記憶の行方 | ナノ





始まりはいつも唐突だ。
ルークはいつものように、暇だ暇だ と呟きながらバンエルティア号の中をウロウロとほっつき歩いていた。
昼過ぎということもあり、食事をとったギルドの者たちは各々が受けた依頼を片付けるため船から出ており人気はない。ルークはそんな中食堂へ行ってみると、クレアが困った様子だったので事情を聞いてみた。なんでも船倉に食器があってそれを取り出したいのだがリリスもおらず、かなり量が多いため自分とロックスだけでは心許ないとのこと。
なんでもコレットが”また”割ってしまったらしい。昨日の時点で頼んでいたギルドから届いてはいたのだが夜遅かったということもあり、とりあえず船倉に入れておいたのだという。
朝、昼まではなんとかなったらしいが夜は混雑することが考えられるため、少し重いけど出来れば運ぶのを手伝ってほしい、とのことだった。ルークはしかたねえな、とぶつくさ言いつつも、一人でやってやるよ! とクレアに言い放った。
クレアは少し心配していたがそれを払いのけ、ルークは船倉へ向かった。船倉は埃だらけでルークはイライラとしながらも、まだ埃被っていない少し大きめの二つ積まれた箱を見つけた。二度も船倉と食堂を往復するのが面倒だと考えたルークは二つの箱を一度に持ち上げようとした。
だがそれはルークの思っていた以上に重たかった。仕方なくルークは一度に運ぶのを無理だと考え、今度は一つだけを持ち上げた。
一つだけでも十分に重たく数メートル運ぶだけで息が上がったが、漸くそれを一つ食堂に運び終わってさて二つ目だ、と心配するクレアを他所にもう一度船倉に戻り、二つ目の箱に手をかけた。その時だった。
ガンガンと突然形容し難い激痛がルークの頭を襲った。頭の中を鈍器で打ち付けるような痛みにルークは片膝を折り、その場にへたり込んでしまった。
頭痛といえばルークには昔から縁が有り(ルーク曰くこんな縁欲しくないというが)もはや慣れつつあったのだが、この時ばかりはさすがのルークも屈するしかなかった。
助けを呼ぼうにも誰もいないこの時間帯。いや、いたとしてもこれは誰にも治せない。自然に収まるのを待つしかない。だが今回は、
ルークは頭を抑えたまま倒れた。

***

ルークが目を覚ますとそこは船倉ではなかった。どこだ、と周りを見渡すとそこには見知らぬ少年と少女がいた。

「君は…?」
「あ、起きたんだね」
「お、おはようございます…」

少女は恐る恐るとルークに近づき、頭をペコリと下げた。ルークたちがいるここは医務室だった。

「初めまして、ルーク。僕はジュードっていいます。こっちは僕の助手のエリーゼ。 僕たちはルークが倒れたって言われて今この船が停泊してる街から駆り出されたんだ」
「…っていうことはお前ら医者か? 見るからに俺よりガキじゃねーか」
「ガキじゃないよぉーーー!!!」
「?!」

突然エリーゼの後ろから紫色の人形が現れ、ルークの頭に勢いよく噛み付いた。

「ティポ!ダメだよ!」

ジュードが咎めるとティポと呼ばれた人形はブーブーと言いながらルークから離れ、エリーゼの元へと戻った。

「なっ、何だよそいつ! お前人形士[パペッター]か?!」
「ぱ、人形士…? ち、違います……」
「じゃあそれは何だよ!」
「ルーク落ち着いて、あんまり興奮すると体に障るよ! …ティポは中の仕掛けで動いてるんだ」
「ティポは私の友達なんです…!」
「はぁー?人形が友達とか暗い奴だな!」
「ルー君ひっどぉいよぉー!」
「誰がルー君だ!」
「はいはい、そこまで!」

ジュードが二人と一体を宥めると二人はまだ納得していないようで頬を膨らませていた。
するとその時医務室の扉が開いた。外からは老紳士と男性が入ってきた。

「ジュードさん、部屋の方は片づけましたよ」
「お、そいつが例の王子様?」
「…誰だ?」
「ああ、初めまして。私はジュードさんの家で執事をしております、ローエンと申します」
「俺は今回雇われた傭兵、アルヴィンだ」

軽く挨拶をする二人にルークはぽかん、とその二人を見ることしかできなかった。だがすぐにローエンと名乗った老紳士の言ったことを思い出した。

「…つーか、部屋を片したって…」
「あ、そうだ 。僕はルークの意識が戻ったって伝えてくるね」

ジュードはルークに安静にしておくように言うと医務室から出て行った。何をしに行くのかと思えば暫くするとガイ、ティアとアンジュを連れて帰ってきた。

「ルーク、大丈夫だったか?」
「全然平気じゃねーって。マジでヤバかったもんな」
「話は聞いたわ。クレアの手伝いをしようとしたのは立派なことだけどあまり無理はしないで」
「……るっせーな。わかってるよ」
「ええっと、このように今は落ち着いていますがまたいつ頭痛が起こるかわかりません。 その度に鎮痛剤を投与することはできますが…」

ジュードはルークの様子を説明しているようだが正直ルークには興味がわかなかった。自分のことではあるがルークはそれこそこれまで世界各国の名だたる名医に診られてきたが、その原因が分かったことはない。
最初は原因究明のため研究する医師も居たが半年持ったら良い方。何せルークの頭痛には手掛かりが一つもないのだ。
医者が続々と匙を投げていく中とうとうルークは城の中で仮病扱いされるようになった。決して直接ルークの耳には届かないように、ではあるが。
だからこそ、ルークはどうせ治らないのだと興味がわかなかった。世界の名医がわからなかったのに、ましてジュードのような少年にわかるとは到底思えなかったのだ。

「…というわけで、しばらく僕たちは暫くここに留まることにします。 彼の頭痛を治してあげたいんです」
「むしろお医者さんが来てくれるなんて大歓迎よ。 あ、この船に乗るってことはギルド員として働くってことになるけどいいかな?」
「勿論です。多少腕には自信があるので」

そして今回もどうせ。ルークはそこまで考えるとなんだか面白くなくなってジュードに心の中であっかんべえをした。

「(どーせお前もそのうち俺のことを仮病なんていうんだ!)」
「ルーク、お世話になるんだから挨拶をしておきましょう」
「は?必要ねぇよ。 だってこいつ俺のこと知ってたし」
「そういう問題じゃないのよ」
「まぁまぁ、ティアも落ち着けって。ルークもほら、宜しくくらい言っとけ」

ルークははぁ、とあからさまに溜め息をこぼしジュードによろしく、とだけ言った。ジュードはこちらこそよろしくね、と微笑んだ。

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