてやろう。死ぬことを前提に考えるルークに最早正常な判断は出来なくなっていた。

「…あんたがルーク・フォン・ファブレか。」
「……そうだ。」

声のした方を見ると明らかにその瞳に怒りを宿した黒がいた。追ってきた騎士とは違ったがこの者も自分を殺したいほど恨んでいるのだろう。そう思うとルークは持っていた剣を抜き、捨てた。
抵抗しないという意思表示だったがその黒は罠か、と警戒している。村一つ消滅させたのだ。どんなイカレた奴か、と思われても仕方ないだろう。だがルークにはそんなことどうでも良かった。
空には雲がかかり、今にも降られそうな雰囲気だ。

「…あんたが俺をどう思ってるかは知らねぇ。でも俺はもう…やめた。」
「はぁ?やめたって何を?降参するってのか?」
「殺すなら、殺せ。」

ポツポツと降り出した雨が二人にかかる。次第に激しくなりつつある雨にルークはふ、と笑った。

「…何が可笑しい?」
「…世界を助けられると思って、自由になりたいって思ってやった瞬間世界も、自由ももうない。俺って一体何の為に生まれたんだろうな、と思うと笑えてきたんだよ。」

笑いながらしゃくりあげるルークの瞳から大粒の雨が滴った。空を見上げて雨で頬を濡らす。生まれた意味など知ったことか、と黒は思ったがその言葉を口が発しようとしない。笑いながら泣き喚く彼がどうしようもなく哀れで、うずくまった彼の肩に腕を回した。

「…殺せ、殺してくれ……世界を敵に回してまで生きる価値のある命じゃねぇ…」
「命に価値なんてねぇよ。それと、悪いが俺は元々あんたを殺すために来たんじゃねぇんだ。」

俺はユーリ、と名乗る青年をルークは雨の混ざった顔で見上げた。じゃあ何の為に。ルークはそう訪ねるとユーリはルークを立ち上がらせた。

「あんたが罪を認めず逃げたって聞いてな、説教垂れようかと思ったが…あんた、もう認めれてんじゃねぇか。後は償う意志があるかだな。」
「でも俺は大罪を犯したんだ。向こうの方にいた騎士に捕まるべきだろ?捕まったらどうせ処刑だ。償うったって俺には死ぬしか道がない。」
「そうだな、捕まるべきなんだろうが……」

それじゃ償いにならねぇ。ユーリはルークの手を取った。

「てめぇが何のために生まれたか何て俺に聞くな、てめぇで考えろ。償いも自分で考えて償って見せろ。世界中の人間全員を幸せにしろ。俺が見ていてやる。」

償う意志があるんだったらな、とユーリは付け足した。ルークは握られている手に力を込めた。

「ある。」

真っ直ぐ射止めるような瞳をユーリにぶつけるとユーリはそうじゃねぇとな、と言った。
二人は濡れることも忘れて雨の中走り去った。

「…もし、間違えるようなことがあったら……」

ルークが手を取り前を行くユーリを見ながら呟いた。ユーリに聞こえない程の小さな声でルークは続ける。

「その時は、お前が俺を……」



世界はマナの枯渇と言う問題を抱えていた。いつ世界が崩壊してもおかしくないような可能性を孕む危険な状態。そんな中一人の少年が一つの解決法を見出した。それは自らの力を全て使い世界樹の歪みを取り除くこと。そうすれば少年は跡形もなく世界から消えることとなるが少年はその道を選んだ。一度は汚した手を世界を救うために少年は力を振るう。
たとえそれが交わした約束に背こうと。

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