ジュードたちがバンエルティア号へ来て一ヶ月、ジュードたちは船内中の評判になっていた。
その理由の多くが「よく我が儘坊ちゃんの相手を嫌な顔一つせずに耐えられるな」とのこと。
そんなことを言われジュードは苦笑いしすることしかできなかった。耐えるも何も、ジュードにはルークが可愛く思えたのだから、むしろルークの相手を好いてやっているほどだ。もちろん年上の男に対し可愛いというのは少しおかしい気もするが、ジュードにはそれ以外ルークを形容する言葉が見つからなかった。
確かにわがままで少し困った言動をするのだが、それ以上に一緒にいるとそんなものが気にならないほどルークの綺麗なところが見える。
ジュードはそれを見つけるのが密かな楽しみとなっていた。
「ジュード!」
「どうしたのルーク?」
そして今も人見知り、とまではいかないが他人と接することが苦手なのに、ルークが珍しく笑顔で話しかけてくる。何かいいことでもあったのだろうか。その笑顔のおかげでなんだか自分まで笑顔になってしまう。ジュードの顔は自然と綻んでいた。
「(……なんでこんなに心が踊るんだろう?)」
ふとした疑問をジュードは まあいいか、と放っておくことにした。
「あのな、お前の許可が降りてお前とライマの誰か一緒なら俺、クエストに今までよりもいっぱい行って良いって。 もちろんいいよな?」
「いいけど、誰が言ったの?」
「ヴァン師匠! とかガイとか」
楽しそうに何のクエストに行こうか、とルークがジュードに持ち寄る。ジュードの先ほど浮かんだ疑問など頭からなくなっていた。
「なるべく簡単なクエストにしよう、ルーク。 あ、これなんかどう?」
「ま、俺はなんでもいいんだけど。んじゃアンジュに言ってくるな!」
「うん」
ルークの後ろ姿を目線だけで見送ったジュードは自分が自然と笑っていることにようやく気づいた。ジュードはそのニヤついた頬をひっぱった。それからパン、と頬をたたいてみた。それで治っているかはわからないがジュードはとりあえず息を吐いた。
「きゃあ! ルーク?!」
突然ホールから聞こえたアンジュの声に心臓がわしづかみにされたような気がした。
どう考えてもいい予感がせず、一目散にホールへと急ぐと、そこには倒れ込んでアンジュに呼びかけられているルークがいた。近くに寄ると眉間にしわを寄せ顔は真っ青で脂汗が滲んでいる。あの頭痛だ。ジュードはすぐに察した。しかも今回はかなり酷いようだ。
ジュードはすぐにルークの手を握った。
「ルーク、ルーク!聞こえる? 聞こえたら僕の手を握り返して!」
耳元で声をかけてもピクリとも動かないルークに冷や汗が出た。
急いで医務室へ行き、アニーに呼びかけ担架を出してもらうと一緒に再びホールへと戻った。ルークをゆっくり担架に乗せ医務室へと運んだ。
***
ルークの頭痛は軽度のものから気を失ってしまうほどひどい時もある。今回は後者だったようだ。
「ん…っ」
「ルーク……っ、良かった、今回は特にひどくて、もう、心配だったんだから……」
ルークが起きるとルークの左手をジュードが握っていた。ジュードはルークが目を開いたのを確認するとルークの寝ているベッドに頭を落とした。ぼうっとする頭でルークはこれまでのことを思い出した。
「あっ…クエスト……!」
「ルーク、だめ。 しばらくはクエストを控えて……」
「嫌だ!折角行ってもいいって言われたのに!」
「ルーク……!ダメなものはダメなんだよ! これでクエスト中に倒れでもしたらどうするのさ!」
「何だよっ、いつもいつも……」
ギリっという音がした。ルークが悔しさからか歯を食いしばったのだ。
「…ごめんね、頭痛の原因がまだわからないから……」
「……ほんとにあると思ってんのか?」
「え?」
「どうせ…どうせお前だって本当は俺のこと仮病とか思ってんだろ!?」
突然声を荒げたルークにジュードは驚き、少し目を見開いた。
「…ルーク? ど、どうしたの?」
「俺のことを診てきた医者はすぐ仮病だって決め付けて!そのせいで俺はガキの頃から周りの奴らにかまってちゃんとか思われて!終いには霊に取り付かれてるなんて話も出てきて!ふざけんな!! どうせお前もすぐ俺を仮病だとか思うんだよ!全く情報がないんだもんな!!」
左手を握っていたジュードの手を振り払うとルークはジュードを睨んだ。その目にはうっすら涙さえ浮かんでいた。それにジュードはルークの心の傷の大きさを漸く理解した。
ジュードは振り払われたルークの左手をもう一度握った。
「僕はルークが辛そうにいてるのも見てきた。今日だってそうだ。 それをどうして仮病だって思えるんだよ!」
ルークの目を真っ直ぐ見据えて言うジュードにルークは言葉が詰まった。ルークも今までの医者とジュードは違うと気づいていた。だがどうしても過去のことが脳裏をよぎるのだ。どうしようもなかった。ルークは咄嗟に目をそらしてしまった。
確かに今までの医者といえば名ばかりの営利目的でルークのことを診ていた者も多かった。王族を診ることが出来るほどの名医という肩書きだけでルークを診てきたと言っても過言ではない。
幼い頃からのそのような医者のイメージがこびりついているせいでそのイメージをルークは払拭できないでいた。
「今までルークを見ていたお医者さんはどんな人かは知らない、知りたくもない。でも、僕はルークの力になりたい。 それだけは信じて欲しい」
「俺の力に……?」
「うん。僕、ルークが好きだから。ルークが苦しんでる姿を見たくないんだ」
ジュードはそう言ってからああ、そうかと自分の気持ちを理解した。ルークが好きだったのだ。だからルークの力になりたいしルークが笑うと自分もつられて嬉しくなるのだ。
ルークは俯いた。その顔は耳まで真っ赤になっていた。
そしてジュードが握っている左手を小さな力で握り返した。
「…し、信じてやる……よ……」
ボソボソというルークにジュードの心臓がどきりと高鳴った。ジュードはルークを抱きしめた。
ルークの頭痛の原因は未だわかっていない。
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