ラベンダー・アイス | ナノ





 とりあえずこの合宿中、よく怒っている人と少し話をしてみようと思う。周りを見ていると、見つけた。目的の人。

「真田さん、食料集めですか?」
「岡峰か。 うむ、食べられるキノコを探そうと思ってな」
「お手伝いしてもいいですか?」
「む、それはありがたいが、その……大丈夫なのか?」
「ふふ、心配してくださってありがとうございます。でもキノコ採集なら余計に他の作業よりも大丈夫ですよ。森は他の日陰と違って反射も少ないですし」

 そういうと真田さんはそれなら良かった、と言って私の同行を許可してくれた。
 しばらく二人で森の中を歩くと、真田さんは突然止まりこの近辺で探そうと思っている、と言った。

「では探しましょうか。この辺りは風通しが良くて日陰もありますし、涼しいですね」
「うむ。これなら体力もすぐになくなることもないだろう」

 あ、もしかしなくてもこれは私がいるからこの辺にしようと言ってくれたのだろうか。第一印象は怖そうだと思っていたが、優しい人なんだ。
 私は真田さんが持ってきた図鑑をパラパラと捲りながら足元や木の根元付近を探してみる。

「岡峰、これは食べられるキノコか確認を頼みたいのだが」
「はーい、えーっと、これは、あ、アカヤマドリというキノコみたいです。結構美味しいみたいですね」
「では採って帰るか」
「たくさん自生してますね、持って帰れるだけ採りましょう」

 私は真田さんが見つけたキノコを一緒にかごに入れていく。このキノコはかなり大きい。かさが20センチくらいはありそうだ。
 大体採り終えると、2つ持ってきたかごの内1つがいっぱいになってしまった。
 このアカヤマドリっていうキノコは初めて見たけどどういった食べ方があるんだろう。

「他にも探してみるか」
「そうですね」

 荷物になるかごは一旦置いておき、2手に別れて近場を探しすことにした。
 暫く探していると茶色いキノコを発見した。
 とりあえず食べられるかを確認しようとキノコ図鑑で探すと、あった。オオツガタケ、というらしい。食用だ。しかもこれまた結構量がある。

「真田さーん、食べられるキノコ見つけたのでかごをちょっと持っていきますねー」

 真田さんに聞こえるように声を張り上げてみる。聞こえただろうか。かごを置いた場所まで戻り、それを持って先程の場所へ戻る。
 採集していると後ろから真田さんの声がした。

「岡峰、どこにいるー!」
「はあーい、こっちです!」

 声がしたため少し待っていると、真田さんが現れる。そしてキノコを見ると おお、と声をあげた。沢山生えているから驚いたんだろうか。

「俺も手伝おう」
「ありがとうございます」
「礼を言われるようなことではない」

 そう言って真田さんは黙々とキノコを採ってはかごに入れる。
 疲れたな、と思う頃には持ってきたかご2つはいっぱいになっていた。

「すごい、沢山採れましたね」
「ああ、一人ではより時間がかかったろうから助かった。 時に、岡峰は料理が得意と聞いたがこの大量のキノコはどう調理する?」
「えーっとですね、さっき図鑑を見たときは、アカヤマドリは炒め物がおすすめと書いてありました。このオオツガタケは汁物、煮物、炒め物が良いそうです。なのでアカヤマドリはほかの野菜と炒めて……バターが確かあったはずだから、これでキノコには不足しがちなカロリーも補えるし、オオツガタケは歯切れが良いとも書いてあったので煮物にしましょうか」
「岡峰の料理はうまいだけではなくそこまで考えてくれているのだな……助かる」

 まさかそんなことを言われるとは思いもせず反射的に とんでもないです!と言ってしまった。ここに私がいること自体ご迷惑になっているだろうに。憎まれこそすれ感謝されることはないと思ってしまう。

「なに、十分に助かっている。お前は少し自尊心が低すぎるのではないか」
「……先程柳さんからも似たようなことを言われました」
「そうか、蓮二からも」

 言われるのが2人目ともなると少し焦ってしまう。
 私は今回真田さんに聞きたかったことを聞いてみることにした。

「真田さん、うまく怒る秘訣とかってないでしょうか」
「何だ、藪から棒に」
「ジローさんに、寝ぼけて、その……変なことしたら怒って、と言われまして」
「ふむ、お前から見ると芥川は年上だからな、難しいのは分からんこともない。 が、ちゃんと言わねばならんこともある。そういった時どう伝えるか、ということだな」
「そう、ですね。そうなんですけど、私、怒ったことも怒られた経験も無くて」
「覚えていないだけではなくて、か」
「ない、と思います」

 なるほど、と真田さん。真田さんがかごを背負ったので私も続こうとすると制止された。もう一つも真田さんが抱えてしまった。 戻るぞ、と言われたので私も真田さんに続く。

「なにも怒ろうと思わなくても、自分のしてほしいことや相手の間違ったことをお前の言葉で伝えるのは難しいのか。 ちゃんと伝えれば相手もそれなりの対応をしてくれるだろう」
「なるほど」
「怒るという行為もだが、説得や注意といった、いわば交渉は相手が行動を変えてくれるという期待のもと行われるものだ。お前はお前のやり方で説得すればいい」
「わたしのやり方で……。 そう、ですね!ありがとうございます、真田さん。真田さんの相談して良かったです」

 そうか、ジローさんは怒って、と言っていたが、寝ぼけて変なことをされたのならちゃんと起きてもらって、変なことをしないようお願いすればいいんだ。もしくは寝ぼけないように工夫すればいい。

「しかしお前の場合、もう少し自尊心をどうにかすべきなのは明白。もっと自分を評価せんか」
「しっかり評価していると思っていたんですが……難しいですね」
「そうだな、お前は他の者よりもこれだけは勝っていると思うことはなんだ」
「受験の面接みたいですね……! そうですね、料理はそれなりに、同年代の人よりはできると思います」
「そういう控えめすぎるところがいかんというのだ。謙遜も過ぎれば卑屈や嫌味にも聞こえるぞ」
「は、はい……!」

 謙遜というつもりはなかったが、そうか、卑屈や嫌味にとらえられることもあるかもしれない。自信を持ちすぎることもどうかとは思うが、なさすぎるのも真田さんの言う通り、卑屈だ。

「真田さん、私頑張りたいです……!自分に自信を持つためにはどうしたらいいでしょうか」
「良い心がけだ。まずは努力を惜しまん事だ。そしてそれに見合った評価を受けたときは素直に受け止める。そしてそれを励みにまた努力を続けることだな」
「はい!」

 いい返事だ!と言われたので ありがとうございます!と言った。その調子だ、と褒められた。真田さんはこういう動機づけさせるのがうまいのかもしれない。本当にいい人に相談して良かった。
 そんな話をしていると合宿所が見えてきた。戻って食料庫に今回採集したキノコを置き、もう一度 ありがとうございました、と深々と頭を下げた。真田さんは少し照れくさそうにしていたが 構わん、と言ってくれた。格好いいなあ。
 真田さんと別れた後、なんだか気持ちが晴れやかになって私でも手伝えそうな作業をしている人を探していると、遠くの方から真田さんの 赤也ーーーーー!という声が響いた。少しだけ笑ってしまった。


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