FF\短編 | ナノ



声の力

「お嬢さん、俺に少し付き合ってくれないか。」
「いやです。」
「即答かよ。」

クラスメイトの男の子が私に話しかけてきた。女の子にかなり人気のあるクラスメイト、トライバル君は私の答えに苦笑している。
あまり話したこともないのに、どうしていきなりそんなこと言うんだろう。

「話くらい聞いてくれてもよくね?」
「……トライバル君、私……」
「俺のことはジタンでいいよ。」
「……私はいいです。」

皆そう呼んでるんだぜ?とか言ってるけど、他人は他人、自分は自分だ。
他人が彼をどう呼んでいるかなんて私には関係ない。

「いや俺、実は演劇部でさ、」
「……結構です。」
「まだ演劇部としか言ってないんだけど?」

私は他人から言動が冷たいと言われる。でも、だからどうしたというの?
だから友達ができないんだ、って誰かに言われた。でも、これが私なんだから自分を作ってまで人とつるもうなんて思わない。
寂しいとも思わない。

前に私と仲良くしようとした女の子達は私がこんな言動だからすぐに諦めた。
だから、この人もどうせすぐに、

「まぁ、最後まで聞けよ。それからゆっくり考えてくれれば良いからさ!」
「……」

諦めない……?何で。

「俺、演劇部でさ、あと三ヶ月後に文化祭があるだろ?それに少しで良いから君に出てほしいんだ。」
「なんで、私が。」
「ちょーっと俺のミスでさ、女の子が足らなくなっちまって」
「だから、なんで私が」
「頼むよ、な?」

人の話を聞かない人なんだな。大体、私はそんな柄じゃない。
全然美形でもなければ紙も無駄に垂れ伸ばして。周りから見ても自分で見ても根暗って言葉が似合う。そんな私が?
いじめの一貫か?
自慢じゃないが私は数々のいじめを耐え抜き、乗り越えてきた。
その手には乗らない。

「恥かくのがオチ、結構です。」
「そんなことないさ、」
「……私をいじめて、楽しいですか?」
「は?」

あー、つい。
まぁ、今までも私をいじめる人に聞きたかったことだし。この際聞くか。こんなに反応が悪いのに、楽しいのか?
……と思ったが、トライバル君は何を言っているかわからないような顔をしている。
音にするならポカーン。

「……いや、俺はただ純粋に良い声してるからナレーションに良いかなーって。」
「……ナレーション?」
「そ、そ。あ、興味わいてきた?」

今まで容姿のことを馬鹿にされたこともあった。しかし、声?
気にも止めたことはなかった。

「……女の子のナレーション?」
「うんうん。主人公の回想シーンでさ、主人公の恋の相手が昔言っていたことを思い出す時に。大事なシーンなんだ、頼むよ!」
「そんな大事なシーンに、私?」
「ああ。」

断ろうか、と思ったがトライバル君の真っ直ぐな視線に私は首を縦に振ってしまった。



「さぁ、皆!今まで練習した成果を発揮させるぜ!」


トライバル君が景気付けに言うと、おおお!と役者、裏方一同が盛り上がった。
私は台詞としては少なく、さほど緊張もしていない。
最終確認とばかりに、私は台本を読み返し始めた。

「よ、緊張してるかい?」
「残念ながらしてないよ。」

ひょっこりと少し体勢を低くして私の顔を覗き込むトライバル君。
さして驚きもせず私は台本から目を離さない。

「ふーん、普通は緊張してるもんだぜ?」
「それ、私が普通じゃないみたい。」

私がムッとして言うとトライバル君は悪い悪い、とニヤけながら謝った。
平謝りとはまさにこの事だね。

「期待してるぜ?」
「……」

されても困ると思ってトライバル君をチラ、と見た。

「……!」

今まで気づかなかったけどトライバル君って綺麗な水色の目をしてるんだね。
いつになく真剣な眼差しに少し、見とれてしまった。

「大丈夫か?顔赤いぜ?」
「え?……あ、き、緊張してきたかも……」

咄嗟に思い付いた言い訳。とてつもなく見苦しい。

「そんなものさ!さぁ、始まるぜ?」
「う、うん。」

私の役は結構後の方だ。一方トライバル君は最初から出る。
だからトライバル君は舞台の方へ向かった。

「頑張ろうな!」
「!!」

去り際に私の頭をくしゃくしゃと撫でて。

一瞬何があったのかわからなかったが、わかった瞬間顔が真っ赤になった。
幸い、トライバル君はもう舞台に向かっていたから見られていなかったが。



「いやぁ、お疲れ!」
「……お疲れ様。」

舞台は成功した、のだと思う。とりあえず、何も問題はなく終わった。
トライバル君は演劇が終わってすぐ私の元へ来た。
他の人は早々に片付け、帰っていってしまった。

「すっげぇよかったよ!助かった!サンキューな!」
「……どういたしまして。」

そんなに良かったものか、と思ったがそれすらも面倒で言わなかった。
自分でも極度の面倒くさがり屋だと思う。

「実はちょっと好評だったんだ。また頼む時あるかもしれないからさ、その時はよろしく!」
「……考えとく。」

嬉しいと、素直に良いよと言うのが照れ臭くてそっぽを向いてしまった。

「苗字さんさぁ、もっと笑ったら?」
「……」
「苗字さん?」
「私の事は、名前でいいよ、ジ、ジタン……。」
「!!!」

は、恥ずかしい!顔真っ赤だよ、今!
ジタンは私の言葉に驚いたのか口をあんぐりとあけて固まってしまった。嫌だったのかな。

「あ、あの、トライバルく……」
「ああ!ジタンで良いって!さっき呼んでくれただろ、名前!」
「……っ」

どうしよう、凄く嬉しい。何でだろう。
ジタンはにっこりと笑って私の頭を撫でた。心なしか、頬が赤らんで見えた。

「……名前、俺名前が好きなんだ。」
「……へ?!」
「声かけて断られた時はちょっとショックだったけど、受けてくれた時は本当に嬉しかった。」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ、い、いつから?!」
「……いつから、だろうなぁ、最初からかもな。」

うーんと悩むような動きをしてジタンは苦笑した。頬はもうかなり赤かった。
私の心臓はあり得ないほどの速さで動いていた。

「……迷惑、かな。……悪かった……。」
「ま、待って!」

離れていく手が凄く寂しそうでその手を反射的に取ってしまった。いや、寂しそうだから、なんて理由じゃない。
きっと私はジタンが……、

「ジタンが、好き。」
「名前……?」
「私、今まで好きになった人いなくて好きって気持ちよくわかんない。……でもジタンが話し掛けてくれる度に凄く嬉しかったの。」
「……名前、」
「今、凄く、泣きそうなくらい……嬉しいよ。」
「名前っ……!」

本当に涙腺が緩んできた。視界がぼやけて下を向いたらポロポロと何滴か目から涙がこぼれた。
ジタンはそれを見たからか、ふわりと私を抱き寄せた。

「ご、ごめっ……迷惑…っだよね……?」
「そんなことない。ありがとう、俺も嬉しい。」

私がジタンの胸に顔を埋めてぐずぐず泣いた。何故涙が出るのかわからなかったけど、止めようにも止まらなくなってしまった。
ジタンは黙って背中を撫でてくれた。

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