失われた焔 | ナノ





「ひーまー」

バンエルティア号の一室でソファーにふんぞり返って朱髪の少年は呟いた。その声に同室の金髪の青年や長髪の少女は溜め息を吐いた。
と言うのも朱髪の少年、ルークは事ある毎にわがままを言ってくれるのだ。これでもライマ国王位第一位継承者なのだが、本人に自覚はなく(自分の地位を盾に色々わがままを言うのだからある意味自覚はあるのかもしれないが)よく周りにその機嫌の悪さをまき散らしている。
これには使用人兼親友も頭を悩ませており、素直でない性格をどうにかしない限りは王位は彼の弟と本当にどちらに渡るかわからないと周りからも言われている。

「ガーイー!暇だー!どっか行きてー。」
「どっかって言われてもなぁ…。」

ハハ、と苦笑いしながら頭をかく金髪の青年であり、使用人兼親友のガイはまたか、と心の中で呟いた。
こういうときはルークの尊敬している剣の師匠であるヴァンが宥めるのだが、ルークといえば今ヴァンが不在であることを良いことにソファーをバンバンと叩いている。少女、ティアはそんなルークに片手で頭を押さえながらはぁ、と再び溜め息を吐いた。

「ルーク、あなたはもう少し自覚するべきだわ。」
「あー?何のだっつの。」
「あなたはライマ国の王位第一位継承者だってことよ。」
「ちっ、うぜーな、わかってるっつーの。」

ふん、とそっぽを向く姿はその年より幼く思わせる。悪い意味で、であるが。ルークはティアの注意(ルーク曰く小言)をいつものように軽く聞き流していた。

ルークは城にいた時からよくこうして暇だということを訴えていた。ルークも他の者のようにクエストを受けられるならこうも暇ではないのであろうが王位第一位継承者という肩書きが邪魔をし、なかなか受けさせてもらえないことが多かった。目の前でクエストを受けたり、クエストの事を話す仲間がいるとそれがまたルークのわがままに拍車をかけていた。

「俺も外に出たいんだよ!」
「まぁ、しょうがないよ、こればっかりは。」

仕方ない仕方ないと言われようが、ルークにとっては仕方ないでは片づけられない。
この船に来たときはこのバンエルティア号にも何か暇つぶしがあるのではないか、と期待を膨らませたものだがそんな期待はあっさりと打ち砕かれた。人が住むのに最低限の設備しかないのだ。

「(剣の稽古もしたいけど……。)」

以前クレスとロイドが稽古をしていたのを見たが、混ぜてくれ、と言えなかった。誘われて嬉しかったはずなのに一度はそれすら拒んでしまった。ルークはとにかく素直でないのだ。
せめてもう少し素直になればルークも多少なりとも暇ではなくなるのではないか、とガイも一時期ではあるが考えた。だが、人の性格ほど変わりにくいものなどないだろう。特にルークでは。そうガイも最早ルークの性格が変わるなど諦めている。

「そうだなぁ、まぁ、こうも何もないとルークじゃなくても嫌になるよなぁ。」
「だろぉ?!」
「ガイ!」
「まぁ良いじゃないか。ティアだってルークがいつまでも騒いでると嫌だろう?」
「何だよ、騒ぐって!」

ルークはガイの言葉にむ、と頬を膨らませたが数少ない味方だとそれ以上文句は言わなかった。むしろティアに目を向けてどうだ、と言わんばかりの顔をした。

「少しくらいクエストに行ったって良いんじゃないか?」
「…もう、ガイはルークに甘いわ。」
「んなことねーって!いいだろ?」
「わかったわ、その代わり私も一緒に行くけど、構わないわね。」
「外に出られるなら誰が来ようと構わねーって!」

先程とは打って変わって外へ行く準備をするルークは楽しそうで。(本人に楽しそうと言うと否定されるが。)だが素直に嬉しいと言えない彼が二人には哀れに思えた。
ガイがギルドのリーダーであるアンジュに許可をもらいに行くとティアも外へ行く準備を始めた。

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