ジンクスの証明方法 「は?今なんて?」 問い返したのは、別に聞こえなかったわけじゃない。寧ろ聞こえ過ぎた。聞こえなかったことにしたいほど、明瞭と。 「だからさ。文化祭、悪いけど一人で回ってくれよ。人混みは疲れるんだ」 「え、だって、え?」 なんだよそれ? だって約束したじゃないか。 最終日の今日だけは、一緒に回ろうって。 「榎さんに出会さないように、精々気をつけたまえ」 振り回されて疲れては可哀想だからねと中途半端な同情を寄越して、中禅寺は関口の目前から立ち去った。残された関口はただ茫然と、その背中を見送った。 「…なんだよそれ。嘘つき」 これでもう幾度目かになる科白を呟いて、関口は立ち止まった。 周りは華やかに飾り付けられ、擦れ違うのはカップルばかり。 「あ、後夜祭…もう始まるのかな」 後夜祭といえばキャンプファイアー、文化祭といえば恋のジンクス。 今年こそは、とそう思ったのに。 今年こそは、君と恋のジンクスを証明してやろうと思っていたのに。 知らず知らず、関口の頬を温いものが伝う。 「もういい…あんなの、もう、しらない」 ふらふらと歩き出した足は、重く。 気付けば、関口は人混みに流されていた。 意識がトリップしそうだ。 くらり、 視界の黒白は反転、 彼の声は矢鱈遠く、 ふわり薫った仄かなぬくもりに包まれて、天地は一体化。 目を醒ました時、真っ先に視界に映ったのは、夜に咲く大輪の花々。 「目が醒めたかい。もう暫く寝ていた方が良い」 そっと額に掌が載せられる。冷たいのに、あたたかい。 「此処、何処…?外、じゃない、よね」 「ああ、此処はね、2年E組の隣の空き教室だ。君が今日はどうしても来たいと言っただろう?」 「ぅああ…うん」 あれ、そう言えば。 中禅寺は何故か浴衣を着ている。 凝乎と見つめていると中禅寺は苦笑いで、 「クラスの出し物の衣装」 と言って衿を少し寛げた。 「この部屋に、さ。ジンクスがあるんだ。…君は笑うかもしれないけど、」 「笑わないよ」 笑わないよ、と中禅寺は微笑む。 「こんな可愛い君を、どうして嘲うものか。恋のジンクスを証明しようだなんて、可愛い」 「なっ、君っ、気付っ…!?」 「さっき聞いて知ったのだけどね。 『文化祭最終日の花火をB棟二階の空き教室から好きな人と二人っきりで見ると、その人とキスできる』 だったかな? まあよくも可愛いことを」 仕出かしてくれたな───と呟いて、中禅寺は太腿に載せていた関口の頭に屈みこみ、その頬に口接けた。ちゅ、と小さくリップノイズを立てて唇が離れる。 「何もそんなジンクスに頼らなくても、僕は何時だって君にキスしたくて堪らないのにね」 「ちゅ、ちゅちゅちゅーぜっ…!!」 「僕は鼠じゃないよ」 ぼんっと音がしそうなほど勢い良く顔を赤く染め、関口は中禅寺の手を握る。 「あの、ね、僕、君のこと、大好きなんだ。」 小さな告白に、知ってる、と中禅寺は優しく微笑った。 Fin. 糖度250%(当者比。 友人がなんか読みたいと言ったので書いた三題噺。 使い回しじゃない有効活y(ry お題は 『学パロ・文化祭・あまーい!』だった(笑) H23.05.07. [*prev] [next#] |